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ー理由ー
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俺は生まれた時からこの町しか知らない
小さな港町が俺の世界
青い海と青い空
港には毎日船がやって来るのを子供の頃から見ていた
いつも色々な国の飛び交う港と色々な色の髪と瞳
友達は中学卒業と同時にみんな大きな街に行ってしまった
でも俺は、この町が好きだから小さなレストランで働きながら疲れた船乗り達に美味しい料理を作っていた
楽しみと言えば、たまに一人で飲みに行くぐらいで他の遊びはほとんど興味がなかったし、恋人もいなかった
告白は何度かされたけど、全くときめかなかった
付き合えば好きになれるのかなとも考えたけど、好きになれなかったら相手に辛い思いをさせるだけだと思い、断る事しかできなかった
「明日は休みだしたまには行こうかな」
俺のお気に入りは小さなバー
静かだし落ち着く
坂道を歩きながら、夜の海を見つめた
空には星が輝いていた
白い壁とレンガ色の屋根
見慣れた景色だけど、俺は好きだ
木製の古びたドアを開けると・・・・・・
「アサちゃん、いらっしゃい」
「マスター、久しぶり」
「いつものでいいかい?」
「うん、よろしくね」
いつもと同じ短い会話を交わしながら、カウンターの隅に向かった
「あっ、いいよいいよ」
「じゃ、置いておくから」
「ありがとう」
ワインとグラスを受け取り、微笑んだ
注いでもらうのは余り好きじゃない事をマスターも知っていたから気が楽だ
「・・・・・・・・・・彼は?」
そして店の隅でギターを弾いていた男に気付いた
「3日前にフラッと現れてね」
「うん」
「腕がいいから好きに弾かせているんだ」
「そうなんだ・・・・・この町の人間じゃないね」
「そうだね、ギターを弾きながら旅をしてるらしい・・・・だからここにもいつまでいてくれるのか」
「へぇ」
いつもなら聞き流しているギターだった
でも、彼の弾くギターはとても惹かれる音色だった
この島にあるような小さな店で、ギターを弾きながら旅をしている人は多いと店のお客にも聞いたことがあるし、この店も来るたびにギター弾きが変わっていたことも知っていた
でも・・・・・何だろう
目が離せない
グラスを持ったまま、ただギターに耳を傾けていた
「気に入ったかい?」
「・・・・・何だろう、すごく悲しい音色だけど惹かれる」
「こういうバーにはお似合いだろ?」
「うん、初めて感動したかも」
「じゃ、彼に1杯どうだい?」
「で、でも」
「次で最後だから」
「うん」
「彼はここに来てから一度も客からの酒を飲まないんだよ」
「ええっ??」
それって・・・・俺に恥をかけと?
「あの顔だろ?彼目当ての客ばかりさ」
「へぇ」
「だからずっといて欲しいんだけどね」
「あははっ」
確かにいつもより混んでいるし、女性客も多かった
客が酒を奢る事は珍しくはないけど、俺は初めてだからドキドキした
別に、やましい気持ちとかではなくて・・・・・彼と純粋に話がしたかったから
でも、あっさり断られそうだ
ラストの曲が終わり、マスターが手招きをして彼を呼んだ
それに気付いた彼が、こちらに近付いて来た
どうしよう・・・・・・・迷惑じゃないかな
「楓、お疲れ様、彼はアサちゃんと言ってこの店の常連様だ」
楓・・・・・・
「どうも」
「あっ、こんばんは」
「1杯どうぞってさ」
いきなり??
まだ断られた時の返事を考えていないのに
「ありがとう」
「い、いえ!なんでもどうぞ」
断られると思い込んでいたから少し焦った
「じゃ、ビールを」
「隣に座って」
「うん」
近くで見ると綺麗な人だった
横顔も綺麗で、耳にはピアスが光っていた
「何かついてる?」
「ごめん、黒髪は珍しいから」
「そう・・・・いただきます」
「あっ、乾杯」
「乾杯」
そして無口で無表情
やはり迷惑だったかな
「なんか、ごめんね」
「?」
「無理矢理飲ませてしまったみたいで」
「そんな事はないけど」
「それならよかった」
「うん」
「さすがアサちゃんだな」
「マスター、やめてよ」
「じゃ、ごゆっくり」
「ありがとう」
マスターがいなくなって会話に困った
どうしよう
何か話さないと
グラスにワインを注ぎながら、ふと彼の手を見た
この手でギターを弾いてあの音色が作られていたんだ
空になったグラスに気付き、彼に尋ねた
「次は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「い、いや・・・無理強いはしないけど」
「この島はワインが美味しいの?」
「そうだね、俺は好きかな」
「じゃ、そのワインを」
「わかった」
テーブルに置かれていたグラスを取り、ワインを注いだ
「お腹空いてない?何か食べないと体に悪い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もちろん俺が勧めたんだからご馳走させてね」
「どうして?」
「どうして・・・・ん~、初めてギターで感動したから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん、でもホントに感動と言うか胸が締め付けられるようなね」
「うん」
「聞き飽きた言葉しか言えなくてごめん」
どうしよう
もう言葉が見つからない
「真面目に聴いてくれていた人がいたなんてね」
「聴いてたよ、それに・・・・」
「うん」
「話がしたかったから」
うわーーっ!
酒の勢いってやつでつい本音を言ってしまった
「俺と?」
「男じゃ嫌だろうけど」
「・・・・・・・・・・・・ギターを弾いているとね」
「うん」
「わかるんだ」
「わかる?」
「適当に聞き流している奴と聴いてくれている奴がね」
「そうなんだ」
「だから俺は今隣に座っている」
「そっか、ありがとう」
「俺も話がしたいと思ったから」
「ホント?」
「うん」
「じゃ、今夜は飲み明かそう」
「そうだね」
久しぶりに美味しい酒を飲んだような気がした
彼はやはり旅をしながらギターを弾いていると話してくれた
色々な国の話もしてくれた
この島しかしらない俺には、まるで御伽噺のようだった
「うっ・・・飲みすぎたかな」
「大丈夫?」
「ごめん、でも・・・・」
「うん」
「このまま別れるのは嫌なんだ・・・・・ごめん、変な事言って」
「気にしないで」
「楓はどこのホテルに?明日も会えるかな?」
「ホテルには宿泊していないけど」
「えっ?」
「この店の隅で寝ているから」
「そうなの?」
「それがギャラ代わり」
「でも、体を壊すよ」
「慣れてるから」
その言葉が悲しかった
同情とかではなくて・・・・・・今の感情はむしろ愛情寄りだと気付いた
「あのさ」
「うん」
「もしよければ・・・・・俺のアパートに来ない?」
「えっ?」
「変な意味じゃなくて・・・・・うん」
「襲われるかもよ?」
「いやいや、俺は襲ったりしない!」
「クスッ・・・・」
「へっ?」
「俺にって事」
「・・・・・・・・・・・えっ」
もしかして断る口実?
それとも
「でも、来て欲しいから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それにさ、俺料理得意だから食べて欲しい」
「もっとちゃんと言って欲しいかな」
うっ・・・・・
ちゃんとって・・・・どう言う意味?
「ホントは・・・・・楓に惹かれてしまったんだ、ごめん男なのに変な事言って」
「それが理由なら行くよ」
「えっ?」
マジで?
それが理由って・・・・どうしよう
嘘ではないけど、めちゃくちゃ恥ずかしい事に気付いた
「行こう」
「う、うん」
先に立ち上がった楓がお金を払っていた
「駄目だ、それは俺が」
「俺も今夜は飲みたかったから」
「だけど」
「歩ける?」
「あっ、うん・・・・・ごちそうさま」
「いいえ」
はぁ・・・・
逆に奢ってもらうなんてね
「美味しいアサの料理でチャラね」
「わかった!」
そして初めて見せてくれた笑顔を見た瞬間
俺は恋に堕ちてしまったんだ
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