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青藍祭 1
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準備期間は縫い物をしたり、隆盛と一緒に生徒会の仕事をしたりして過ごした。
そして、いよいよ金曜日。
青藍祭当日だ。
素の姿で部屋を出たため一応頭からパーカーをすっぽりと被る俺に、いくつか怪しいものを見る視線があったけど、そこは早足で通り過ぎ生徒会室にやってきた俺。
既に三人は集まっていた。
そこで初めて聞かされた生徒会の催し物は。
「……執事喫茶?」
にこやかに発表する相楽先輩。
「うん。アンケート一位だったしね。
さすがに一日中は無理だから、11時から15時の四時間限定。
場所は学園中庭のフラワーガーデン。今日も明日も天気が良くてよかったよ。
で、白川くんはまず髪切ろっか?」
「へ?」
「綺麗な髪だね」
「はぁ、どうも……」
休憩室と化している会長室に入ると、ひとりの男の人がいて。
床には大きめのシートが敷いてあり、背もたれがない丸椅子がひとつ。
俺はそこに座るように促された。
聞くところによると、この男の人は相楽先輩の知り合いの美容師さんらしい。
「長さはあまり変えないように言われてるし、軽くするだけだから」
「はぁ……」
陽気に鼻歌を歌いながら、俺の髪にハサミを入れていく美容師さん。
シャキン、シャキンとハサミの小気味いい音が響く。
15分ぐらいだろうか、美容師さんは満足したように完成!と言って、手鏡を渡された。
おお……。
前髪が前より少し短くなり横に軽く流され、毛先を少し切り全体的に軽くなっていた。
「ありがとうございます」
「どーいたしまして。次はコレに着替えてだって。片付けるからちょっと待ってね」
ハイどうぞ、渡されたのは…黒い燕尾服だった。
「着替えましたけど……」
「しろっち、似合うー!」
「うん、いいね」
黒のジャケット、黒のスラックス、黒のベスト、白のドレスシャツ、ワイン色のスカーフ、白の手袋、黒の革靴。
……サイズピッタリ。相楽先輩何者ですか、どこから俺のサイズ知ったんですか。
「似合う」
近づいてきた隆盛はサラリと髪を撫で、微笑む。
「……ありがと」
その顔が甘くて、なんだか照れてうつむく俺。
……そのなまあたたかい視線はやめてもらえませんか、先輩方。
「え、誰……?」
「綺麗……」
「うわっ、美人!」
「かわいい……」
「カッコいい!」
「あんな人いた?」
「………タイプだ」
ミッション1。執事の姿でクラスに行け。
廊下を歩く先々で、ザワザワと起こるざわめき。ものすっごい視線を感じる。
何言ってるか聞こえないけど、雰囲気からすると悪いことじゃないみたいだな。
クラスに到着し、扉を開ける。近くにいた奴が、目を見開きガン見してきた。
それに呼応するように、ひとり、またひとり……と増えていく。
半分ぐらいの奴が集まってるかな?
残りはお化け屋敷の方か。
ミッション2。俺が白川聖夜だと周りに気づかせろ。
「亮平ー、純ー」
中に入らず、扉のとこから声をかける。
奥にいた二人は名前を呼ぶ声に俺に気づき、目をパチクリさせた。
「聖夜!似合うなー」
「えっ、聖夜?似合うー!」
二人の声に、教室内がざわめいた。
「俺、会室にいるから。担任に言っといてー」
それだけを言って、手を振り教室を後にする。なんか教室から叫び声が聞こえた。
それを気にすることなく、生徒会室までの道をたどった。
「ただいま戻りまし、た……」
「おかえり」
会室に入って目に映ったものに言葉がしどろもどろになる。
俺と同じ黒い燕尾服に身を包んだ隆盛が優雅にソファに座っていた。
違うのは、隆盛はシンプルなワイシャツにノーマルなワイン色のネクタイ。
手袋はしていない。
うわ、すげー似合う。
「どうした?」
思わずじっと見つめて固まっていた俺を不思議そうに見る隆盛。
「いや、その……似合ってる……っつか、カッコいい……」
思わず出てしまった言葉にふっと笑った隆盛。
「サンキュ」
隆盛が座るソファの横を叩かれたので近づいてそこに座ると、会長室から相楽先輩と木宮先輩が出てきた。
「もう。ネクタイぐらい締めれるようになれって言ってるでしょ」
「だぁって、苦手なんだもん……あ、しろっちおかえりー」
二人も燕尾服に着替えている。
相楽先輩は俺と似たようなシャツに、ワイン色の蝶ネクタイ、手袋ありで、木宮先輩は隆盛と同じワイシャツに、細めのネクタイ、手袋なしだった。
うん、二人ともすげー似合います。
「どうだった?」
俺にミッションを言い渡した相楽先輩が反応を聞いてきた。
「なんか、すげー視線感じました。あと、ザワザワしてたし、注目はされたみたいです」
「そう。まだ時間あるし、お茶でもしてようか」
満足そうに笑った相楽先輩。
開会宣言の時間まで、俺たちは相楽先輩がいれてくれた紅茶を飲みながら過ごした。
ざわざわざわ…………。
扉の向こうから、生徒たちのざわめきが聞こえる。
「時間だ、行くぞ」
そう言って隆盛が扉を開け放った。隆盛が一歩、体育館内に足を踏み入れる。
その瞬間上がる歓声、悲鳴。
……すげーな。
生徒たちが並ぶその中央だけ五メートルほどの空間が開けられていて、舞台まで真っ直ぐの道となっている。
その道を歩いていく隆盛。
舞台に上がったところで、次は相楽先輩が中に入る。
またしても上がる声。さっきよりも野太い声なのは気のせいだろうか。
相楽先輩が舞台に着くと、次は木宮先輩。
真っ直ぐ歩いていった二人とは違い、左右に顔を向けながらヒラヒラと手を振っている。
その度にキャーッ!っとかん高い悲鳴が上がった。
さすがサービス精神旺盛だな。
さぁ、次は俺だ。
少し緊張しながらも、俺は足を踏み出した。
起こるざわめき。
先に行った三人と違うのは、そのざわめきが戸惑い疑問を含んでいる者が大多数なこと。
ミッション3。生徒たちの中は無表情で歩け。
「え、誰?」
「うわぁ、綺麗な人~」
「執事服?ってことは、え、」
「なぁ、アレってさ、」
「うそぉっ」
「マジっ?」
「俺、朝見た」
「あいつと同じクラスの奴から聞いた!」
「やっぱりそうなんだ……」
「……きれー…」
「まじ、かわいい」
「かっこいぃ~」
口々に囁かれる言葉が耳に届く。既に噂は回り始めているようだった。
舞台上に上がり、前を見つめる。未だ刺さる視線。
うーん。こんだけの人に観察するように見られたのは初めてだなぁ。
なんて若干引いていると、相楽先輩の声が体育館内に響いた。
「みんな、静かにしようね?」
その声に、シーンとなる体育館内。
すげっすね、先輩。サスガです。
「では、今年の生徒会の催し物の説明をします。
アンケートの結果一番多かった、執事喫茶をします。
場所は学園中庭、フラワーガーデン。
時間は11時から15時。みなさん、是非来てくださいね?」
キャーッ!だの、うぉー!だの次々上がる声。
相楽先輩と入れ替わりに、隆盛がマイクの前に立つ。
「静かに」
またしてもシーンとなった。
すごいな、マジで。
「準備ご苦労だった。いよいよ本番だ、力を存分に出し切れ。
ただし、ハメをはずしすぎて問題は起こすな。
それじゃあ、開会の宣言をする。
生徒会書記、白川聖夜。前へ」
隆盛の指名に、ざわっとざわめく生徒たち。
隆盛は少し横にずれ、俺は横に並びマイクの前に立つ。
そして俺は今まで造っていた無表情を消し、持てる限りの笑顔を浮かべた。
ミッション4。極上笑顔で開会宣言。
極上かどうかはわかんないけど。
「第86回青藍祭の開会を、宣言します」
「お待たせいたしました、カフェラテとショートケーキでございます」
「は、はい……」
「ご主人様、髪に糸くずが……取れました」
「あ、ありがとう……」
「いえ、お綺麗な髪ですね。触ってもよろしいですか?」
「……っ……!」
「ご主人様、お呼びですか?」
「こ、コーヒーをくれ!」
「かしこまりました」
「お、お前キレイだな!」
「ご主人様にそう言っていただけるなんて……嬉しいです。ご主人様も、素敵ですね。見とれてしまいます」
「あっ、ありがとな……」
「……わっ!」
「ご主人様!大丈夫ですか?」
「え、あの、はい。でも……ごめんなさい、こぼれちゃった……」
「いえ、いいんです。ご主人様がご無事なら……。
まぁ、おてんばなところも可愛らしいですよ?新しいのを入れて参りますね」
「う、は、はい……」
ミッション5。執事になりきれ。
敬語+紳士+微笑は鉄則。要所要所で甘い言葉を吐け。
すーげー忙しいです。そしてたまに隆盛の視線が痛いです。
好きでんな言葉吐いてるんじゃねーよ。文句なら相楽先輩に言ってくれ。俺だってこんなキャラやだ。
「お待たせいたしました、ご主人様」
「おう、ありがとな。…なぁ、お前俺のもんになんねー?」
「わたくしはご主人様だけの執事でございますよ?」
「ちげーよ、マジで言ってんの。きもちいーこと沢山してやるよ?…ぃ痛って!!」
「ご主人様、お戯れも程々になさってくださいね?」
こら、誰が尻揉んでいいっつった。あ、もしかしたら手首捻挫してっかもだから保健室行きな?
あと隆盛。目で人を殺さない。そこらへんはちゃんと対処するから。黙ってないから。
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