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再会 1
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駅に着き、ロッカーから荷物を取り時間を確認すると5時を過ぎたあたり。
睡眠時間はわずか2時間。
慣れたもので、特に辛いとかはない。
早朝ということもあり、人はポツポツとしかおらず視線の煩わしさはない。
昨日と同様公衆トイレに入り鍵を閉めると、バッグの中から髪用の黒のスプレーを取り出す。
タオルを肩に巻きスプレーを髪にふっていくと、見る見るうちに黒い髪へと変化していく。
完全に黒になるとコンタクトケースを取り出し、黒いレンズをはめる。
前髪を前に下ろし眼鏡をかけると、¨白川聖夜¨が鏡に映っていた。
学園の裏門。
カードをかざすと鍵がはずれ、誰にも見られることなく学園の中に入る。
辺りはシン…と静まり返っており、生徒たちが起きている気配はない。
誰にも見られることなく、部屋に着いた。
リビングに入りソファに寝転がったところで、今日が何曜日であるかを考え…眉間にシワが寄る。
「…今日、生徒会…」
今日は金曜日。生徒会の集まりの日だ。
「あー…行きたくね…」
でも…相楽先輩にまだお礼言ってないしなぁ。
校内ですれ違うかもしれないと思っていたのだが、相楽先輩とは会えずにいた。
廊下はおろか、寮内や生徒の大多数が集まる学食ですら、見かけない。
今日言うか。うんそうしよう。
ソファでダラダラと過ごしていると、部屋のインターホンが鳴る。
「ん?もう7時半か」
テーブルに置いてある眼鏡をかけ玄関に向かいドアを開けると、純と亮平がいた。
「おはよー」
「おは。飯行こうぜー」
「二人とも、はよ。おう」
三人並んで、学食へと向かう。
「あ、亮平。俺今日生徒会だったんだよ。忘れてた。
終わってからでもいいか?」
昨日交わした、ゲームの約束。
今朝思い出した、生徒会の集まり。
「おぉ、今日生徒会か。終わってからでいいぞー。
んじゃ、晩飯部屋で食うか」
「え?亮平が作んの?」
「へ?作んねーよ?ルームサービスあるし」
「は?」
「食堂に電話すると、ご飯を部屋に届けてくれるんだよー」
どこぞのホテルか、ここは。
半ば呆れながら、そっか、と返す。
……つーかさ。
俺この姿で、素顔で歩く以上の視線受けんの初めての経験。
入学式から3日。
すでにこの視線に慣れつつある自分が嫌だ。
部屋を出てからエレベーターに乗り、食堂に着いてからも。
『なんであんなオタクが生徒会?』
『大方庶民の図太さで理事長に頼んだんじゃねーの?』
『本田様に近づくなんて許せない』
『貧乏人の癖に』
『庶民につきまとわれて矢追様も木崎様もお可哀相』
『お二人ともお優しいから…』
『身分をわきまえろっつの』
エトセトラ、エトセトラ…。
あっちでヒソヒソ、こっちでヒソヒソ。
いや、まぁヒソヒソ話してても、聞こえてんだけどね?
最初はただ単純に物珍しい奴を見る視線だったそれは、入学式を終えてからがらりと変わった。
騒ぎの中心は、俺への陰口。
俺といえばのんきに坊ちゃんも案外やかましいんだな、などと考えていた。
ほら、俺の中の金持ちは品行方正なお坊ちゃんのイメージしかなかったから。
そんな周りに対して純も亮平も、言い返そうとしてくれた。
でも俺は言わせておけばいい、と二人を止めた。
二人とも不満そうだったけど、俺には純と亮平がいるから気にしないと告げると、しぶしぶ…といった感じで引いてくれた。
こうやって陰口を叩く奴らを見て思ったこと。
意外と子供じみた、普通の人間なんだなー、って。
まぁ、だいぶひねくれ野郎が多いのは否めないが。
口が悪い奴もいるし、素行が悪い奴もいる。
純や亮平みたいに、常識人もいる。
…まぁ、価値観の違いはあるけどね。
金持ちっても、十人十色なんだな。
様々な視線を受けながらの朝食。
昔から注目されることに慣れているのか、あんまり気にならない。
中に込められてる感情は、昔とはまったく違うけど。
今は敵意の感情ばっかりだな。
「…なぁ。やっぱりガツン!と俺が言ってやる!」
今日の朝食は和食。
みそ汁の入ったお椀をタンっとテーブルへ置いた亮平は、周りをキッと見渡した。
「だーから。いいって、言わせとけ」
俺の言葉に、亮平はこっちを見た。
「なんでっ。俺は嫌だ。友達がんな事言われてんの」
「僕も嫌だよ。聖夜が悪く言われるのは…」
お茶碗を置いて、純もこっちを見てくる。
「気持ちだけもらっとく」
二人にそう返し、食事を続ける。
鰆の味噌漬けうまっ。
「聖夜っ」
亮平を見ると、それはそれは怖い目で俺を見ていた。
純は悲しそうな顔。そんな2人に微笑みかける。
「そうやって二人が自分のことみたいに怒ってくれるだけで俺は嬉しい。
それに二人は俺を友達だって思ってくれてんだろ?」
すると二人は声を合わせて、もちろん!と言った。
「二人は、普通に俺に話し掛けてくれた。あいつらみたいに、遠巻きに陰口をたたかずに。
だからそんな二人が居てくれるだけで、俺はいーの」
ほら、食おう。
そう言うと、二人は少し照れたように顔を見合わせ、再びご飯を食べ始めた。
朝食を食べてから制服に着替え、学校へと向かった俺たち。
教室につき席に座ると、窓から心地好い風が流れてくる。
春だなぁ、とふと思った。
過ごしやすい春の陽気の中眈々と一日は過ぎて行き、昼休みも終わり現在英語の授業中。
この学園は英語の授業が二つあり、ひとつは文法の授業。動詞、助動詞、接続詞、ええっと他になんだっけ?前置詞やら形容詞とかかな。
いわゆる一般的な英語の授業だ。
もう一つはオール英語で会話形式の授業。日本語一切禁止。どっちが身になるって言えばもちろん後者の授業。
だけど日本人は細かいからさ。文法もちゃんとお勉強しなきゃいけない。
んで、今やってんのは文法のほう。
「Crying out something ,he quickly runs away.
彼は素早く逃げていった。という意味だけど──」
ちらっと横を見ると、亮平はうつらうつら…とまぶたが降りはじめていた。
窓際の一番後ってのは、絶好の居眠りポイントだもんなー。
「じゃあ、この文を接続詞whileを用いて英文を考えて」
風も気持ちいいし、あったかいし。と、そんな事を考えていたら教壇に立つ英語教師から声がかかった。
「じゃあ…木崎くんにしてもらおうかしら」
《亮平、当てられた》
コソっと、隣の亮平を小突く。
「木崎くん!」
《亮平っ》
「んぁっ…はいっ」
体をビクっとさせ、立ち上がる亮平。
「ホラ、訳して…聞いてなかったの?」
「うぇっ…?あ、えっと…」
《While he cries out something ,he quickly runs away.》
「え?あ…While he cries out something ,he quickly runs away.」
「Good!そうね。接続詞を用いる場合、現在分詞のcringは述語のcriesになるわ──」
接続詞について説明を続ける教師を横目に、亮平が小声でさんきゅーと笑う。
「他に分詞構文で省略される接続詞は?じゃ、矢追くん」
「because,since,as,when…ですか?」
「正解!いずれも省略する時は、述語を現在分詞にすることによって可能に──」
純はちゃんと授業を聞いているようだ。えらいえらい。
その後俺は当てられることもなく今日の授業も終わり、純と亮平と一緒に教室を出る。
「英語の時間は助かったー」
「また寝てたの?」
「亮平の席って居眠りの絶好ポイントだよな」
「そうなんだよ聖夜!腹もいっぱい、そよ風にポカポカ陽気…眠くもなるよなぁ」
「だからって、授業中に寝ちゃダメでしょっ」
純が何だかお母さんに見えてくる。メッなんて言い聞かせてる様が浮かんだ。
「んじゃ俺こっちだし。終わったら部屋行くなー」
「おう。待ってる」
「生徒会頑張ってね!」
二人と別れ、三度目となる生徒会室へと足を向ける。
するとやたらと騒がしくなる俺の周り。
二人には言ってなかったが、俺が一人になるとヒソヒソ声なんて遠慮はせずに、聞こえよがしに陰口を言い、視線もチラチラ…から睨みつけてくるものに変わる。
二人がいるときはだいぶマシなんだということに、最近気づいた。
それでも、まだ直線的に文句を言ってくる奴はいない。
…でも、それも時間の問題かもしれないなー。
そのうち呼び出しとかされそう。
なんて事を考えながら進んでいくと、だんだんと生徒の数が減ってくる。
生徒会室があるのは、特別棟。
滅多に人は来ない、少し離れた場所にある。
生徒会室の扉を開けると、誰もいなかった。
「…今日だよな?」
と、少し不安になってしまった俺は、携帯で曜日を確認する。
うん。金曜日だな。
とりあえず俺は、いつも案内されるソファに座った。
ふと机の上を見ると、一枚のプリントが置かれてある。
何気なく手にとってみると、そこにはそれぞれの委員会の委員長、副委員長の生徒の名前が連ねてあった。
とくにすることもなかった俺は、ただその名前を目で追っていく。
風紀、図書、文化………と、ほぼ全てに目を通し終わりそうなとき、突然部屋の扉が開いた。
扉の開く音にピクリと反応した俺は、目の前の用紙から扉へと向ける。
「…っ!」
「白川か。早いな」
入ってきたのは、初めてここを訪れて以来見かけることのなかった、アイツ。
「祐輔はまだか?珍しい」
そこには、俺が今日着ているブレザータイプの制服と同様の制服を着た、リュウだった。
本来あるはずの萌黄色のネクタイは締められておらず、ワイシャツのボタンが二つ開けられている。
ただ漠然と最初に相楽先輩がやって来ると思っていた俺は、まさかのリュウの登場に体を強張らせていた。
「どうした?」
反応のない俺に視線を向けてくる。
前髪の隙間から、リュウと視線が合った。
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