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目が覚めたのはお昼過ぎ
隣にいるはずの楓が居ない・・・?
「えっ?・・・・いってて!」
やはり夢ではなさそうだ
だって、体が鈍い痛みを覚えていたから
俺だって夢になんかしたくない・・・・でも
腰を押さえながら、ベッドから降りて楓の姿を捜した
「いない・・・・?嘘だろ・・・・・そんなの悲しすぎるだろっ!」
じゃ、俺を抱きしめながら髪を撫でてくれた人は誰だよ?
宿代代わりに体を求めた覚えはないぞ
でも、部屋の中に楓の姿はない
一体どこへ?もしかしてもう次の町へ・・・?
そんなの・・・・・いやだっ!!
「楓っ!!」
急いで服を着て、港に向かう坂道を駆け下りた
何度も転びそうになりながら、涙でかすむ海を見ながら・・・必死に走った
「・・・・・・・・・・・楓っ!」
坂道を下りてすぐの海の見える場所に楓はいた
「ごめんね、よく眠っていたから」
「ごめんじゃない!急にいなくなるなよっ!!」
「泣いていたの?」
「そうだよ・・・・悪いかよ」
「ごめんね」
楓を見つけた瞬間、今度は安心してまた涙が溢れ出していた
「・・・・・・何をしていたんだよ」
涙を拭いながら楓の隣に座り、尋ねてみた
「ここから見える景色はいいね」
「だろ?俺も大好きだ」
「少し物悲しくてノスタルジックな気持ちになる」
「楓・・・・・」
そんな風に考えた事はなかった
確かに賑やかな街ではないけど、見慣れた風景だし悲しいとも思わなかった
寂しそうな横顔を見つめ、何も言えないまま時だけが過ぎて行った
楓には故郷が無いと言っていた
だからこんなに悲しそうな横顔をしているのだろうか
「アサ」
「うん」
「俺はアサの傍には居られない」
「えっ・・・?」
突然すぎて動揺が隠せない
だけど
「き、急に何だよ」
「アサといるとね、とても幸せな気持ちになる」
「うん、それっていい事じゃないのか?」
「普通はいい事だと思う、でも俺・・・・・幸せになったらギターが弾けない」
「・・・・・・・・・・・楓」
俺には何も言えない
だって、好きだと言われても恋人同士ではないから
どこにも行かないでとは言えない
とても悲しい事だけど、それは事実
「楓は・・・・・」
「うん」
「どうして昨夜・・・・俺を」
「好きだからだよ」
「じゃ、どうして」
「アサのことは好き・・・・でもそれ以上言えないから」
「なんだよそれ・・・・」
「それ以上気持ちを口に出してしまうと、ここから離れたくなくなるでしょ」
「駄目なのかよ・・・・」
「ごめんね」
「・・・っ!」
俺とギター、どっちが大事かなんて聞きたくなかった
だって、楓の答えはもうわかっているから
「・・・・・・・・・・・いつ出て行くんだ」
「明日」
「・・・・・・・・・・・わかった・・・でもっ!」
「うん」
「お前の帰る場所はここにあるんだからな!忘れるなよ・・・・・お前の故郷は俺なんだから」
「そうだね、忘れないよ」
そう言いながら、優しく肩を抱きしめてくれた
「約束だからな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
約束は出来ないと言う返事なのかよ
無言で流れる時間はとても短くて、心が千切れていくような気分だった
こんなに近くに居るのにどうしてかな
楓からの熱が感じられないんだ
でも、嘘をついているわけでもない
楓が温もりを拒否しているんだ
その時は、ただ悲しいだけで何も考えられなくて辛かった
そして・・・・・・・
「マスター!」
「アサちゃん、彼はいないよ」
「・・・・・・・・・・・・そっか」
楓が消えてから1年
俺は寂しくて毎日楓の姿を捜していた
いるはずもないのにね
「今日も捜していたんだろ?今夜はここで飲んでいきな、俺の奢りだ」
「・・・・・・・・・・うん」
肩を落とし、テーブルに置かれたワイングラスを見つめた
そして耳に入って来たのは・・・・・
「彼も旅をしながらギターを弾いているんだ」
「うん」
いつもは、すぐ店を出ていたので気付かなかった
彼も楓と似たような曲ばかりだった
とても悲しくて切ない
「彼もいつまでここに居るのかはわからないな」
「うん」
「幸せになるとギターが弾けないと毎日口癖のように言っているよ」
「・・・・え?」
楓と同じ事を・・・・・
「楽しい曲や幸せになれる曲もあるが、この島には悲しい曲がお似合いさ」
「・・・・・・・・・・・・」
確かにそうだと思った
店の客は、ほとんどが船乗りでつかの間の休息を取り、ギターを聴きながら酒を飲んでいた
きっとみんな、自分の愛する人や故郷を思い出しているのかも知れない
その思い出を甦らせるような切ない音色は同じような経験をしていなければわからない
「・・・・・・・・・・そういう事だ」
「マスター」
「いつかは戻るかも知れないが、もう待つのはやめろ」
「・・・・・・・・・・・・・ごちそうさま、また来る」
「ああ」
店を出てしばらく歩き、溜息をつきながら楓が座っていた場所の隣に腰掛けて夜の海を見つめた
「やっと楓の言っていた言葉の意味がわかったよ・・・でも・・・でもさ」
拳を握り締めながら目を閉じて、小さな声で呟いた
「お前の故郷は俺だろ・・・・・だから、ずっとここで待ってるからな」
きっとこれからも俺は待ち続けるんだろう
戻らない人をいつまでも・・・・・・・
ー完ー
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