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入学式から二日経ち、記憶を奥に封じ込め俺は何事もなかったかのように過ごす。
進学校だけあって、もう通常授業が始まっていた。
授業が終わり、俺は亮平と純と寮へ帰っている最中だ。
「なぁ、今日晩食べたあと俺んトコでゲームしねぇ?」
ここ二日で分かったことは、亮平はかなりのゲーマーだってこと。
部屋にはありとあらゆるゲーム機が転がってる。
「ゴメン、今日は予定があるんだ。明日ならいいよ」
謝る俺に亮平はそっか、と笑い、じゃあ明日な!と言った。
それに頷く形で返事をし部屋に入ると、俺は足早に寝室に向かい私服に着替えた。
財布と携帯を常にクローゼットの奥に置いている鞄にしまい、部屋を出る。
そのまま学園を出た俺は駅まで歩きバスに乗り、着いた先は通い慣れた病院。
受付を通り過ぎ、エレベーターで5階へと向かう。
エレベーターを降り、一般の病棟とは少し雰囲気の違うひとつの病室へ入った。
しっかり消毒をし、中を覗く。
「母さん、遅くなってゴメンね」
眠る母さんに声をかける。
母さんから返事がちゃんとあったのは──どれくらい前だろうか。
母さんをじっと見つめる。
ニット帽を被ったその下には、俺と同じ俺と同じ銀の髪だった。
その髪はもう無い。痩せた体、閉じられたままの瞳。
母さんは、寝ていることが多くなった。
慢性リンパ性白血病。
発見したときは──もうかなり進行していた。
今でもなんで気づいてあげらなかったんだ…と俺は後悔し続けている。
目眩を起こしていた。熱を出していた。急に痩せていった。
思い起こせば、いくらでも症状はあったのに。
痩せて小さくなってしまった母さんの手を握り、目を閉じる。
俺が体を売り始めたのは、母さんの治療費を払うためでもあった。
そんな汚い金で母さんの治療費を払うのは、嫌だ。
だけど、たかだか中学生だった俺が大金を稼ぐ方法なんて、そんなうまい話あるわけがない。
売春の話に、乗るしかなかった。
「母さん…ゴメンね…」
何をするでもなくじっと母さんを見つめ続けていると、コンコンと病室のドアを叩く音がした。
「ハイ」
返事をすると、この病院の医師であり母さんの担当でもある木宮センセイが顔を覗かせた。
そう、最近知ったことだがここは木宮先輩の家が経営する病院だった。
このセンセイは、木宮先輩のお兄さんだろうか。
あまり、ている感じはしない。
「聖夜くん、今いいかな?」
「はい、行きます」
病院を出て、ナースセンターの横にあるカンファレンスルームへ案内され、机を挟んで向かい合わせて座る。
昨日電話があり、母さんについて話があると言われていた。
「この前、投与してみた抗がん剤なんだけどね。
とりあえず、現状維持ができるぐらいに効いているみたいなんだ。
だからこのまま続けようと思う」
どうやら、最悪な内容の話ではないみたいだ。
知らず知らず強張っていた体から、少しだけ力が抜ける。
「えっと…今回も八澤さんには、説明は…」
「俺がします。大丈夫です」
「…うん。分かった。話はそれだけだよ。じゃあ、また」
「はい。よろしくお願いします」
頭を下げ、俺はカンファレンスルームを後にし、再び病室に戻る。
あいつに連絡したって、どうしようもないんだよ。
そう、心の中でつぶやく。
センセイの口から出た名前。
八澤新(ヤザワアラタ)。立場上は、俺の後見人。
気まぐれに連絡を寄越してくる、俺に売春を命じた男。
俺の表向きのプロフィールは、父を事故でなくし、母は病気で入院中。
父が勤めていた会社の一族が俺の後見人になった、となっている。
出まかせもいいとこだ。
合ってるのは、母さんが入院していることだけ。
まさか病院に、体を売って治療費を払ってます、とは言えない。
俺が稼いだ金はまず八澤の口座に入金し、そこから八澤の名前で治療費を払っている。
だから毎月、八澤の口座に金を振り込まなければならない。
中学生の間は義務教育なので、授業に出なくても落第なんてことはない。
成績はいつもトップだったため、授業に出なくても何も言われなかった。
先生もクラスメイトも、まるで俺を腫れ物を扱うかのごとく気を使っていた。
いや、遠巻きにしていたのほうが合ってるか。
むしろ、俺が行かない方がみんな楽に過ごせただろう。
だから俺は、ほぼ毎日体を売った。
一人だいたい、3~5万。
たまに10万ぐらい払う奴もいたりで、月に100万ぐらい稼ぐ時もあった。
八澤には毎回50万振込み、残りを生活費や家賃、光熱費などに当てる。
生活費は最低限に留め、なるべく貯金額を増やしていった。
そのおかげで高校に入ってからも、毎日稼ぎ歩くなんてしなくても大丈夫なぐらい貯まっている。
寮暮らしでは一応門限だってあるし、毎日出かけるわけにはいかない。
だけどこれからは生活費は学園が負担してくれるので、俺が払うのはあのあぱみかんするものと携帯代だけだ。
支払う金が格段に減ったおかげで、前よりは楽になるだろう。
理事長には入院している母のお見舞いに週に3回病院へ行くことを話し、門限を過ぎても大丈夫なようにしてある。
母さんに会った後に体を売る事に抵抗はあるが、やむを得ない。
俺は母さんにまた来るねと告げ病室を出て、1階にあるコンビニでシャケおにぎりをひとつ買い、病院を後にする。
駅に着き、電車を待つ間に先程買ったおにぎりを食べてから電車に乗り、今日向かうのは南区にある街。
東区や西区でも商売をするが、南区が一番しやすい。
南区にはちょっとした知り合いがいて、そいつは南区で影響力のある男で、遠回しに¨白夜に迷惑をかけるな¨と言ってくれているらしい。
おかげで、変にトラブルになることはない。
南区の主要駅に着きまず駅の反対側にある、人気の少ない公衆トイレへと向かう。
ちらっと周りを警戒し誰もいない事を確かめると、俺は身体障害者用のトイレへと入り、鍵をかけた。
バッグを手すりにかけ、中から眼鏡ケース、コンタクトケース、そしてタオルを出す。
眼鏡をはずしケースにしまい、そしてカラコンをはずすと現れるーー翡翠色の瞳。
母さんと、同じ色の瞳。
黒のレンズをポトっとケースの中に入れ眼鏡と一緒にバッグに入れると、次は勢いよく頭から水をかぶった。
黒い色をした水が、排水溝に流れていくのを眺める。
透明になったところで水を止め、キュッと水分を絞るとタオルで拭き水分を拭うと。
目の前の鏡に、¨白夜¨が現れる。
「…行くか」
タオルをバッグにしまうと扉の外の雰囲気をうかがい、人気もなさそうなので扉を開け、周り見渡す。
誰もいないことを確かめると外に出て再び駅に戻り、コインロッカーにバッグを入れた。
携帯だけをズボンのポケットに突っ込み、駅を出る。
¨白夜¨であるうちは、財布なんて必要ない。
身ひとつ、あればいい。
歩くごとに、集まる視線。
誰とも目を合わせることなく、いつもの場所に向かう。
定位置であるベンチに腰掛け目を閉じると、すぐに声をかけられた。
「Show nights with the midnight sun.」
閉じていた目を開けちらっとソイツを見ると、30歳ぐらいの、ビジネススーツを着た男。
甘いマスクに、自信たっぷりの笑顔を浮かべている。
──こいつ…前に。
確か、2ヶ月ほど前に相手をした気がする。
特に警戒するような変な客でもなかったし。
──コイツでいいか。
コトを済ませ、声をかけてきた男…ヨシヒトは今シャワーを浴びている。
壁にかけられた時計を見ると日付も変わり、深夜1時を指していた。
ボーッとしていると、ヨシヒトがバスルームから出てくる。
「送って…って、白夜はそんなおせっかい、いらないんだったな」
「あぁ、いらね。じゃーね、ヨシヒトさん」
挨拶もそこそこに、俺は先にラブホを出る。
以前なら、とぼとぼと歩きながら家路についていたけど、今はある場所に向かって歩みを進める。
路地裏を抜け15分ほど歩いたところで、目的の場所である一軒のバーの前に着いた。
¨dumpsite¨
青のネオンが光る看板の横にあるドアを開けると、カラン…とベルが鳴った。
「いらっしゃ…って、白夜。めずらしいな」
俺の姿を認めるとふっと笑い、おいで、と目の前のカウンター席を指差す。
カウンターに10席、テーブル席が三つ、奥にデカイソファ席が一つ。
こじんまりとした店の中に客は一人もいなかった。
「暇そーだな」
カウンター席に座り、目の前の人物に笑いかける。
黒い髪を後ろに流し、あご髭に鋭い目付き。
野性の黒豹を思わせるこの人物は、ここのバーのマスター。
この街を取り仕切る、ちょっとした知り合いだ。
「さっきまでガキ共がいたんだけどな。
なんか境目らへんで揉め事みたいでよ。使いにやった」
「ふぅん」
「それより、どうした?お前が店に来るなんて、珍しいな」
そう言って、ジンライムを目の前に置いてくれた。
俺はクイっと半分ほど喉に流し込む。
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