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混沌
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「ねぇ、子供の頃の話を聞かせてよ」
「俺?」
「うん、知りたい・・・・だって葵は何も話してくれないしすごく不安なんだ」
「どうしようもない話だから話してもしょうがないからだよ」
「嫌なら無理には聞かないけど・・・・・」
「湊」
「ん?」
「俺達、付き合ってどれぐらい経つかな」
「ん~、もうすぐ1年だね」
「1年か・・・・・そっか」
もう1年経つのか
あの日から俺の生活は混沌としていた
そう、無秩序な世界でただ息をしているだけ
毎日、何かに怯えながら生きて来た
こいつとの付き合いも最初はすぐに終わらせるつもりだったのに、気が付けば本気になっていた
いつかはこの日が来る事を考えながら、嘘つきな微笑でこいつを抱きしめていた
「葵?」
「・・・・・・・そうだな」
そろそろ潮時だったのかも知れない
一人の胸では押さえきれない不安を話したいと思っていたのかも知れない
そんな事を考え、湊の頭を撫でながら物語のように話をした
子供の頃は、大人しくて他人に興味を示さない子供だった
学校の友達はいなかった
むしろ、学校へ通う意味すらわからないまま中学を卒業して家を出た
母親との折り合いは悪かったが、中学生の俺にはどうする事も出来なかった
父親らしき人も一応いた
再婚だから俺には関係ない人だったけど、優しくていい人だったのは覚えている
その父親が中学3年の夏休み、突然この世を去った
俺と母親はあの人の保険金だけで生活しているような家庭
生活は中の下と言った感じ
食事はいつも出来合いの物ばかりで、料理をしている姿を見なくなったのはあの人が死んでから
あの人が生きている時も、生活は苦しかったみたいだ
だって、突然死んでしまったあの人の葬式代すら無かったんだから
葬式は一番安いコースであの人の姉が払ってくれた
驚いたのはあの人が入っていた保険金が意外と早く支払われた事
葬式の後、しばらく家に母親の兄妹達が滞在していた
みんな田舎暮らしで生活は裕福な人達ばかりなので、急いで戻る必要もなかったのだろう
そして、その滞在中に保険金が支払われてから生活が急激に変わってしまった
母親は、その金で葬式代を返す事など考えない人だった
驚いた事に、保険金を持って遠方から来てくれた自分の兄妹達と旅行に行ってしまった
名目上は寂しいからと言う事にしておこう
そうじゃなければあの人も浮かばれないしね
保険金がいくらあったのかは知らないし興味はなかった
でも、その旅行で100万以上の金が消えたのは確かだと思う
だって、兄妹って言う人達は10人近くいて、全て金は母親持ちだったらしいしね
今考えれば、その兄妹もおかしいと思うんだ
誰も止めたりしなかったのかなってね
母親は見栄っ張りな人だったから、どうせホテルや旅館も高級と名のつくところばかりを選んで行ったのかもね
貧乏人が怖いと思った瞬間だった
今まで持った事のない金を持つと、何も考えずに使うと言う事
そして金は確実に消えると言う事を認識できないと言う事
見栄なんてさ、所詮自己満足の世界でしょ?
ただで旅行に行ける奴らは、なーんにも考えていないし感謝どころか「寂しいと思って行ってあげたんだ」とか考えていたかも知れない
どちらにしても馬鹿らしいとしか思えなかったけどね
でも、一つだけ母親に感謝した事もあったかな
そう、俺が一人で暮らしたいと言った時にアパートの敷金とかを払ってくれた事ぐらい
家賃はもちろん俺払い
遊びにも来なかったし、お小遣いなんてもらった事もない
むしろ、来なくて清々してたしね
でも、現実は厳しかった
中卒の俺を雇ってくれる会社なんてなかった
さすがに新聞配達では生活は出来ない
何のつてもない俺は毎日仕事を探して歩き回り、頭を下げては断られての繰り返し
金は減り、生きて行くことにも疲れ果てていた
そんな時に思うのは、どうして家を出たかったんだろうと言う事だった
我慢すれば寝る所と食事ぐらいは何とかなっていた
俺の我儘だと言われればそれまでだけど、俺にはどうしても我慢出来なかったんだ
あの母親のだらしない生活と金の使い方を見ているだけでも吐き気がしたし、家を出て正解だと思う
旦那と言う存在が消えると、あんなにも女は変わるのかと自分の目を疑った
料理もしない掃除もしない
毎日家でごろごろしてお菓子を食べてTVを見ているだけ
お風呂にも3日に一度しか入らないような生活
女と言う生き物が大嫌いになったのは母親が原因だと思う
それだけならまだしも、俺が家を出て数ヵ月後には金がなくなり闇金に手を出す始末
最初は、仕事も持たない人間に貸す奴らなんていないと思いこんでいた
でも、貸す奴らはいた
もちろん利子も有り得ない取り方をしていた
簡単に言えば、1万借りれば2万返すみたいなね
倍返しってやつだね
ちゃんと返せば今度はもっと借りてくれと言われ、2万3万と増えていった
何故仕事もしていないのに返せるのかと、たまに考えていた
でも、その金の出場所を知ってから俺は母親が怖くなった
そう・・・母親は数件の闇金に手を出していたから
どうしてそれを知ったかって?
答えは簡単
俺に金を返せと言ってきたから
信じられる?
今まで育ててやったんだから恩を金で返せと言って来たんだ
信じられなかった
本当に母親なのかと目を疑った
その時の俺がどんな仕事をしていたかなんて知らないんだろうね
俺はね、歳を偽って体を売っていたんだ
もう生きて行くためにはそうするしかなかったから
まともな仕事にはありつけない毎日
ふらふらと深夜の街を歩いていた時、声を掛けられたのがきっかけだった
最初は怖かったし、逃げ出したいと何度も考えていた
仕事内容を聞いた時、逃げようとした俺の手を掴んで言われた一言
「金が欲しいんだろ?」・・・・・そう、俺の財布はもう小銭しか入っていなかったし、お腹も空いていた
数時間我慢すれば財布にお金が入る事だけを考えて頷くしかなかった
そしてそいつに仕事場を紹介してもらったんだ
でも、人間て不思議なもので、慣れてくると罪悪感とか全部消えてしまうんだよね
本当は未成年なのにさ
勿論、男が好きだったわけじゃない
でも、女よりはマシだと思った
いつも嫌な客ばかりじゃないし、いい人もいた
男が男に抱かれる意味すら知らないまま、ひたすら激痛に耐えていた
でも、財布が重くなればなるほどその痛みも消えていったんだ
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