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金の稼ぎかた 5
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「祐輔でも知らないって…白夜って相当守られてんだね~」
明良も祐輔が分からないと言ったことに驚いているようだった。
「そうなんだ。白夜の情報は、色んな奴が守り固めてる。
未だに本名も年齢も分からない。
本当に突然、出てきたんだ。
俺が調べた情報は、比較的入りやすい情報ばかり」
ふぅ…と祐輔の口からため息がこぼれた。
「白夜を買った奴らも、¨買った¨ことをこぼす奴がいる。
だから俺の耳にも白夜が何をしてる人物なのか、情報が入ってくる。
だけど白夜を独占したい奴らは、絶対、合言葉を漏らさない。
どんなことがあっても」
「成る程、な。
合言葉がなければ白夜は買えない。
自慢話はすれど、合言葉を教えないことで、白夜を守り独占しようとしているわけか」
「そういうこと」
「ククっ。よくできた心理戦だな」
存在を世に見せつけ、商売をほのめかす。
白夜を買えることを口外してはならないルールはなく、客から客へと噂は駆け巡り、客をつかむ。
しかし簡単には近づけないルールで統制をとり──自分にとって都合のいい客を選び、選ばれた人間は特別、のような感情を芽生えさせる。
虜にさせる容姿、そして体。
ルールを守らない奴に対する、冷酷さ。
客の中に産まれた独占欲まで、いいように転じていく。
これが、もし──。
全て計算ずくなものだとしたら…恐ろしいな。
ますますおもしろい。
思わず笑ってしまう。
「祐輔、合言葉を調べろ」
「隆盛、まじで買う気ぃ?」
明良が俺の顔を覗き込む。
ニヤ…と笑い、祐輔に視線を移す。
「お前なら、できるだろう?」
あえて挑発的に祐輔を見る。
こいつは負けず嫌いだからな。
「…っ!分かったよ、頑張る!」
「なー!俺も買う!」
「明良は手を出すな。あれは俺の獲物、だ」
ずりー!と叫ぶ明良を横目に、白夜のことを考える。
アイツは一体、どんな声で鳴き、どうやって楽しませてくれるのか。
このときは、噂の白夜を試してみたい──ただ、それだけだった。
あの日から4ヶ月経ち、蒸し暑さはすっかりなりを潜め辺りは冬の空気。
祐輔の情報網を持ってしても、合言葉の情報は入ってこない。
祐輔が言った通り、中央区のこの街で見かけたはあの一度きり。
東区、西区、南区で度々目撃されているようだ。
そんななか、俺はある用事で南区にある街を訪れていた。
用事も終わりこのまま帰ってもよかったのだが、なんとなく夜の街を歩いてみる。
ここ最近は、南区で頻繁に目撃されていると聞いたからだ。
もしかしたら、白夜を見かけるかもしれない。
が、1時間ほどうろついてはみたが、見つかる気配はない。
体の芯から冷え始め、帰るか──と、バイクを停めてある駐車場へ向かう。
街をすこし中心からはずれただけで、街の喧騒が嘘のように静けさが漂う。
あと数十メートルで駐車場に着く距離まで来たところで、人の声がした。
ただ、なんとなく声の方へ視線を移す。
そしてソレを視界に捕らえた俺の足はーー止まった。
建物と建物の間に座り込む人物。
「怖くねぇから…おいで」
ゆらめく銀髪──白夜が、そこにいた。
「お前、ちっちぇな。捨てられたのか?」
子猫を抱き上げ、顔に近づける。
「お、お前グレーかと思ったら白ネコか。
汚ねぇからわかんなかったよ」
喉元をくすぐるように撫でると、ニャア…と子猫が鳴く。
「…大丈夫。
お前の汚れは、洗えば落ちる。
きっと、真っ白に戻れるよ」
子猫を見つめる目が、悲しげに歪んで見えた。
「お、お前腹んとこに黒い斑点あんじゃねーか。
黒豆みてぇだな。
んー…じゃ、お前はマメだ!マメ」
ニャア…とタイミングよく鳴く子猫。
悲しげに揺れたのは一瞬で、無邪気に子猫と戯れる。
「マメ…」
しばらくの間、撫でたり、くすぐったり、キスをしたり…と子猫と戯れていたアイツは、突然子猫を懐に抱きしめ、俯いた。
しばらくその体勢から動かない白夜。
「…っ…」
しばらくすると、肩が震え出した。
「…う…っ…っ…」
こらえきれずにもれる嗚咽。
「ごめ…ん…ごめんな。お前を拾ってやれないのに…。
中途半端な、優しさで…名前までつけて。俺はお前を、置いていくんだ……。
無責任に、撫でるべきじゃ、ないって、分かっ…」
途切れ途切れに出る言葉。
「優しくされたあと、置いていかれる、辛さは、わかってんのに…!
うっ…っ…でもっ、今どうしてもっ…温もりが、欲しかったんだっ。
ごめん、マメ…っ…」
俺は、ただどうすることもできずに佇む。
両手におさまるぐらいの小さい子猫に、温もりをすがるアイツ。
どうしようもなく、胸が掻きむしられる思いがした。
それまで大人しくしていた子猫がニャア…と鳴き、白夜の顔をペロ…ペロ…と舐め始める。
「…うっ…マ…メ…?」
子猫の行動に驚いた白夜は、俯いていた顔を上げた。
「なぐさめて…くれてるのか…?」
顔を上げたことで、白夜の両目からぽろぽろと零れる涙を目にする。
子猫は、涙を舐めとるように、ペロ…っと舐めた。
「マメ…ありがとう…。」
ふわり…と、柔らかく笑った。
その笑顔を見た瞬間、ドクン…と心臓が音をたてる。
「ははっ…マメっ…くすぐったい!」
子猫は気をよくしたのか、さっきよりもペロペロっと舐める勢いを増す。
まるで、子供のように笑う白夜。
悲しげな表情、無邪気に戯れる姿、涙、そして──笑顔。
次々と変わる、白夜の表情から、俺は目が離せないでいた。
しばらくの間子猫と戯れていた白夜は、自分の首に巻かれていたマフラーを取り、地面に丸めた。
そしてその中心に、子猫を置く。
「風邪、ひくなよ。
イイ奴に拾ってもらえよ」
名残惜しそうに、子猫の頭を撫でる。
「…ありがと、マメ。」
すくっと立ち上がる白夜。
俺は思わず電信柱のかげに隠れた。
この場を去る足音が聞こえる。
ちらりと様子を伺うと、白夜の姿が段々と遠ざかっていくのが見えた。
このクソ寒い中、ジャケットも羽織らず歩くその背中は、孤独が漂っているように思えてならない。
完全に見えなくなるまで見送り、ようやく俺は電信柱のかげから出る。
そしてさっきまで白夜がいた場所に向かい、しゃがみこんだ。
紺のマフラーに包まれた、子猫──マメ。
「おい、マメ。うちに来い」
マメを抱き上げ、あごをくすぐると、ニャア…と鳴いた。
マフラーを拾い立ち上がる。
マメをジャケットの中に入れ、右手にマフラーを持つ。
ジャケットの中にいるマメは、じっと大人しくしていた。
ーーその日、俺は白夜の一面を垣間見て…眠れぬ夜を過ごした。
未だ眠る白夜を見る。
子猫と戯れるコイツを見てから3ヶ月。
ようやく合言葉を手にした俺は、白夜を探し夜の街を歩いた。
探し始めて3日、ようやく見つけた俺は白夜の前に立ち、合言葉を投げかける。
『Show nights with the midnight sun.』
「白夜を見せてくれ、か」
他にも、もっと…色んな¨白夜¨が見たい。
サラっ…と銀髪をかき上げる。柔らかい、上質の髪。
「マメは元気だぞ、白夜」
何故、マメを拾ったのか──。
あの時は勝手に体が動いていた。
だけど、俺はきっと──少しでもコイツの悲しみを減らしたかったんだ。
拾ってやれない、と嘆くお前が、余りにも辛そうで──。
「白夜…お前は何を抱えてるんだ──?」
知りたい。
お前を手に入れたい。
だけど、¨白夜を自分のものにしようとしてはならない¨のか。
今、コイツを手に入れようとしても、容易くすり抜けていくだろう。
──長期戦、だな。
「早く目を覚ませ」
眠る白夜の唇に、そっとキスを落とす。
しばらくの間、俺は触り心地のいい髪を撫で続けていた──。
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