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「そう落ち込まないでってば~」
「……そんなの無理だよ」
「だよね~。カナデにとっちゃ、"奴らに消されにいけ"って言われてるようなもんだもん」
「インキュバス。ムシンケイ。」
「へぇ~。セーレ、そんな言葉知ってるんだ?」
「やめなさい、インキュバス。悪ふざけが過ぎます」
ルシファーから重大な役割の任命を受けた後、それぞれの隊の代表は別室に集められ、呼ばれなかった者は大広間で飲み食いをしながら決定を待つ。
しかし奏は用意されたワインやアルコールを悠長に楽しむ気分にはとてもなれず、広間の賑わいを他所に1人暗く沈んでいた。
それを見かねたルキフゲは部屋を用意し、知れた顔ばかりを集め彼の気が少しでも軽くなるよう計らった。
しかし結果は同じ。
奏はほとんど口を利かず、部屋のソファーに膝を抱え顔を伏せっている。
「それにしても随分無茶な作戦ですね。ルシファー様ともあろうお方が…」
ネビロスがこの場にいる全員の疑問を口にする。
理屈は通っているが何か腑に落ちない。
名案とも無謀ともとれる作戦は、長年彼らに仕えているネビロスですら疑念を持つ奇策だった。
「あ、それなんだけどな…。何の確信もねーんだけどよ、前に俺、ルシファー様にカナデの事を聞かれたんだ」
「カナデ様の事を…?」
「おう。真意は分かんねーが、どんな悪魔になったかって。今となっちゃ、なんか妙な感じがしたんだよなー」
思い起こせば違和感があった。
悪魔を牛耳る者として名前は知っているにしろ、彼が悪魔に興味を示すのは極めて珍しい。
ルキフゲがその時のルシファーの表情や口調を思い浮かべていると、それまで伏せっていた奏が少し顔を上げポツリと呟いた。
「僕……彼に嫌われてるから」
「え、どうしてそう思うの?」
「人間から悪魔になった異端者だからそう思うだけだろ。引け目を感じてるだけだ」
「そうじゃないんだ…。僕は……、誰も知らないの?」
奏の問いに4人は顔を見合わせたが、誰も持ち合わせていない答えを求め再び奏に視線を向けた。
「もしかして面識があるのか?」
「……うん」
「マジ?初耳なんだけど~。その時になんかあったの?」
「…………。彼は僕を知ってる。そして僕も…彼を知ってる。それだけだよ」
あの時の事を誰も話していない。
アスタロトでさえも。
それはあえて伝えていないのだと感じた奏は言葉を濁した。
取り分け話したい内容でも無く、知られていないならそのままがいいと彼自身思ったからだ。
「……とにかく。お2人が以前からの顔見知りであるなら、ルシファー様は故意にカナデ様を指名したように思えますね」
「ああ。カナデにしか出来ないもので、それでいて上手くいく保証は何も無い。てめー、よっぽど嫌われてんな?」
「…………」
嫌われているという表現では物足りない、憎しみや恨みのようなものすら感じ、奏は僅かに身を震わせた。
単純に消えて欲しいと思うのなら、ルシファーにとってそれは極簡単な事だろう。
しかし敢えてそれを選ばず、奏が悩み苦しむ難題を押し付け楽しんでいるように思えた。
羽根をもぎ取られ、蟻に群がられる蝶を面白がって見ている子供のように…。
「…!来た」
ドアに向けて発したセーレの声はその名を告げていない。
しかし奏にはそれが誰なのかすぐに察しがつき、顔を強ばらせた。
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