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消えた温もり 2
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「……ただ街に出てきてないだけじゃないのか?
前にも1ヶ月ぐらい姿を現さなかった時があった」
「あの時とは違う」
俺は、少し迷う。
白夜の正体を明かしてもいいかどうか……。だが明かさないと話が進まない。
そう思い、白夜が学園の生徒であること、消える寸前に一緒にいたことなどを話した。
「まさかまだ15歳だったとはな……」
正体に少なからず驚きをあらわにする間宮。
「俺はあいつを──聖夜を探し出したいんだ。頼む、教えてくれ」
「……しゃーねぇ。白夜が消えたってんなら、協力してやる」
「助かる」
「白夜のバックには、ヤクザがついてる。黒金組だ」
「黒金組……?あの、好き勝手にのさばっている……?」
黒金組。組織的にはまぁまぁデカく、確か本家はこの近くにあったはずだ。
「あぁ。あまりいい噂は聞かねぇ。稼ぎのほとんどが、悪徳まがいの金融会社。
だが、警察は手を出せねぇ。圧力がかかってる」
「圧力?」
「小笠原財閥。繋がってる」
まただ。また、小笠原の名前。
カウンターに置いていた携帯が鳴る。明良からだった。
間宮に電話に出ることを詫び、携帯を耳に当てる。
「明良?」
『あ、隆盛?
さっき、兄貴から教えてもらった住所を頼りに八澤のマンションに行ったんだけど、どーもここにはあまり帰ってないみたいだよ?』
「そうか……」
『今祐輔と合流して調べてもらったんだけど、あのマンション、小笠原の持ち物みたい。
オーナーは息子だってさ』
「小笠原の……。確かに親戚というなら八澤がそこに住んでいてもおかしくはないが……」
「今八澤っつったか?」
間宮が八澤の名前に反応する。
「あぁ。聖夜と関わりがある」
「八澤は、黒金組の若頭だぞ」
「は?若頭?」
『隆盛ー?どうしたの?』
「悪い、かけ直す」
そう言って電話を切り、間宮を見た。
「本当か?」
「あぁ。たぶん、白夜に売りやらせてんのも、そいつだ」
「くそっ、あいつが……っ!」
「知ってんのか?」
「会ったことがある」
俺は、聖夜の母親のこと、聖夜の後見人だと紹介された八澤のこと、聖夜の借金、契約を話した。
「小笠原財閥の親戚筋……あの噂は本当だったのか?」
「噂?」
「八澤は、黒金組組長の長女と小笠原財閥当主の間に出来た子供だっつー噂がある」
「……だから、小笠原と黒金組が繋がっているのか」
パズルのピースが埋まっていく。
「おい、お前の仲間ここに呼べ」
間宮が自分の携帯を取り出し、そう言った。
「いいのか?」
「2人で話すより人数多い方が情報が集まるし、共有できる。
それにお前がそいつらを頼ってるってことは、信頼してんだろ?
なら、別に俺の正体がバレてもかまわない。早く呼べ」
そう言って自分の携帯で誰かに電話をかけ始めた。
俺もリダイヤルボタンを押し、明良に電話をかける。
「今からメールを送る場所に、祐輔と来い。情報はそこでまとめて聞く」
明良の返事を待たず電話を切り、この場所のメールを送る。
そしてすでに電話を終えていた間宮を見る。
「なんでそんなに協力的なんだ?いつもだったら情報を共有しようなんて言わないだろう?」
すると間宮はふっと笑い、煙草に火をつけた。
「白夜は特別だからな。」
「は?」
気に入るどころか、特別だと?
「ここ、白夜の非難場所なんだよ。最近南区に商売を絞っただろ。街に来た日は、二階に泊まってった。
……っておい、勘違いすんな。んな、睨むなよ。白夜とはなんもねぇっつの」
煙草の煙を吐き出し、灰を落とす。
「弟みたいなもんだよ。っつーか、弟子?売春のイロハを教えてやった」
「何だと?」
「この路地裏でぼこぼこにされてるとこを拾ったんだ。自分で自分を守れっつって喧嘩も教えた。
余計な輩に絡まれないために、街に圧力をかけた」
「……南区にいる知り合いは、あんただったのか。どうりで守られていたわけだ、”白夜”は」
あんな容姿でウリをしていれば、大きなトラブルが頻発していそうなもの。
「まぁ、俺はあくまでアドバイスをくれてやっただけだ。圧力っつっても、傷つけるなって言ったぐれーだよ。
あんな風に白夜を守るようになったのは、白夜の魅力のなせる技だな。みんな、白夜にハマってく。
現に、チームのトップ三人は白夜ラブだかんなー」
「アイツらもか……」
思わずため息がこぼれた。
「最初はさ、警戒心バリバリで誰も寄せ付けなかった。多少心を許した奴にはなつくが、それでも壁がある。
未だに白夜が心から笑う顔は見たことがねぇ。笑顔がないわけじゃない、だが、目の奥にはいつも悲しみがあった。
何か重いモン背負ってんだろうなって何となく思ってた。それでも白夜は腐らずに必死に生きてた。
売りなんてやってる、だけど瞳は澄んでた。みんなそこに惹かれたんだろうな」
優しい笑みを浮かべながら話す間宮。俺は今まで間宮のそんな顔を見たことがない。
「……あんたもか?」
あんたも、惹かれてるのか。
「……そうだな、惹かれてる。
だが、恋とか、そんなんじゃねぇ。人として、だ。
そー言うお前は、ベタ惚れなんだろ?」
ニヤリと笑い、煙草の灰を落とす。
「……そうだ。」
余りに素直に認めたために、間宮は少し驚きを表す。
「へぇ。マジなんだな」
「あぁ。泣かしたくない、笑って欲しい。泣くなら、ひとりで泣かせない。
涙を拭ってやれる距離に、胸を貸してやる距離にいたい」
「……白夜が泣いたのか?」
「何度も見た」
「はっ!そうか。泣いたか」
どこか嬉しそうな表情。
その表情の意味を問おうとした瞬間、ドアが開き来客を告げる。
そして騒がしい声が店に響いた。
「真吾さんっ!白夜が消えたってどーいうこと?!」
赤く彩った目を尖らせたレンが、間宮に勢いよくつっかかっている。
続いて後ろから、ルイとミツが入ってくる。
二人も表情が固く、眉間にシワが寄っていた。
*side Shingo*
真っ先に俺に向かってきたレン。
「落ち着け、レン」
喧嘩腰のレンをなだめ、後ろにいる二人に座れと目配せする。
レンは白夜のことになると目の色が変わるからなぁ。
大のお気に入りだし。ま、後ろの二人もだが。
ルイもミツも、いつもより表情が固い。
「リュウじゃねーか。なんでここにいるんだ?」
ルイが隆盛の横に座り、話しかけていた。
隆盛が口を開く前に、口を挟む。
「後で説明するから待ってろ。今から隆盛の仲間が来る」
その言葉に、隆盛以外の三人が視線を寄越した。
雰囲気から、”朱雀”としての言葉だと察した三人は、軽く頷く。
しばらくして隆盛の仲間だという二人が来た。
隆盛の、俺が”朱雀”だという説明に一瞬戸惑い驚きをあらわにしたが、今はそんな場合じゃないと意識をすぐに切り替えた。
なかなか、賢い奴らみたいだな。
隆盛の口から白夜について聞いたことを、ルイたち三人にも説明を頼む。
流石に驚いたようだが、すぐに冷静になり話を進めた。
そして次は俺が隆盛の仲間……祐輔と明良に、八澤についてそして小笠原との関係を話して聞かす。
祐輔は鞄から紙とペンを取り出し、そこに情報を時系列に沿ってまとめていた。
「それで祐輔。お前の情報は?」
隆盛が隣に座る祐輔を促す。
「小笠原誠也なんだけど……今日本に帰ってきてるみたいなんだ。
何でも、日本の企業と提携しにらしい。変だよね?」
「海外企業とばかり提携を結ぶ小笠原がか?」
「そう。帰国したのは、白川くんが居なくなる前日。今どこに滞在してるかは掴めなかった」
祐輔が、白夜消えるという文字の前に小笠原誠也帰国、と記す。
「それから、アメリカへ行った時期はここなんだけど、白川くんのお父さんが亡くなったのは、ここ」
小笠原誠也渡米、の前に白夜父死亡(自殺?)。
改めてじっくりと紙を見る。
白夜たち家族の引っ越しから始まり、横領ギャンブルの噂、ヤクザの取り立て、父親の死、小笠原の渡米、八澤と接触、売春、契約、黒い薔薇、小笠原と八澤の関係……。
「これだけ揃ってちゃあ、十中八九白夜が消えたことにこいつらが関係してるな」
俺の言葉に、全員が頷く。
「おい、レン。最近黒金組の屋敷に、人の出入りはあったか?」
レンは仲間からの報告を思い出しているのか、んーと唸った。
「……そういえば、一週間ぐらい前、朝早くに屋敷に車が入ってったって言ってたかな。
屋敷の中にまで車が入るってことは、大事な客なんだろうけど。
ちらっとしか見えなかったみたいだけど、車の中には真っ黒い髪のオタク系の奴とチャラチャラしてそうな奴が乗ってたって言ってたかな?」
「オタク系?もしかして……しろっち?」
明良がぼそりと呟いた。隆盛と祐輔は目を合わせている。
「いや、白夜は銀髪だろ?それにオタク系じゃねーし」
そう言ったルイに、隆盛が首を振る。
「あいつは普段変装してる。
髪は真っ黒に染めて前髪で顔を隠し、目には黒いカラコン。眼鏡もかけて、見た目はそう見えるかもな」
「……消えた時間を考えて八澤との繋がりもあるとすりゃ、おそらく車の中にいたのは白夜だろうな。
レン、んな顔すんな。しょうがねぇ。俺たちは白夜の変装を知らなかったんだ」
顔を歪ませるレン。白夜とは知らず、関係ないと報告しなかったことを悔いているんだろう。
「悔しいなら、これから行動しろ」
「……わかった」
白夜の居場所は、掴めた。
何故白夜はあの屋敷に行ったのか……。借金があるから?
だが、今まで通り売春をさせて稼がせればいい。
それに、契約の内容も気になる。
なぜ、自分に利がない契約をする?
借金に加え母親の治療費。
白夜にとって、こう言っちゃなんだがオイシイ契約内容だ。
まるで、白夜を縛り付けているような……?
……黒い薔薇。表す、意味。
小笠原の、白夜への執着が見て取れる。
……小笠原誠也のために、縛り付けておいた……?
まだ情報が足りない。
それに、小笠原や黒金組を強請(ゆす)るなら、それなりのネタも。
ルイたち三人に黒金組の弱みを探るよう命令し、三人は店を後にした。
隆盛は小笠原誠也について探るよう祐輔に言い、明良には白夜と一緒に車に乗っていたもう一人の男は誰かを調べるように言っていた。
……変わったなぁ、コイツ。
学園の寮に入ってから隆盛と会う機会が減った。
久々に会う隆盛を見てしみじみ思う。
ちっせー時から見てきた。
歳のわりには妙に冷めていて、からかっても冷静に返す。
人に興味を持たず、ましてや好きなんて感情は持ち合わせちゃいなかった。
それが、ひとりの人間に必死になってる様は、正直言って驚いた。
遊びの女や男はいただろうがここまで入れ込むことはなかったこいつが、白夜のこととなるとこんなに躍起になってる。
マジ、なんだろうな。
それに。あの白夜が泣いたってか。
ひとりで泣くことは、あっただろう。
だが決して人前では泣かなかった。弱音も、吐かなかった。
あの、警戒心の強い猫が、隆盛の前で泣いた、ね。
──こりゃ、気合い入れなきゃだな。
ひとり笑みを浮かべ、これからどう行動するか考えを巡らせた──。
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