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宿泊研修 3
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三つの建物が空高くまでそびえ立ち、そしてその屋上部分に乗っかったような、船?
ユニークな形のこの建物。どこかで、見たこと…ある?と考えていると、思い出す。
某電話会社のCMに出てきたヤツだ。…アレ、CGじゃなかったんだな…。
驚いたままの俺は促されるままに客室に案内され、部屋に入る。
「……。」
ここに来るまで、言葉を失ったままの俺。
豪華。とりあえず、豪華。いちいち、豪華。
「すっげーなぁ。めちゃめちゃ広いし、綺麗だし」
班で一部屋なため、宿泊研修の間は亮平と純と一緒。亮平も周りをキョロキョロしながら感心している。
「ここで二泊して、次はセントーサ島で二泊だよね。セントーサの方はどんなのかなぁ」
「後で松永に電話してみよ」
生徒を半分に分け、それぞれ市街地観光とセントーサ島観光に分かれた。
前半後半と、観光地を入れ替える寸法だ。
松永といのはクラスメイトで前半セントーサ島組。
「プールとかカジノもあるんだろー!行きてぇ!」
「カジノはダメだって言われてるでしょ?」
「そうだったぁー。ちぇー」
「っていうか、聖夜は何固まってんの?」
部屋のドアの前からずっと動かずにいた俺に、純が笑いかける。
「…いや、すごすぎて。ビックリしてるだけ」
「なぁー。まさかここに泊まれるなんて思ってなかった!ラッキー」
亮平と純は驚く、というよりハシャぐといった感じ。
俺は荷物をクローゼットへ置き、窓際に寄った。
「うわ、すご。」
窓からはシンガポールの街が広がっていた。
「わ~!すごーい。夜になったらもっと綺麗だろうね!」
後から純も除き込んできて歓声を上げてる。
「なぁ、ご飯食べ終わったら、空中庭園行かね?めちゃめちゃ絶景らしいぞ」
鞄から取り出したガイドブックを見ながら亮平が言う。
それに賛成し、夕食の時間になるまで何を見たいか話しながら過ごした。
ミシュランシェフのお店があるダイニング。
セレブリティという言葉がピッタリなほど、見た目も鮮やかで美味しい料理の数々を堪能した俺達は、少し館内を散策することにした。
だだっ広いショッピングモール、亮平が羨ましそうに眺めるカジノ、なんとスケート場まであった。
そしてビックリしたのが。
「うわ、ゴンドラだって!」
「え?わ、ホントだぁ」
館内に運河が作られ、人を乗せたゴンドラが流れていた。ゴンドラ…普通に生活してたら一生目にしない乗り物だと思う。
時間もなくなってきたので、俺たちは予定していた通り空中庭園へと向かった。
「う、わーっ!!すげぇっ!!」
「きっれーいっ!!」
空中庭園は結構な人で賑わっていた。
亮平と純はハシャいだ声を上げて、フェンスへと走っていく。
俺も純の横に行き、眼下に広がる景色を見下ろした。
シェントン・ウェイの摩天楼。ビルの灯りが宝石のように輝いている。
¨シェントン・ウェイの夜景は感動したわ¨
この前病院を訪れたときに、テーブルに置かれてあった手紙。
父さんと母さんの新婚旅行の思い出が、震えた文字で綴ってあった。
父さんと母さんが見た景色…。
母さんたちがここを訪れたときにこのホテルはなかったから、きっとこの周辺にあるホテルに泊まっていたんだろうなぁ…と周囲に目を配らせる。
…うん。本当に綺麗。
俺たちはしばらくその景色に魅入っていた。
長い間絶景を堪能した俺達は、部屋へと戻りバスタイム。
「シャワー、誰から浴びる?」
亮平の言葉に、ドキッとする。
どうしよう…。
宿泊研修に行くのを躊躇った理由は、もうひとつあった。部屋が一緒ということは、変装がバレる危険性がある。
シャワーの後のスプレーで再び染めればいいんだけど、時間がかかっている俺を変に思わないだろうか。
それに、このまま二人を騙していてもいいのか…とも思う。この二人には、本当の姿を見せたらいいんじゃないか…って。
「あの、さ。俺から浴びてもいいか?」
俺は躊躇いがちに二人を見た。
「いいぞー」
「うん。どうぞ?」
「…じゃあ、先使うな」
俺はスーツケースから着替えとポーチを取り出し、シャワールームに入る。
ここも清潔感があり、アメニティも充実している。が、俺の意識は持ち込んだポーチにあった。
黒のスプレーと、コンタクトケース。
まだ迷う自分が、いる。
俺はコンタクトをはずしケースに入れ、服を脱いで頭からシャワーを浴びた。
ワシャワシャと髪を掻き混ぜると、黒い液体が流れていく。
頭を洗い、体を洗い、シャワーを止めて体を拭く。
鏡に映る、本来の自分の姿。キュッと唇を噛み締める。
俺は目を閉じ、そして決めた。
二人は好奇な、そして敵意のある視線が絡む中、普通に接してくれた。俺に対する陰口に、自分のことのように怒ってくれた。
だから、というわけじゃないけど、隠しておくのは嫌だと思った。
服を着て、頭にバスタオルを被りシャワールームを出る。
そして、部屋に繋がるドアを開けた。
「おー、出たか聖夜…って、どうした?頭からタオル被って」
亮平の声がして、俺は下を向きながら部屋に入る。
「…あ、のさ、」
いざとなると言葉がつまってしまう。
「…聖夜?どうしたの?」
様子が変な俺を見て、純の心配そうな声がした。
「あの、俺…二人に見せときたいものが、あるんだ」
「見せときたいもの?」
「なーに?」
俺は、意を決して頭からバスタオルを取った。部屋の明かりにさらされ、揺れる銀髪が視界に入る。
そっと目を開けると、目を見開き口をポカンと開けて俺を凝視する二人がいた。
「…へ?え、せ、聖夜…?」
亮平が俺を指差して、口をパクパクさせている。
純も同じ動きをしていた。
「…隠してて、ゴメン。俺、姿偽ってたんだ。ずっと、騙してた…ゴメン」
後ろめたくて、俺は思わず下を向いてしまった。
部屋に沈黙が訪れる。
「…聖夜って、ハーフなの?」
沈黙を破ったのは、純の言葉だった。
「…うん、そう。母親がノルウェーの人なんだ」
「へぇ、綺麗な銀髪だな」
亮平が俺の髪をじっと見ている。
「なぁ、ちょいここ座って」
そう言って亮平がポンポンと叩いたのは、今亮平が寝転がっていたソファ。
俺はゆっくりと足を進めて、言われた通りにソファに座る。
すると、右に亮平、左に純が座った。
「わ、サラサラ~!」
「うわ、マジ。きっれーな髪だな」
「ちょっと、聖夜。顔上げて」
「わ、目ミドリ!宝石みてぇ」
「わわ、ホント。きれー」
「顔は美人だと思ってたけど、この髪に目が追加されたら迫力倍増だな」
「うんうん」
二人はいつもの雰囲気で和気あいあいと会話をしていた。
俺といえばポンポンと飛び交う会話に呆気にとられ、二人のなすがまま。
「…怒らない、のか?」
思ったよりも小さな声はちゃんと届いたようで、二人とも首を傾げた。
「怒る?なんでだ?」
「ビックリはしたけど、怒ってはないよ?」
「だって、隠してて…」
「ハハっ。なに。聖夜は怒って欲しいのか?」
「…そうじゃ、ないけど」
「んー。じゃあ、聞いていい?何で隠してるの?」
俺は何と言おうか、迷う。本当のことを言うつもりも、そして覚悟もない。
出来るなら、一生知られたくないとも思う。
だけど¨言えない¨の一言で済ませたくはなかった。
俺は考えに考え、当たり障りのない部分を伝えようと思った。
全部言えない俺を許して、と心の中で二人に謝ってから…。
「もともと、俺は学園がある地域に住んでなくて…。中学のときに引っ越してきたんだ。
引っ越す前は、このまま過ごしてきたんだけど…良くも悪くも目立ってさ。
痴漢とかしょっちゅうだったし、変なやっかみも受けたし。だから引っ越しを機に、変装することにしたんだ」
嘘ではない。痴漢は日常茶飯事、時には暴漢に遭遇したこともある。
「そうなんだ…」
「その容姿じゃあ、目立つよなぁ」
「じゃあ、なんで僕たちには見せてくれたの?」
純が不思議そうに聞いてきた。俺はその部分は正直に答える。
「黙ってるのが、だんだん苦しくなって…。それに、二人は、友達…だし」
なんか、友達だ、なんて面と向かって言うのは……照れる。
「っかぁわいいっ、聖夜!」
がばり!と急に純が抱き着いてきた。その衝撃で揺れる体。
「ちょ、え、純?」
「あー、もう。なんか、かわいいよ、聖夜!」
「こらこら、聖夜が戸惑ってるだろ」
「アハ、ごめーん」
パッと純が離れていくと、亮平が頭をポンと撫でた。
「ありがとな。見せてくれて」
「うん!ありがと!」
怒られるとばかり思っていた俺は、二人の¨ありがとう¨に一気に力が抜けた。
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