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新入生歓迎会 8
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「遅かったな」
「トイレ混んでた」
体育館に戻ると、5分間のウォーミングアップ中だった。
「走ってきたから、ウォーミングアップはいいや」
そう断って俺はコートの外に立ち、ウォーミングアップをする亮平達を見ながら徐々に増す痛みに無意識に眉間にシワが寄を寄せた。
午後の試合からは第一体育館のみで試合が行われるため、ギャラリーは倍増。
しかも相手がリュウのチームということもあり、このコートに視線を向ける生徒が大多数。
そんな中5分間のウォーミングアップが終わり、いよいよ試合開始時間。
試合開始のブザーが鳴った。
敵のパスをカットして、ゴールに走り出していた亮平にロングパス。見事キャッチした亮平はその勢いのままジャンプシュート、二点ゲット。
と思ったら木宮先輩が超低空のドリブルで隙間をついて敵を振り切り、シュート…と見せかけて後ろのリュウにパス、スリーポイント。
点を入れたら、入れられて。点を入れられたたら、入れ返す。
三組ある試合の中、シーソーゲームになった俺達の試合はギャラリーも白熱し盛り上がっている。
第一クォーター終了、25対22。
わずかに負けている。
「やぁっぱスゲーね、会長たち」
一、二回戦よりも激しい運動量に、亮平も皆も汗ダラダラ。その中、俺は尋常じゃないぐらい汗を垂らし、息を切らしていた。
「おい、大丈夫か?」
そんな様子の俺を見て、心配そうに亮平が問い掛ける。
「…あぁ、大丈夫。マークがキツイからな、しんどい」
実際、俺と亮平へのマークがキツイ。それに合わせて足への負荷も、キツイ。
2分経過し、再びコートに戻った。
歩くだけで、ズキン、ズキンと痛む足。確実に痛みが増している。
第二クォーターが始まり、数分。
キュッキュッと床を踏み締める音、ボールの弾む音、体育館内の歓声。
全てがさっきより遠くに聞こえる。
痛む足を庇いながらだとどうしても雑になる動き。
その隙をついてボールをリュウに奪われ、リュウはあっという間に走り去り、綺麗なフォームで放ったシュートはゴールネットに吸い込まれていくように弧を描く。
…クソっ。
「聖夜、どうした?」
俺の動きに違和感を感じ始めたのか、亮平が側に寄ってくる。
「わり、目に汗が入った」
「聖夜っ」
「ほら、始まるぞ。ディフェンス、ディフェンス」
亮平は俺をチラチラと気にしながらも、位置に戻る。
亮平がボールをパスカット、それに合わせて俺はゴールへ走る。
パスを受け取った瞬間、相手が体当たりをしようと言わんばかりの体勢でボールを取ろうと向かって来た為、体をひねり無意識に右足に力を入れてしまった。
ズキンっ!と鋭い痛み。
「──ッッ!!」
その痛みに俺はボールを落とし、しゃがみ込み足をつかむ。
「聖夜っ?」
慌てて亮平が側に走り寄ってきた。
試合中断、チームメイトも側に寄りどうしたのか心配そうな顔。
ギャラリーもざわめき出す。
「聖夜、お前、足…」
亮平はそう言って俺に手をかそうとしたけど、何故か亮平の視線が上にいき、不思議に思う間も無く誰かの腕が俺を抱き上げた。
その瞬間、沸き上がる悲鳴。
「っ…?!」
リュウに、いわゆるお姫様抱っこをされている俺。
リュウはそのままコートの外に出て、俺をベンチに降ろした。
靴を脱がされ、足を持ち上げられる。
「ぐ、ぁっ!」
ズキン!ズキン!と血流に合わせて痛む足。
「最初から動きがおかしいとは思っていたが…。おい、保健医を呼べ」
近くにいた生徒にそう声をかけ、俺を見るリュウ。
「何でこんな足で試合に出た。試合前に傷めたんだろうが」
眉間にシワを寄せ、不機嫌に…しかしどこか心配そうに俺を見ている。
「…会長と、戦って、みたくて…」
心配そうな顔を前に、俺は素直にそう答えた。
そう。会長の試合を見て、純粋に戦ってみたかったんだ。
俺の言葉に一瞬目を見開いたリュウは、次にはため息を吐いた。
「…だからって、無茶はするな。お前を心配する奴だっているだろうが」
その言葉に、俺は近くに立つ亮平、それから2階席にいる純を見た。
そこにあるのは、リュウよりも心配そうな顔。
普段あまり話しをしないチームメイトだって、心配そうに俺を見ている。
俺は俯き、唇を噛む。
「怪我人は?」
保健医が来て、リュウが立ち上がる。
「ここです」
保険医が俺のところまで来ると、審判をしている体育教師に近づき何かを話している。
リュウの話に体育教師はうなずき、マイクを手に取った。
《試合は2分後に開始します》
「あちゃー、だいぶ傷めてるね。とりあえずアイシングしようか」
俺の足の状態を見た保健医は持ってきたクーラーボックスの中から氷をすくい、氷のう袋に入れ患部に宛ててきた。
足に熱がこもっていたんだろう、冷たさをあまり感じない。
再び俺の所へ戻ってきたリュウは片方の膝をついて、俺を見た。
「お前は治療しておけ」
俺はコクリと頷く。その様子を見たリュウは、ふっと笑った。
その瞬間、ドキンっ──と胸が騒ぐ。
俺の頭を一撫ですると、リュウは自分のチームへと戻っていった。
「聖夜…大丈夫か?」
亮平はさっきまでリュウがいた場所に座る。
「うん…ごめん、亮平…」
そう言うと、試合を開始するから選手はコート入るようにと声がかかり、亮平はニィっと笑う。
「お前の分も頑張ってくるぜ!」
Vサインをしコートの中へ走っていく亮平。
病院に行こうという保健医に試合が終わるまではココにいたいと告げると、保健医は少し笑ってしょうがないなと許可してくれた。
結果、俺たち1-C紅は負けてしまった。
試合終了とともに、俺は保健医に連れられて体育館を出る。
病院につきちゃんと調べて貰った結果、左腕は問題なし。足も思っていたよりも軽度の捻挫だった。
だけど足首をガチガチに固定され、2週間ははずさないこと、腫れが引いたらよく温めること、運動は禁止、そして週に何回か病院に来ること。
などと他にも色々と言われたが、悪化したのは自分のせいだ、素直に頷く。
再び学園へと戻ってくると、決勝戦が始まっていた。トーナメントで勝ち進むと、最終的に3チームが残る。
クジ引きをし2チームが対戦、1チームはそのままま決勝へと上がれる。対戦して勝った方は1試合分体力を削られるている中決勝戦へ、というわけだ。
トーナメント表を見ると、どうやらラッキーくじを引いたのは3-B白。
そして2-A紅が勝ち上がり、今、その2チームが対戦している。
俺は体育館の中を出入口から覗く。
歓声が沸き起こりコートを見ると、どうやらリュウが点を入れたみたいだった。
俺は中へと入るかどうか思案する。
そのまま立ち尽くしていると、背後から声がかかった。
「聖夜っ!」
「純…」
スポーツ飲料のペットボトルを二つ持った純が心配そうに駆け寄ってきた。
「そんなにヒドイ怪我だったのっ?」
俺と足、そして右脇にかかえている松葉杖を見回す。
「いや、見た目よりはひどくないよ。
足は動かしちゃ駄目だから固めただけだし、松葉杖は無くても歩けるんだけど、少しでも負担を減らした方がいいって渡されただけ」
すると純は少しだけホッとしたようで、俺を見て微笑んだ。
「亮平も心配してたよ。行こう?」
「…うん」
すいません、通してと人垣をかきわけて進む純の後をついていく。
ちらちらと俺に注がれる視線。
「亮平っ!聖夜帰ってきたよ」
純が声をかけると亮平が飛んできて、俺の出で立ちを見て純と同じことを聞いてくる。
純に説明したことを亮平に言うと亮平も少しホッとしたようでベンチへと連れていかれると、そこには数人のクラスメイトがいた。
「白川くん、大丈夫?」
委員長である吉沢が声をかけてきた。
「うん、大丈夫」
すると吉沢はクールそうな顔を少し歪めて、謝ってきた。
「ゴメンな、俺達白川くんの怪我に気づかなかった」
その言葉に同じチームだった奴が頷いたけど、俺は首を横に振る。
「吉沢たちが謝ることじゃないよ、自業自得だし。
みんなとバスケしたかったんだ。楽しくてさ。そんで会長たちと戦いたかった。俺こそ心配かけてゴメンな」
俺は皆を見渡し、謝る。
するとチームの奴らは嬉しいことを言ってくれた。
「俺達も白川とバスケやって楽しかったよ。またやろう」
「…うん」
笑い合った所でブザーが鳴る。第二クォーターが終了したようだ。
ブザーの音にコートを見ると、リュウが自分のベンチに戻らずこっちに向かって歩いてきた。
そしてベンチに座る俺を見下ろし、問い掛けてくる。
「怪我の具合は」
「…捻挫です。1ヶ月ぐらいで治るみたいです」
「そうか」
自分が思っていたよりも軽い症状だったのか、リュウが安心した顔をした。
「迷惑かけました。すみません」
「いや、安静にしてろよ」
そう言うとリュウは自分のベンチへと戻っていった。
「なぁ、聖夜。お前がトイレ行ったときだろ?足傷めたの。
どうしたんだ?」
試合を眺めながら、左隣に座る亮平が聞いてきた。右隣にいる純も俺を見る。
俺は、少し迷う。だけどまた嘘をつく気にはなれず、正直に話すことにした。
「…階段で後ろから押されたんだ」
「はぁっ?!」
「えぇっ?!」
「二人とも、声デカイっ」
周りがちらっとこっちを見たが、気にせずにまた試合を観戦しだす。
「咄嗟に手すり掴んで踏ん張ったんだけど、足降ろした場所が悪くてさ」
「誰が押したのか、見たか?」
「すぐ走り去ってったから、見てない」
誰がそんなこと…と純が顔を歪める。
まぁ、大方生徒会の親衛隊だろ。
「物騒だな…。聖夜、あんまり一人になるなよ?」
「そうだよ、危ないよ」
「大丈夫、大丈夫。気をつけるから」
…この時、亮平と純の言葉をもっと真剣に聞いておけば良かったと、俺は後悔することになる──。
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