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これから三年間、この部屋で暮らすのか──。
自分にとってあまりに豪華すぎるこの部屋。
「ま、住めば慣れるか。…って、慣れても嫌だけど」
壁にかけられたガラス細工の時計を見ると、11時を指していた。
理事長に挨拶をしたのが9時ぐらい。
30分程雑談をし、寮へ案内され、少ない荷物を片付け今に至る。
「…行くか」
ミネラルウォーターを飲み干し再び寝室へ戻ると、クローゼットから制服を取り出す。
学園の名にちなんだ、¨青藍¨色の制服。
ブレザーと詰め襟、ふたつのタイプがあり、好きな方を着用でいいらしい。
とりあえずブレザータイプを取った俺は、服を脱ぎ、制服に着替えいく。
ネクタイを手にとり、締める。
色は臙脂(エンジ)色。
この学園は、色を日本特有の色彩で表すらしい。
色で学年を分けているらしく、新入生がエンジ、2年生が萌黄(モエギ)色、3年が紫紺(シコン)。
まぁ、簡単に言って、順に、赤、緑、紫ってワケだ。
着替え終えた俺はリビングに戻り、テーブルの上に置かれた備品の中からひとつのカードを取る。
銀色のそれには、表面にローマ字で【SEIYA SHIRAKAWA】と入っている。
あとはルームナンバーである317の数字が入っている、至ってシンプルなカード。
あともう一枚カードがあるが、それはただの部屋のカードキーらしい。
このカードは学生証でICカードになっているらしく、部屋の施錠や身分をスキャンするときに使うらしい。
また、学園にあるカフェテリアの利用や備品を購入するときは、このカードを使って買い物ができるみたいだ。
勿論、引き落としはそれぞれ自分の家の口座からだが、特待生だけは引き落としは学園負担となっている。
学園内であれば使い放題、というワケだ。
ドアの横にある機会にカードをかざすと、ピピッという音とともに鍵のかかる音がした。
無駄にハイテク。別に普通の鍵でもいいんじゃねーの?なんて半ば呆れながらカードを胸ポケットにしまい、目指すは生徒会室。
何でも俺は、明日にある入学式で挨拶をしなければならないらしい。
めんどくさいことこの上ないが、理事長からそう言われたので従うしかない。
段取りは生徒会長が説明するらしく、生徒会室へ向かうように言われていた。
寮は学園の横に建っている。
横、と言ってもバカでかい学園は、建物から建物へ歩くだけで5分はかかる。
学園の入り口にはくつ箱が並べられてあるが、どれが自分のくつ箱かが分からないので並べてあるスリッパを履き、上がる。
説明された道順をたどり、目的地へと向っている間俺の目に飛び込んでくるものは、どれも金がかかっていそうなものばかり。
特に多いのが、ピッカピカに磨かれた壺、豪勢な額にはめられた絵。
学校にこんなもんいるのか?と疑問に思いながら足を進める。
階段を上がって、3階の突き当たり。
他の扉より凝った造りの扉の前に立つ。
扉の上には、¨生徒会室¨のプレート。
とりあえず俺は、ノックをしようとした──ら。
突然、扉が内側に開いた。
その拍子に、握った手にドアがぶつかる。
「…っと!わりっ。…ん?誰~?」
金に近い茶色い短い髪を立て、やんちゃさの残る顔立ちをした、自分より背の高い男子生徒が訝し気に俺を見ている。
「あの…白川聖夜です」
名前を名乗っただけで、分かるのか…?と思ったが杞憂だったらしく、男子生徒は、あぁ!と納得したようだった。
「特待の!…いかにもって感しだね~。
っつか、手、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫です」
少し赤くなっているものの、たいしたことはなかった。
まぁ、入りなよ、と部屋の中へ案内され中に入る。
「おーい、祐輔~。特待生来たよ~」
男子生徒がそう呼びかけると部屋の中にあるもうひとつの扉が開き、男子生徒がもう一人出てきた。
「あ、君が白川くん?ようこそ、青藍学園へ」
にこやかに笑う男子生徒。
サラサラな黒髪に、丸い瞳、幼さの残る顔立ち。
身長は俺と同じぐらい?かな。
「初めまして、白川聖夜です。
よろしくお願いします」
俺は優等生らしく、きちんとお辞儀をして挨拶をした。
「俺は、相楽祐輔(サガラユウスケ)。よろしくね」
「相楽…?」
ふと疑問に思ったことが、つい口をついて出てしまった。
「あぁ。理事長は俺の父だよ」
気にするでもなく優しい笑みを浮かべたまま、俺の疑問に答えてくれた相楽…先輩。
詰め襟タイプの制服の胸ポケットに刺繍されてある学園のマークが萌黄色であることから、2年生であることがうかがえる。
「あ、俺は木宮明良(キノミヤアキラ)、よろしく~。
祐輔、いってくるわ」
俺と同様、ブレザーの制服にネクタイの色が萌黄色ということは、彼も2年生なんだろう。
俺に向かって挨拶をすると、木宮先輩は生徒会室を後にした。
「とりあえず、座って?」
そう言って相楽先輩は、部屋の中央にあるソファへと案内してくれた。
先輩も向かい側のソファへと腰掛ける。
先輩が出てきたドアの上部を見ると、¨会長室¨の文字。
ということは、先輩が会長なんだろうか?
「あの…明日の段取りは、生徒会長にうかがうように聞いたんですけど…」
早く用事を終わらせて帰りたい俺は、自分から話題を切り出した。
「あぁ、そうなんだけど…今、会長いなくって。
明良が呼びに行ったんだ。
もうすぐ来るから、もう少し待っててくれる?」
先輩が悪いわけでもないのに、すまなそうな表情。
「わかりました」
俺は、気にしないで下さい、という意味を込めて笑みを浮かべ返事をする。
…まぁ、長い前髪のせいで俺の表情なんて見えていないだろうが。
「あの入学試験をクリアするなんて、すごいね。
俺もためしに解いてみたけど、英語だけしか95点以上採れなかったよ。
昔から勉強は得意だったの?」
「まぁ…そうですね」
「父も喜んでたよ。
なかなかクリアする生徒が現れなかったから」
「そうなんですか」
ずいぶんと素っ気ない返事しかしていないというのに、気にするでもなく話題をふってくる。
気を使ってくれているのか、会話が途切れることもなく時間が過ぎていく。
「あ、ごめん。飲み物出すの忘れてた。
紅茶飲める?」
「あ、いや、いいですよ」
「いいから、いいから。俺も飲みたいし。
飲める?」
「あ、ハイ…」
ニッコリ笑って先輩は立ち上がり、会長室とは違う扉へと入って行った。
…この人は笑顔で人を言いくるめるタイプだな、とそんな事を思った。
一人になり、改めてこの部屋をぐるっと見回す。
俺が思い描いている生徒会室とは随分違う。
生徒会室というよりはどこぞの社長室かと突っ込みたくなるような豪華さだ。
まず、広い。何畳あんだここ。
棚はスチール製じゃなく木目調の家具だし、ここにも壺やら絵やらが飾ってある。
今の俺が座ってるソファだって三人は余裕で座れちゃうようなデカさだし、向かい側のソファもそう。
生徒会室らしいところといえば、事務机が5台あるところか。それぞれの机にパソコンが置かれてある。
まぁ、その机は決して学生が使うようなもんじゃないけど。
一番デカい机なんて、本当に社長のデスクみたいだ。
呆れるというよりは圧倒されるようなため息をついたところで、相楽先輩がトレー片手に戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
せっかく入れてもらったので、カップを持ち口に近づける。
おお、カップも高そう。
─あ。いい香り…。
紅茶を一口含む。
「美味しいです」
「そう。良かった」
満足そうに微笑む先輩。その笑顔は、普通に好感が持てた。
再びカップに口を近づけた瞬間、背後にある扉が開く音とともにさっき出て行った木宮先輩の声が響いた。
「お待たせ~。
ほら会長、特待生待ってるから」
どうやら生徒会長を連れて帰ってきたようだ。
カップをソーサー戻し、ソファから立ち上がる。
そして振り向いた先、俺は前に立つ人物を見た──。
「──っ!」
蘇る、記憶。
忘れてしまいたい、失態。
「お前が特待生の白川聖夜か?」
甘いテノールボイスに、吸い込まれそうになる漆黒の瞳。
う…そ…まさ…か…。
「俺が生徒会長の本田隆盛(ホンダリュウセイ)だ」
隆盛…リュウ…うそだろ、なんでこんなところに?
ってか、生徒会長…?コイツは高校生だったってことか──?
マジかよ…しかも同じ学園って…最悪じゃねーか!
ぐるぐると考えを巡らせていると何の返事もしない俺を訝しく思ったのか、リュウが俺の目の前まで歩いてきた。
「おい、どうした」
余りに近いところからの声に、俺は体をビクっとさせてしまった。
「あ…いえ…」
落ち着け。
まさか俺が白夜だなんて、気づくはずがない。
大丈夫だ、落ち着け。
「…白川聖夜です」
「まぁ、座れ」
そう促され、再びソファに座る。
向かいに座っていた相楽先輩は俺の横に、代わって向かい側にはリュウが、その横に木宮先輩が座った。
リュウが明日の説明を始めていくなか、俺は居心地の悪さに前髪の下でずっと顔をしかめたままだった──…。
ドサっとベッドに倒れこむ。
説明を受けたあと、相楽先輩が時間も時間なので一緒にお昼を食べに行こうと言い出した。
冗談じゃない。
いくら変装をしているとはいえ、バレない可能性はゼロじゃない。
体調不良を理由に、そそくさと寮の部屋へと戻ってきたのだ。
「はぁ…クソっ…」
目を閉じると、脳裏に蘇るあの日の記憶──…。
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