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戸惑い 1
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最近、俺は変だ。
「会長、できました」
作成したばかりの書類をリュウに渡す。
「ん。あぁ、よく出来てる」
受け取った書類に目を通し、そう言ってこっちを見てからふっと優しく微笑むリュウ。
「─っ…。…あ、じゃあ次は予算まとめます」
「あぁ、頼む」
再び席に戻り、さっきまでのウィンドウを閉じて違うファイルをクリックする。
俺はチラリ、と横目でリュウを見た。
…静まれ、心臓。
最近、リュウは俺に笑いかけるようになった。
笑う、と言ってもほんの一瞬、すぐに消えてしまうんだが。
その笑顔を目撃するたびに、俺の心臓は不整脈を起こす。
最近のリュウは生徒会を休むことはあまりない。
相楽先輩が言うには、夜に仕事に出かけて朝方に帰ってくるそうだ。
…体、壊さないか心配だな。
──ん?は?心配?え?
な、なんで俺がリュウの体調を気遣う必要がある。
いや、ただ、そう。生徒会の先輩だからだ。
笑顔を見てドキドキするのも、珍しいものを見たからだ。
だから気になったり、心配になったりしてしまうだけで、深い意味はないな、うん。
…などと、自分に言い聞かせる毎日。
しかも一番の問題なのが、夜、商売をしているとき。
嫌だが仕方ない、金を稼がなきゃ…と今まで割り切っていたのに、それが出来なくなってきている。
行為中に頭にちらつくリュウの顔。
そして最近では、イケなくなってしまった。
いや、まぁ俺がイかなくても客さえ出せばそれでいいんだが…。
中には俺がイかないことで躍起になる奴もいるから、めんどくさい。
そんな悩みをかかえながら、今にいたっている。
小さくため息をついた俺はリュウから窓の外へと視線を移動させた。
雨粒が窓に当たり、水滴となって滴り落ちて行く。
梅雨に入ってから、雨ばかり。
毎年この季節にふさぎこんでしまう俺だけど、今年はそうはならないのはこの悩みのせい…おかげ?なのかもしれない。
「ただいま~っ」
「明良、遅い」
「ゴメンねー。ほい、去年の資料~」
「そこ置いとけ」
「ほーい。あれ?祐輔は?」
「家から呼ばれて帰った」
相楽先輩が帰ったと聞くと、木宮先輩はムンクの叫びのポーズをとった。
「えー!テスト、どこが出るか絞ってもらおーと思ってたのにー。あ、隆盛教え…」
「自分でやれ」
木宮先輩がガックリとうなだれている。
月曜から始まる学力考査。
純と亮平がこの土日でラストスパートをかける!って言ってたな。
「しろっちはテスト勉強してる?」
「いや、とくにしてません」
「土日にするの?」
「んー…教科書ぐらいは見ますよ」
「え、それだけ?」
目をパチクリとさせて驚く木宮先輩。
「はい」
「頭いいもんね~、しろっち」
「頭いい…ってゆうより、頭に入っちゃうんです。教科書が」
「え!それって前見ただけで頭に入っちゃうってやつ?何、教科書も入っちゃうの?!」
「まぁ…」
「何それ、羨ましすぎ…。しろっち、脳みそ交換しない?」
「…目がマジすぎて怖いです、先輩」
両肩をがしっと掴まれて、じっと見つめられた。
「ずるいー!その能力欲しいー!」
「いや、ずるいって言われても…。でも木宮先輩って、テスト順位三番なんですよね?
十分じゃないですか?」
「いっつも隆盛と祐輔に負けちゃうんだもん~。三番っても、二番の祐輔とは大差だしさぁ」
俺の横の椅子に座り、机に突っ伏する木宮先輩。
「大差って…どれぐらいですか?」
「100点ぐらい~」
「えっ」
二番と三番でそんなに点差が開くもんなのか?
「この学園のテストは甘くみちゃダメだよー?テスト範囲広い分、問題数も多いし、難しいんだよー。
俺の平均は70点代なんだけど、それで三番。みんな50~60点代だよ」
な、なんだそれ。どんだけ難しいんだ。
「隆盛でさえ、満点取ったことないもんねー?」
木宮先輩は起き上がり、リュウに問いかける。
「あぁ、ないな」
「っても、隆盛は本気でテスト受けてナイんだけどねー。それでも一番ってのが厭味だよねぇぇ」
「俺だって勉強ぐらいはするぞ」
そういえばリュウは特待生の入試問題はパスしたって相楽先輩が言ってたっけ。
俺はただ記憶力がいいってだけで頭がいいってワケでもないが、リュウは本気で頭がいいんだな…。
そのあと、ずっと木宮先輩が俺の能力が羨ましいだの、リュウの頭が羨ましいだのわめき、最終的にはリュウに煩いと一喝され、生徒会室を追い出されていた。
木宮先輩はラッキーとばかりに出ていった。…堂々とサボれて嬉しそうだったな。
ため息をついているところを見ると、リュウも分かっているようだ。
「白川」
二人になると途端に静かになる室内に、俺を呼ぶ声が響く。
「はい」
リュウの方を向くと、俺をじっと見つめていた。
「こっちに来い」
何か仕事かな、と思いながら側へ寄る。
「何ですか?」
椅子に座るリュウを見下ろす。
いつも見上げるばかりなので、なんだか新鮮だなー。
そんなことを考えていると、頬にリュウの手が伸びてきた。そして優しく撫でられる。
「…あ、あの」
その動きに戸惑う俺を、じーっと見つめたかと思うと、ふっと笑った。
「顔色は悪くないな」
そう言ってもう一度笑うと、リュウの手が頬から離れていく。
「……──っ、」
…静まれ、心臓。心なしか顔が熱い気がする…。
リュウが仕事を始めたので、俺は席に戻る。
頬からリュウの手が離れた瞬間、サミシイと思ったのは気のせいだ。笑顔にドキッとしたのも気のせいだ。
そんなことを考えていたら、いつもならすぐに終える仕事は…今日は倍の時間がかかってしまった──。
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