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兆し 【第二章イメージ 天野月子:聲】
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何度も何度も繰り返す日々。
少しでも何か成果があれば努力のしがいもある。
だが残念ながら、奏にその兆しはまだ見えない。
「あ~、いたいた!こんなとこにいたの!?」
「!ベルゼ…さん」
奏が悪魔としてアスタロトと共に生活し始めてから何度月が登っただろう。
ある時ふと目覚めた彼の背中に黒く小さい貧相な羽根が生えていた。
それは悪魔としての成長と共に大きく変化するものだと教えられ待っていたが、いつまで経っても奏の羽根に変化はない。
そんな自分自身の存在に違和感を募らせていた奏はたまらなくなり、ある日とうとうアスタロトの住処を抜け出してしまった。
ベルゼブブが彼を見つけたのはそれから2日後の事だ。
「"さん"はいらないってば、ベルゼでいいよ。それで?」
「……?」
「……。だからオマエがここにいる理由!なんでアスタロトの所から逃げ出したの!?お陰でこっちにまで飛び火してるんだからヤメてくれる?はっきり言って迷惑!」
「ご、ごめんなさ…」
「あ~あ~!謝るくらいならさっさと戻る!ほら行くよ!」
「っ、嫌だ!」
「はぁ!?いい加減にしなよ……。ッこうなったら実力行使だ…オマエの意見なんてどうでもいい!」
「え!?うわ…っ!ちょっと!?」
「も~!抵抗しないで大人しく脱げ!」
ベルゼブブは奏の服に手を掛け、グイッと背中を捲り上げ肌を露出にさせようとした。
だが奏はもちろんそれを拒む。
「アスタロトに見せられないならボクが見てやるって言ってんの!」
「で、でも…!」
「でもじゃない!少しでも動かせれたら後は簡単なんだから!それで2度とこんな下らない事に巻き込まないでよ、ね!」
「あっ──」
しばらく押し問答を繰り返していたがとうとうシャツをたくし上げられ、奏の白くしなやかな背中が露見してしまった。
そうすると目に付くのはやはり"貧相な物"だ。
「ワォ、想像以上に小さい。まだ生えたて?」
「……もう半年」
「え!そんなに経つのにまだこれだけ!?しかも動かせないの!?」
「…………」
傷口に塩を塗るとは正にこの事。
半年ほど前、奏の背中に生えかけた黒い翼は彼が悪魔である証にだった。
しかしいくら待てど大きさは変わらず、挙句の果てにどんなに努力したところでまだ一度羽ばたきを見せない彼の翼はまるで飾り物だった。
人間には戻れず悪魔としても否定されたような立場にいる自分がアスタロトの側にいて良いはずがない。
自分の背中に生えたこの翼を見る度、心の中がそんな想いで満ち溢れいたたまれなくなる。
それが募るに募り、奏はアスタロトに黙って家を出てきたのだ。
「まぁ原因はいくつかあるんだろうけど、その中でも大半を占めるのがオマエの未熟さだろーね」
「未熟さ…?それってどうすれば…」
「悪魔の存在意義は?」
「人を…騙すこと?」
「ウ〜ン、それはちょっと違う。人間の本性を解放してやる事だよ。つまりそれが望みを叶える事でもあり、契約と繋がる。ボク達はみんなそれを経験してるけど、オマエはまだでしょ~?だから悪魔として未熟。翼はその者の力を象徴する部分でもあるから、今の状態は正当なんじゃない?」
自分もいつか誰かと契約を結ぶのだろうか?
ベルゼブブの話に耳を傾けながら、奏はまだ想像もつかない"いつか"へ思いを巡らせた。
「僕に…できるのかな…」
「できるかどうかじゃなくてやるの。でも今のオマエに必要なのは、その小さな翼を羽ばたかせる事でも不安を抱えることでもない。アスタロトの側にいる事。そしてあらゆる事を学び、後にそれを自分のものにしていく。それが今のオマエには精一杯だよ。そうでしょ、アスタロト?」
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