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「僕が今こうしていられるのはあんたと居たいって願ったから……ただそれだけ。長年あんたに仕えてる悪魔達みたいに力もないし何の役にも立たない。その上こんな姿なんじゃ、あんたの格を落とすだけだろ…」
「……分からん奴だな」
「分かってないのはアスタロトの方──ッ」
性急な唇を奪われ奏は言葉を飲み込んだ。
そしてその代わりに熱く濡れた溜め息が溢れる。
「今こうしてオレの側にいるのはオレがそう望んだからだ。その気になれば、お前の望みなどいくらでもねじ曲げられた。誇りに思え。お前はオレを手に入れたんだ」
「誇り…か」
「ああ。己の魂を穢す人間はご万といるが、悪魔に成り得た人間はそういない。お前にどんな力が備わり、どんな悪魔になってゆくのか……これからが楽しみだ」
奏はまだ生まれたての赤子も同然。
真っさらで何の方向性も身についておらず、人格としても人間の頃と何ら代わりはない。
歪な色に染まるも純真無垢なままの姿でいるも本人の意思一つだ。
「僕は……誰も不幸にはしたくない。むしろ、本当に困ってる人の役に立ちたい」
「ならば知識と力を備えろ。契約者の全てがお前のように真っ直ぐな願いを持っているわけではない、中にはオレ達を欺こうとする者もいる。時には知略も必要だ」
「……うん」
"じきに夜が明ける"
薄明かりの空を眺め、アスタロトは彼にそう呟く。
それは彼らにとって住処に戻る合図のようなものだ。
まだ見ぬ自分の行く末に不安と期待を秘め、奏は自分の肩を抱く腕に身を預け、二人の姿は闇に溶け込んだ。
「……なぁ。あんたの翼……見せてくれない?」
部屋に戻った奏は開口一番にそうせがむ。
だがアスタロトはそれが不思議でならなかった。
自分との違いを敢えて目の当たりにするのは劣等感を強める意外の何でもない。
「そんなもの、見てどうする?」
「見たいんだ。あんたの翼、すごく綺麗だから」
何度かアスタロトの翼を見たことがある。
それは鳥でも蝶でもなく、強いて言うならコウモリに似たもの。
もし子供が見れば"ドラゴンみたいでカッコイイ"と言いそうなものだ。
しかし奏の目には美しく高貴なものに映り、何より彼の力を象徴するものと感じていた。
「……いいだろう。だがお前のものも見せろ」
「!?」
「オレが見たいと言ってるんだ。もし拒むならそれはフェアじゃない。どうだ、悪魔らしい取り引きだろう?」
奏にとってアスタロトの"お願い"はあまりに強引で脅迫じみていた。
半端者の自分にあえて"悪魔らしい"態度を求め、それを断わるなら自分は本当の半端者になるのだろうと奏の意思を操る。
そして奏は彼のなすがままだ。
「あっ……」
奏の返事も待たずに鎖骨をなぞるアスタロトの指先はやがて、彼の肩を撫でながらシャツをはらりと床に落とす。
冷たく情熱的なアスタロトの眼差しに射止められ抵抗すら忘れていた奏は、自分の翼が露見した事を認識して固く瞼を閉じた。
──もし、嫌われたら?
そんな不安が奏に拳を作らせる。
「ほう……。まるで"天使"だな」
「え…っ!?前に見た時はそんなんじゃ…」
「それは随分前の話だろう?オレのものとは違う、鳥のような羽だ。見てみろ」
アスタロトに諭され恐る恐る背中を返り見ると、そこには確かにふわりとした艶のある黒い羽根があった。
「なんか……鴉みたい」
「カラス?ああ、確かにハルパスのものと似ているな」
「ハルパス…?」
「死と破壊の悪魔だ」
「っ!!それって僕も同じような悪魔になるって事…!?」
「いいや。例え形が似たところで同じ能力が備わるとは限らん。お前はお前だ。ゆっくり吟味して決めるといい」
死と破壊。
奏が最も忌み嫌う悪魔と同じ翼を持つ彼がこの先どんな能力を得るのか。
それはアスタロトですら見通す事ができず、彼は様々な可能性に日々想いを馳せていた。
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