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正体 3
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「…ん……」
目をうっすらと開けると、ほのかに明るいオレンジの光りが目に入る。
優しいその光に目が眩むことはなく、視線をさまよわせる。
頭がうまく働かない。どこだっけ…ここ…それに俺……。
「起きたか?」
近くから、耳に響く声。その声に身じろぐ。動こうとする─が、動けない。
気がつけば、後ろから誰かに抱きしめられている状態だった。
「白夜?」
瞬間、頭に溢れ出す記憶。
「──っ!!」
俺はありったけの力を込めて腕を振りほどき、距離を取る。
シーツを体に巻き付け、そして目の前にいる奴を睨みつけた。
「なんだ?まだ寝ていたらいいだろう。長い間気を失っていたからな」
その言葉に、唇を噛む。
今まで客の前で気を失ったことなんて無かった。
──大失態だ。
「ククっ。
風呂にも入れてやったのに、まったく目を覚まさなかったぞ?」
風呂…?
確かに、体のベタつきもなけりゃ、ナカの違和感もない。
ギリ…と歯を噛み締める。
「…勝手なことを…!」
楽しそうに俺を見てくるそいつをさらにきつく睨む。
「勝手?キレイにしてやったんだ。
感謝されこそ、睨まれる覚えはないはずだが」
睨みつけるも気にする風でもなく、逆に愉しそうに笑う姿に苛立ちを覚える。
何なんだ、コイツは。
誰が頼んだ。放っておけばいいものを…!
睨みつけている俺の瞳を、臆するでもなく、真っ向から見つめ返してくるリュウ。
──コイツの瞳は、イヤだ。
そう感じた瞬間、その瞳から思わず目を反らしてしまった。
瞬間、ククっと笑う声が聞こえる。
「さて。お前も起きたことだし、本題に入ろうか」
リュウは寝そべっていた体を起こし、ベッドの上であぐらをかき座った。
見につけているのはボクサータイプの下着だけで、バランスの取れた体を惜し気もなく晒している。
「お前は、何個目で気を失ったか覚えているのか?」
「──っ!」
体を強張らせ、唇を噛み、視線をさ迷わせる。
「その様子だと、覚えていないようだな?」
心底愉しそうな口調。
「6個、だ。あと4個残ってる。
ーーどうする?」
ベッドサイドにあるテーブルが視界に入る。
テーブルの上には、未使用のままゴムが4個、乗っていた。
クソっ。本当に最低、最悪だ。
相手の事情で使いきれなかった場合の返金はしない。
だから使いきれなかった分は、巻き上げて来たっていうのに…
今回は──違う。
俺は、今までで口にしたことのない──口にしたくない言葉を言うしかなかった。
「──金は、返す」
商売を始めてから、初めて言う台詞。
それでいいだろ、とチラッとリュウを見る。
すると、奴は当然とばかりに、言い放った。
「全額だろうな?」
「…は?」
全額…?
何を言い出すんだ、コイツは。
確かに…あと4個使えなかったのは、俺の責任だ。
それは認めざるを得ない。
が、それでも6個使ったんだ。使った分は払うのが当然だろ!
「何言ってる。
しっかり6個使ってんだから、その分は払ってもらう」
すると、リュウはバカにしたように鼻で笑い、鋭い視線をよこしてきた。
「俺は、ちゃんと10個分払った。それで契約したはずだ。
だが…お前が、もう許して─とすがったんだ。
その時点で契約不履行。自ら、契約違反をしたんだ。
俺に落ち度は一切無い。
全額返金を要求するのは当然だろう?」
するすると言葉を発し、俺を責め立てる。
まさに、ぐうの音も出ないってのはこのことか──と思うほど、言葉を発せずにいた。
悔しいが、言ってることは確かにその通りで…悔し紛れに、睨みつけることしか出来ずにいた。
すると、鋭い視線から一転、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるリュウ。
「全額返金をしない変わりに…俺の条件を飲め」
「条件…?」
なんだ…?あの笑みが意味するもの。
…ろくでもない条件な気がする。
「あと4個…4回分、俺の呼び出しに応えろ」
「…は?」
「俺の好きなときに、お前を呼ぶ。それに応えるだけだ、簡単だろ?」
「はぁ?」
何を言い出すんだ、コイツは!?
今まで、客の都合で動くことなんてしてこなかった。
ましてや連絡先すら、誰にも教えていない。
「断る」
客の都合で振り回されるのは御免だ。
もう二度と、コイツに会いたくない。
それなら、いっそ…
「全額返す。それでいい」
そうして、完全に縁を切ったほうがマシだ。
最初の要求通り、そう言えば素直に応じるだろう、とそう思った──のに。
「お前に拒否権は無い」
奴はそう言った。
「なんでだよ!」
「なんで?言わなきゃ分からないのか?」
心底バカにしたように、ハンと鼻を鳴らす。
「言ったよな?お前が契約違反をしたんだ。
俺は、客。客の望みに応えられなかったのは、お前だろう?
その責任を取ってもらうのは当然じゃないのか?」
コイツの言うことは、一々腹が立つ。
だが──やっぱり正論なだけに、反抗できない。
なんら反論しない俺に、さらにリュウは言葉を投げかけてくる。
「自分の好きにルールを作っておいて、いざ自分が違反をしたら、それには目をつぶれ──か?
そんな甘い考えがまかり通るとでも?
お前がやっていることはビジネスだ。責任を取る必要がある。
違うか?」
クソっ…!
「──…ったよ…」
自分のナカで消化しきれない憤り、悔しさ。
「なんだ?聞こえない」
それらを取っ払うかのように、叫ぶ。
「分かったよ!!」
するとリュウは満足げに笑い、連絡先を聞いてきた。
お互いの連絡先を不本意ながら交換したあと、再び条件を告げるリュウ。
「俺の呼び出しには必ず応えろ。
お前が客を捕まえるのは夜だろ?その時間までには連絡してやるよ。
さすがに、客を相手にしている時に呼び出されるのは気が引けるだろう?」
「……そりゃ、気遣いドーモ。」
チッ。
んな気遣いするぐれぇなら、最初からしやがれ!
俺の心情を察しろ!
あぁぁっ、めんどくせぇっ!
その後、俺は床に投げられていた服をひっつかみ、急いで着替えた後──送る、と言い出したリュウにいらねぇ!と一言放ち、ホテルの部屋を後にした。
携帯で時刻を確認すると、もう早朝に近い、4時。
電車など動いているハズもなく、とぼとぼと歩く。
ふわっと香る、シャンプーの臭いに、顔をしかめる。
家に着くまで約、2時間。
俺の眉間から、シワが消えることはなかった───。
ゴロリ…と寝返りを打ち、先程再会したアイツを思い浮かべる。
まさかアイツが高校生だったなんて。
「…老けすぎ。」
とても学生には見えねぇっつーの!
心で悪態をつく。
約2週間、連絡が無かった。
携帯が鳴るたびに、ギクリと体をびくつかせていた。
早く呼び出しでも何でもいいから、解放してほしかった。
携帯が鳴るだけでも振り回されているのに、本人が同じ学園内にいるなんて──。
「最っ悪…っ」
別に学園に──新たに始まる生活に、なにも期待はしていない。
ただ、学費免除と、特別待遇という条件にこの学園を選んだだけだった。
ただ、平凡に、地味に、生活出来たら…それで良かったのに。
なんでアイツを客に選んでしまったんだ
なんでアイツを前に大失態をしてしまったんだ
──そう、悔やんでも…もう遅い。
正体がバレちゃいけない。
バレてしまったら、弱みを握られることになる。
まぁ、アイツは学年も違うし、生徒会長という立場だ。
この学園は、お坊ちゃんばかりで、特待生の俺は一般庶民。
アイツも金持ちの一員。
そんなお坊ちゃんが、わざわざ俺に関わってはこないだろう。
変装もしているし、関わりを持たなければ、バレる可能性は少ない。
大丈夫だ、と自分に言い聞かす。
だが、俺は知らなかった。
「それじゃ、頼んだよ。本田くん」
「分かりました、理事長」
俺の知らないところで。
俺の意志も関係なしに。
俺の学園でのポジションを決められていることに。
「父さん、何だって?」
「あぁ、生徒会役員についてだった」
「あ!じゃあ、お仲間入り?」
関わることもないだろう、と思っていたのに。
嫌というほど関わらなければならなくなるだなんて。
こうして、俺の新しい生活は、波乱のスタートを切ったのだった──…。
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