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守りたいもの 1
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チッ。
隆盛は舌打ちをすると、俺を抱えて後退をした。
そして真吾さんのそばへやってくると、ようやく俺を降ろし、俺を覗き込む。
「お前はここにいろ」
そう言うと隆盛は乱闘の中へと駆け出して行った。
「隆盛っ」
後を追うように駆け出そうとした俺の腕を真吾さん掴み、引き戻される。
「真吾さんっ。離してっ」
「無理。んなやつれて、んな生気のない顔してんのに行かせられるか。
お前はここにいろ」
真吾さんを見上げる。
「大丈夫だ。あいつは強い。大人しく守られてろ」
真吾さんは笑い、俺の頭を撫でた。
と、急に俺の腕をぐっと引き自身の後ろにやると軽やかに上段蹴りを放った。
その蹴りは見事に襲いかかってきた男の顎を直撃し、男は無様に崩れ堕ちる。
「やっぱこっちにも零れてくるか。白夜、そこで大人しくしてろよ」
真吾さんは俺から数歩離れ、向かいくる男と対峙した。
拳がぶつかる音、地面の擦り切れる音、叫び声、呻き声。
深夜に響く、喧騒。
その道のプロに対して決してひけを取らないみんなを、ただ呆然と眺める。
そして、自分に問いかけた。
──いいのか?と。
自惚れかもしれない。自意識過剰かもしれない。
──みんな、俺を助けに来てくれた。
引けを取らない、と言っても多勢に無勢。
無傷とはいかず殴られ、蹴られている。
傷つき血を流しながら……それでも、立ち向かうみんな。
──俺の、ため。
いいのか?
自分に対する問いかけは、二つの意味を持っていた。
”ここ”から助けられても、いいのか。
俺がここに来たのは、守るためだ。
なのに、その助けに縋っても、いいのだろうか。
そして、このまま黙って見ていて、いいのか。
みんな、何のために戦ってる。
みんな、誰のために戦ってる。
血を流しながら、痛みを感じながら。
俺はこんなとこで、ただただみんなを見ているだけで、いいのだろうか。
「……っ、レン!」
普段声を荒げないミツの叫び。
レンの腹に蹴りが入り、飛ばされ地面に転がった。
気を一瞬反らしたミツの顔にも、男の拳が入る。
倒れはしなかったミツの背中に、別の男から蹴りが入った。
真吾さんは、俺のそばから動こうとしない。
きっと、俺がここにいるから──。
助けられても、”いいのか”。
──ダメだ。だって、俺はみんなを守りたい。
だけど。
見ているだけで、”いいのか”。
──そんな、の。
拳を握り、奮い立つ。
「……いいわけ、ないだろっ」
「白夜っ!」
後ろから真吾さんの声がした。だけど振り返ることなく真っ直ぐ前を見据えて駆けていく。
一番近くにいた男に狙いを定め、蹴りを放つ。
倒れざまに追い討ちをかけるように腹に拳をのめり込ませた。
後ろから男の拳が飛んでくる。
それをしゃがんで交わすと体の回転を利用して回し蹴りを放ち、着地とともに横にいた男の足を払い鳩尾に一発。
「聖夜…」
見上げると、黒い双眸。そばに隆盛が立っていた。
「……隆盛。俺は、ただ守られるなんて嫌だ」
「……あぁ」
「ただ、見ているなんて嫌だ」
「あぁ」
俺たちに向かってきた男たちをそれぞれ蹴り飛ばし、隆盛を見る。
助けてもらう資格は、ない。だけど、俺はこの状況を見過ごすなんてできない。
「戦うから、俺も」
「…わかった」
呻き声をあげながら、男共が倒れていく。
真吾さんも俺がいないことで本格的に加わり、少しずつだが俺たちの勢力が勝り始める。
思った以上に体力や気力が失われていた俺は、荒い息をこぼしながらも、がむしゃらに拳を繰り出していく。
視界の端に、庭先に佇む小笠原と八澤を捕らえた。
小笠原が八澤の耳元で何かを告げる。
八澤はニヤリと笑い、目をぎらつかせながら駆け出した。
その先にいたのは──。
「隆盛……っ!」
俺の叫び声に反応した隆盛は、振り返り八澤の姿を捕らえる。
間一髪、後ろへと体を流し、攻撃を避けた。
だけど、隆盛の左頬には横に赤い筋が出来ている。
八澤の手には、銀色に輝くナイフが握られていた。
攻撃する手を止めず、次々と隆盛に向かって振り下ろされるナイフ。
周りにいた男共に容赦なく急所に蹴りを入れ意識を失わせると、俺は隆盛のもとへと駆け出す。
背後から隆盛を捕らえようとした男に跳び蹴りをくらわし、その反動を利用し回転し床に着地した。
すぐさま周りに視線を巡らせると、残るは数人。
それも真吾さんたちが沈め、残るは八澤、そして小笠原となった。
すぐさま隆盛のもとへ駆け出そうとしたけど、足に力が入らない。
倒れそうになる俺の体を、誰かが掴んだ。
「真吾、さん……」
「限界、きたんだろ……。アイツはリュウにまかしとけ」
「でも……、」
「大丈夫だ、負けねーよ」
俺は隆盛の方へと視線を向ける。
八澤が振るうナイフをギリギリ交わしながら隙を見て攻撃を繰り出し、戦う姿が映る。
そして隆盛の手がナイフを持つ八澤の腕を捕らえ容赦なく捻りあげると、手首を叩きハ澤の手からナイフが落ち地面に転がる。
そして隆盛は鳩尾に膝蹴りをくらわせた。
八澤の体が崩れ、うつ伏せに倒れる。
八澤の胸元に手を伸ばしネクタイを引き抜くと、腕を後ろ手に縛りナイフを遠くへと蹴飛ばした。
ナイフが放物線を描いて飛んでいく。
隆盛が振り返り、俺を捕らえ、そして俺の後ろを見た。
その視線をたどり振り返ると、小笠原の両腕をルイとミツが捕らえ、レンはミツの横に立っていた。
「大丈夫か、聖夜」
すぐ横に、隆盛が来る。
服はところどころ切れ、ナイフの刃がかすったんだろう、至る所から血が滲んでいる。
「……俺よりも、隆盛が……」
俺は頬から流れる血を指先で拭った。すると隆盛はふっと笑い、俺の頭を撫でた。
「これぐらい、平気だ」
そう言うと、俺を引き寄せ、抱きしめた。
俺は、隆盛の温もりに……なんだか泣きそうになる。
「さて、小笠原。もう後がないぞ?」
胸に顔をうずめていた俺は、隆盛のその声にハッとする。
そうだ、問題はなにも解決していない。小笠原を敵にまわしたら……みんなが。
強張る体。
すると、隆盛の手が優しく背中を撫でた。
──大丈夫だ、そう言うかのように。
「……その手を離してくれるかな?本田くん。聖夜は、僕のだって言ったでしょ?」
この状況でもなお、強気な態度。それは、自分の権力が絶大だと確信しているから。
「えらく強気だな」
隆盛は気後れすることもなく、それどころか顔に笑みを浮かべ、楽しんでいるようにも見える。
「君は、やりすぎた。僕はとても不愉快だ。
本田は底に沈んでもらうから。関わった奴らもね」
小笠原のその言葉に、ドクンっと心臓が嫌な音をたてる。
手に力が入り、隆盛の服の裾を握った。
俺の様子を見た隆盛は、心配するな、と微笑む。
微笑む意味が分からない。
なんで、こんな状況で、笑ってるんだ……?
俺から小笠原へと視線を移した隆盛の瞳は、さっき見せた表情をガラリと変え、冷たいものだった。
「やりすぎ、だ?はっ。それはてめーだろ。
沈んでもらう?それはこっちの台詞だ。
黒金組もろとも、小笠原には沈んでもらう。二度と這い上がって来られねぇぐらいにな」
その隆盛の言葉に、小笠原の眉がピクリと震えた。
「何を、言ってるの?君が、僕を……僕たちを沈める?
気でも触れた?君にそんなこと、出来るわけ──」
「出来るさ。俺の力で、簡単に」
小笠原の言葉を遮り、隆盛は不敵に笑い言い放つ。
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