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再会 2
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「っ…いえ。相楽先輩はまだ来ていませんよ」
フイッと視線をはずし、残りの生徒の名前を視線で追う。
…不自然だったかな。
チラリと様子を窺うと、気にした風でもなくリュウは会長席へ向かい、黒い皮張りの一人掛けの椅子へと座った。
沈黙。
お互い言葉を発さず、部屋の中はリュウがキーボードを叩く音が響くのみ。
誰か…というか、相楽先輩!早く来て!…と心の中で叫んでいると祈りが通じたのか扉の開く音とともに、相楽先輩が木宮先輩を連れて入ってきた。
木宮先輩の右腕を、相楽先輩が掴んだ状態で。
「あれ?隆盛、来てたの?今週一杯は忙しいと思ってたのに」
「いや、昨日に全て片付けた。他にやりたいことがあったんでな」
「そう。隆盛が来たんなら、仕事が片付くかな」
「あ、んじゃ俺サボっていい?」
「いいわけないでしょ?明良にもしてもらわなきゃならない事があるの!」
「えー、めんどい」
「明良がいつもサボるから、俺にしわ寄せが来るるんだかんね。今日は逃がさないから」
「…へーい」
繰り広げられる、会話。
…俺、存在、忘れられてる?と思っていたら、相楽先輩が俺に笑いかけた。
「白川くん。ごめんね、騒がしくて」
「あ…いえ」
「体調は大丈夫?部屋に勝手に入ってごめんね?」
その言葉に、俺はハッとする。そうだよ!お礼!
「あのっ…この前はありがとうございました。逆に助かりました」
「入ったら、君が真っ青な顔で倒れててビックリしたよ。もう大丈夫?」
「大丈夫です。たぶん、慣れない生活が始まって、疲れが出ただけだと思います。
お礼、遅くなってすみません」
「いや、いいんだ。無理しちゃ駄目だよ?」
「はい」
相楽先輩はニコリと笑うと、俺が手に持つ用紙に目を止めた。
「あぁ、白川くんが持ってるそれ。それを届けようと思って、部屋に行ったんだ。
目を通しておいてもらおうと思ってね」
「あ、そうだったんですか」
手に持っていた用紙に目をやる。
「もうすぐ予算委員会があるし、これから各委員の委員長や副委員長には関わっていくと思うから」
「って、その用紙、委員の委員長と副委員長の名前書いてあんの?俺も欲しい!」
木宮先輩が、俺の手にある用紙を指差す。
「…明良?君、まさか、覚えてないの?」
相楽先輩がじっと木宮先輩を見つめた。
「だぁって、人の名前覚えらんねーもん。それあったら、便利じゃん」
「あれは、ここの生徒を知らない白川くんのために作ったの!君は何年ここで過ごしてるの!
それに、君が生徒会に入って半年以上経つでしょうが!」
相楽先輩、わざわざ俺のために作ってくれたんだ。マメな人だな。
というか半年以上経つなら覚えましょうよ、先輩。
「だぁって、興味ない奴、わざわざ覚えないし。
まぁいーじゃん。俺にもちょーだい」
興味ない奴は確かに覚えないけどさ、でも生徒会役員がそれじゃダメな気がするんだけど。
「反省しろっての!それにデータ保存してないから、白川くんが持ってるの一枚しかない!」
その言葉に、木宮先輩は俺の方を向いた。
「んじゃ、しろっちのコピーするから、貸してー」
しろっち…?って、俺?っつか、木宮先輩が欲しいんなら…
「いや、あげますよ。どうぞ?」
「へ?しろっちの分なくなるよ?」
やっぱ俺みたいだな。白川の白でしろっち?んなあだ名つけられたの初めて。
「いいですよ。覚えたんで」
「へ?」
「は?」
目を釣り上がらせて相楽先輩もキョトンとした顔になり、俺に問いかける。
「覚えた…?」
「はい」
「いつ…?」
「今さっきです」
「え?どうやって?」
「目を通して」
今まで無関心にパソコンをいじっていたリュウも、じっとこっちを見ているような気がした。
「…風紀委員、委員長と副委員長は?」
「委員長は3-B滝川紫音、副委員長は2-A榛原陸」
「図書委員、委員長と副委員長は?」
「委員長は3-A小早川直行、副委員長は2-B黒田康介」
と、相楽先輩とこんなやり取りがあと3回続いた。
「全部合ってる!すげー、しろっち!」
「すごいね、短時間で…」
「まぁ、昔から得意なんで」
そう。昔から、一度見たものは、頭にスルスルと入ってくる。
んー…なんつーのかな?
写真?絵?みたいな感じで記憶されるっつーか。
頭の中にそれが浮かび上がってる感じ。で、それを頭の中で見て答えてる。
だから教科書を見れば、テストなんてものは楽勝。テストは教科書の中から出題されるからな。
記憶の仕方などを説明すると、みな一様に驚いていた。
あのリュウでさえも。
まぁ、確かに珍しいか。同じように記憶する奴、母さん以外に出会ったことないし。
「白川くんが生徒会に来てくれて嬉しいよ。頼もしいな」
キラキラスマイルでそんな事を言われた。
…しまった。隠しておけばよかった。そう悔やんでももう遅い。
お茶入れるね、といつものように紅茶を入れてくれた相楽先輩。
向かいのソファには、相楽先輩と木宮先輩が並んで座っている。
リュウはパソコンをいじる手を再び動かし始めていた。
「今までほとんど俺ひとりで仕事をしてたから、白川くんが生徒会に来てくれて嬉しいよ」
相変わらず、相楽先輩が入れる紅茶は美味しい。
「明良はサボり癖があって、頼りにならないし」
「ひでー」
「本当のことでしょ?」
横目でじとっと木宮先輩を見る。
「隆盛は家の仕事とかで来れない事が多いからね。最近も忙しかったみたいだし」
だから、リュウを見なかったのか。…ずっと来なければいいのに。
「あっ、隆盛!そいやイギリス行ってたんだろ?土産は?」
木宮先輩が唐突に言いだし、リュウに顔を向ける。
「あ?」
「ほら、春休み終わりの2週間ぐらい。お土産!」
春休み終わり…2週間?
瞬間頭に浮かぶ、リュウに買われた日のこと。
あれから連絡がなかったのは、日本にいなかったからか…。
すぐに連絡がくると思っていた。携帯が鳴るのかと、ビクビクした。
いつ呼び出されるのか…憂鬱に過ごした。
なのに、コイツは日本にいなかった。
無性にイライラする。
俺は毎日ビクビクして過ごしたってのに、コイツは優雅にイギリスだと?
「今飲んでんだろーが」
「隆盛にこの茶葉頼んでおいたんだ。やっぱり美味しい」
「って、祐輔だけずりぃっ」
「何言ってんの。明良も飲んでるんだから、俺だけってことはないでしょ」
「うぅ…。あーあ。俺も何か頼めばよかった」
「っつーか、俺は仕事で行ってんだ。
祐輔には頼みごとをしたから礼として買ってきただけで、お前に買ってきてやるワケねぇだろうが」
ハン、と鼻で笑うリュウ。
リュウが買ってきた紅茶。
そう思うだけで、口をつけるのを躊躇ってしまう。
…いや、紅茶に罪はない。うん。
「祐輔、溜まってたデータ処理だがもう終わる。白川に説明して整理していけ」
「うん、わかった。じゃあ白川くん、ここに座って?説明していくから」
そう言って案内されたのは、机がふたつ並んだうちのひとつ。
「パソコン立ち上げといてくれる?」
「あ、ハイ」
そう言って相楽先輩は俺の隣に座った。
「明良は各委員会の前年度予算と収支まとめてね」
「へーい」
木宮先輩は相楽先輩のちょうど向かい側の席に座った。
並び的には、会長席から左側が副会長席、右側が会計席。
とりあえずリュウから離れた席だったので、少しホッとした俺だった。
「それじゃ今日はここまでにしようか。
白川くん飲み込み早いから、思った以上にはかどったよ」
「いえ、相楽先輩の説明が分かりやすかったからです」
「ふふっ。ありがとう」
作業が一段落したところで、どうやら今日の仕事は終了らしい。
ずっと相楽先輩と作業していたため、リュウと絡むこともなく時間が過ぎた。
作業中は確認事項の会話を挟むだけで、みんな作業に集中していた。
木宮先輩はもっとうるさく話し続けるんだと思っていたが、思いの外真剣に取り組んでいて意外だった。
「じゃあ白川くんはもう帰っていいよ。
ありがとう、お疲れさま。また月曜にね」
「じゃあお先に失礼します、相楽先輩、木宮先輩、…会長」
二人に挨拶をしたあと、リュウにもペコリと頭を下げる。
なんとなく先輩と声をかけるのをためらい、役職名で呼んだ。
「じゃあねー、しろっち」
リュウは、俺をチラっと見ただけだった。
もう一度頭を下げ、生徒会室を後にする。
「ハァ…」
無意識に出たため息。
強張っていた体から、力が抜ける。
携帯を開き時間を確認すると、18時。
携帯をズボンのポケットへしまい、寮に向かって歩き出す。
校内に生徒の姿はなく、ひっそりとしている。
最近周りが騒がしいせいか、この静けさが懐かしい。
以前は、一人の時間が沢山あった。
アパートの部屋はいつもシン…としていて、そこで一人で過ごす毎日。
まだ1週間も経っていないのに、ひどく懐かしく感じた。
「聖夜っ!先行って陣地取ってって!俺雑魚倒してく」
「りょーかい」
一度自室に戻り部屋着に着替えると、隣の亮平の部屋を訪れた。
先に学食へ適当にご飯を頼み、届けられたご飯をつまみながら俺達は今某戦国ゲームに興じている。
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