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金の稼ぎかた 4
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side Ryu
目の前で眠る人物を見つめる。
最後は意識が堕ち、風呂に入れてやっても目を覚まさず、少しヤりすぎたか…とも思う。
確かに、コイツは男を夢中にさせる。
体の線は情欲的、声は甘みを含み、感じてよがる顔は男を煽る。
しかし、こうして眠っている顔はまだ少しあどけなさが残るようだ。
初めてコイツ──白夜(ビャクヤ)を見かけたときの事を思い返す──。
蒸し暑い夜。昼間の熱気が漂う街の中。
ガゴン!という何かがぶつかる衝撃音。
久々に街に来ていた俺は、音のする方へと顔を向けた。
すると、路地裏から一人の男が跳ばされたように転がってきた。
上げた男の顔は、赤く腫れ上がり、血が流れている。
「ひぃっ…悪っ…悪かった…っ!許してくれぇっ!」
路地裏に向かって叫ぶ男。
喧嘩か?
ま、関係ねーか──と思いながらも、あんなに必死の形相で許しを乞う相手はどんな奴なんだ…と少し興味が沸いた。
頭の中では、顔がイカつく、体もデカく、さぞ喧嘩慣れしてそうな奴が出てくるんだろう──とそう思っていた。
タンっ…と足音を鳴らし、出てきた人物。
想像とはずいぶんはずれた、その容姿に──俺は一瞬にして目を奪われた。
歩くたびに、ゆれる銀髪。
絹糸のような艶やかな髪は、月の光りを浴び、きらめく。
整った顔立ちは、見るものを惹きつける。
「ーーえ?……白夜?」
一緒に街に来ていた祐輔(ユウスケ)が、珍しいものを見たかのような顔をし、そして
「白夜?」
隣に立つ明良(アキラ)が首をかしげ、ふしぎそうに再び銀髪のそいつへと視線を移す中。
俺はずっと、銀髪から目が離せなかった。
ゆっくりと男に近づく、白夜と呼ばれるアイツ。
「許しっ…」
「死ね。」
冷めた目。
その目にゾクリ…と背筋が寒くなる。この、俺が。
だがそれと同時に、体の中に熱がこもった。
軽やかに回し蹴りを男の顔面に決める白夜。
男は意識を失ったのか、ぐったりとその場で動かなくなる。
そんな男を一瞥した白夜は再び路地裏へ消えて行った。
「うわ…。初めて見た…」
珍しい祐輔の興奮顔。
「…何モンだ?アイツは」
最後まで目が離せなかった俺は、アイツの姿が消えたことでようやく祐輔を見る。
「すげぇベッピンな奴だったぁ!
誰、誰~?」
明良も興味が沸いたのか、祐輔に飛びつく。
「…白夜。
あの銀髪がまるで太陽が沈まない夜みたいだから、そう呼ばれてるみたい」
祐輔は情報屋だ。
人の秘密を知るのが好き、という悪趣味なものが、いつの間にか情報屋なんてものになってやがった。
頭の中には、ありとあらゆる情報がつまっている。
「年齢不詳、名前も分からない。
一見あんなナリだけど喧嘩も強く、舐めて近づくとあの男みたいにボコボコにされる」
「へぇ~、謎だらけ!喧嘩強いって、誰彼かまわず~?」
「いや、普段は大人しいよ。
商売の邪魔や、ルール違反した奴がボコボコにされんの」
「商売?ルール?」
何それ…と、明良は不思議な表情を浮かべる。
俺もイマイチ意味がわからない。
「¨売り¨だよ」
「へ?」
は?売り…?って…
「売春…ってことか?」
ずっと黙りこんでいた俺は、祐輔にそう問い掛けた。
「そう。しかも男専門の」
「まじっ!?」
明良ち同様に俺も驚きで、目を見開く。
「男相手に、体を売ってるみたい。
まぁ、あの容姿だから、裏じゃ人気すごいみたいだよ」
脳裏に、さっき見たアイツの姿が浮かぶ。
「…詳しく聞かせろ」
「なに、隆盛。興味持ったの?」
クスクスと笑う祐輔を睨む──が、本人はケロリとしている。
顎で先を促すと、祐輔は話し始めた。
半年ぐらい前から、白夜、と名乗る人物が三つの街で話題になり始めた。
人が集まり蠢くなか、一際目立つ銀髪。
人はみな惹きつけられるように、一度は必ず立ち止まる。
¨表¨では、街のなか、ただ佇む白夜の姿が目撃される、ということ¨だけ¨有名だった。
しかし¨裏¨では、白夜を¨買える¨ことで有名だった。
白夜が見られるのは、東区か、西区、南区の街。
この中央区には姿を見せない。
だから、実際俺も目にしたのは初めてだ──と祐輔は言った。
白夜を買うには、ルールがある。
事前に買えるだけの金があることを見せること。
ヤる場所は必ずホテルで、自宅へは連れ込まないこと。
もちろん、代金は誘った者が持つ。
ゴムを1個一万で買わせ、生ではさせないこと。
金は前払い、調子に乗ってゴムを買い漁っても、使いきれなかった分の返金は、不可。
「うひゃー、めんどくさいルール〜」
明良が呆れたようにつぶやいた。
「それでも、買いたがる男が後をたたないんだよ」
「でもさぁ、そんなけ有名なら、俺らの耳に入ってもよくない?」
明良の言うことは最もだ。
今までそんな噂耳にしたことはない。
「それが、不思議ですごいトコなんだよねぇ」
感心したように、頷く祐輔。
「どういうことだ?」
「白夜には、¨白夜を自分のモノにしようとしてはならない¨ってゆうルールがあるんだ。
このルールを破ろうとしたら、本人にボコボコにされる。
ルール違反だからね」
地面に倒れる男はまだ目を覚まさない。
どうやら深く堕ちたようだ。
「この、¨自分のモノにしてはならない¨。
じゃあ、せめて自分¨たち¨のモノにしよう、と考える。
白夜を買った奴らは、言い触らそうとせずだんまりを決め込む」
「買った奴らが口外しないなら、なぜ白夜を買おうとする奴らが絶えないんだ?」
¨買える¨ことを言わないのなら、買えるなんて知らないだろう。
「でもさ?隆盛。
欲しくて欲しくてやっと手に入ったものを自慢したくなるのは、人間の性(サガ)じゃない?
だんまりを決め込んでも、自慢したい気持ちは抑えきれないワケ。
で、ついついポロっと出ちゃうんだよ。
¨白夜¨を¨抱いた¨ってさ」
「¨抱いた¨?¨買った¨じゃなく〜?」
首をひねりながら問う明良に、祐輔はそこがポイント、と笑った。
「そう。
¨買った¨って言わないのは、買う奴らを増やさないため。
¨抱いた¨って言うのは、自慢したいから」
なるほどな、と感心する。
祐輔は話を続けた。
「でさ?
自慢話を聞かされた奴は、白夜に興味を持つ。
もちろんソイツは¨買える¨なんて知らない。
自慢話を聞かされて、自分も試してみたいって思い始める。
必死になって白夜を探し、見つけ出す。
で、相手をしろって白夜誘う。
どうなると思う?」
「え?そりゃもちろん、誘われるままに、ついてくっしょ」
と、明良が当たり前のように言ったが。
「誘いには、のらない…か?」
用意周到にルールを作る奴だ──簡単に誘いにのるとは思えない。
「隆盛が正解~。
無理強いしようもんなら、ソイツもボコボコ」
「えぇぇっ、何でだよ。体売ってんだろ?
つーことは、客じゃん」
理解が遅いなぁ、もう。と悪態をつく祐輔。
そんな祐輔をじとーっと睨む明良。
「いい?明良。
さっき明良はめんどくさいルールだって言ったでしょ?
そのめんどくさいルールを守らない男は、白夜にとって客じゃない」
「じゃあ白夜がルールを説明すりゃいいじゃん」
明良…お前本当に頭の回転悪いな。と思ったが口には出さないでおく。
祐輔の視線が語ってるからな。
「めんどくさいルールを作る奴だよ?
しかも、かなり上から目線のルール。
そんな奴が懇切丁寧にルールを説明すると思う?」
明良はだってしないと客取れないじゃん、と言った。
「しねーだろうな。
誘うからには、ルールをわきまえてから来いってことだろ?」
俺の回答に満足げに笑う祐輔。
「隆盛の言うとーり!
白夜は客をきっちり選んでるんだよ。
自分にとって、必要なルールで固めてね」
へぇ、面白い。
「ますます興味が沸いたな」
「えー、なに?もしかして隆盛、白夜を買う気?」
明良の表情がおもしろそうに輝いている。
「¨自分のモノにしようとしてはならない¨──ね。
誰のモノにはならねぇってことか。
口説きがいがあるじゃねぇか」
ククっと笑いがもれる。
「あー…隆盛?
買う気満々なトコ悪いんだけど…さ。
肝心なルールがまだあるんだ」
気まずそうに、どこか悔しそうに俺を見る祐輔。
その表情を不思議に思いながら、なんだ?と尋ねた。
「白夜を買いたいって意味を含ませた、合言葉が必要なんだよ。
必ずこの合言葉を言わないと、他のルールを知っていようが、完全に断られる。
肝心要の、最大のルール」
本当に、どこまでも用意周到だな。
「で?その合言葉は?」
祐輔の情報屋としての能力は、信用している。
すんなりと情報を言うと思った──が。
「…分からない」
祐輔の口から今だかつてもれたことのない言葉が、耳に届く。
「…お前でも、分からないのか?」
再度尋ねると、コクン…と首を縦に振った。
──それで、さっきの悔しそうな表情…か。
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