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「・・・・・・・・・・・・・・」
湊は泣きそうな顔で俺を見ていた
そりゃそうだよね
さっきまで抱かれていた男が何十人の男に抱かれていたんだから
「もうやめようか」
「・・・・・・・・・・・聞くから」
「でも、もう俺の事を嫌いになっただろ?」
「・・・・・・・・・・ならないよ・・・だって、今はもうやってないんでしょ?」
「そりゃね」
「過去の事は忘れる・・・・葵も必死だったんだから」
「湊」
でもね湊
俺の話はまだ序盤なんだ
本当に話したい事はまだ話していない
その話を聞いても、同じように思ってくれるのだろうか
答えはNOだ
間違いなくね
「葵・・・・・」
「うん」
俺は湊の事を思い出していた
そう、一年前のこの時期を
湊と知り合ったのは、俺が19になった時だった
店を辞めて、知り合いの紹介でカフェバーのバーテンをやっていた時だった
いつも同じ年上の男と来ていて、最初の印象は可愛い子だなと思ったぐらい
よく笑うし、表情がくるくる変わる可愛い子
お酒は弱いくせに、何でも飲みたがる子供みたいな奴だった
俺はそんな二人をみても別に驚かなかったし、逆に微笑ましかった
初めて会話したのは、湊が初めて一人で店に来た時だった
いつも二人で来ていたから少し驚いたし、別人のように暗かった
差し出したカクテルを一気に飲み干し、グラスを置いた時に気付いた
いつも薬指にはめていたリングが消えていたから嫌でも恋人と別れた直後だと感じた
目が真っ赤に腫れていたし、カクテルを飲みながらまた泣いていた湊にハンカチを渡したのがきっかけだった
結局、その後彼氏とやらの愚痴を聞かされ眠ってしまった湊を仕方なく家に連れて来て寝かせた
どうやらその彼氏には奥さんがいたらしい
それを知った湊は、自分から別れを告げてそのまま店に来たと言っていた
次の日、目を覚ました湊はすごく驚いて俺を見ていた
でも、朝まで飲んでいた事を思い出すとすぐに謝ってその日は家に帰って行った
そして一週間後、また一人で店にやって来た
今度は、お礼だと言ってケーキを俺に差し出した
ケーキを選ぶのが湊らしいと思ったのを覚えている
話を聞くと、別れた彼氏の事はもう忘れると言って無理に笑っていた
頭の中を整理する時間に一週間費やしたと言う事か
「ねぇ、バーテンさん」
「ん?」
「んと、名前は?」
前にも教えたはずだけど、忘れたらしい
こいつらしいと思いながらもう一度名前を教えた
「葵」
「俺は湊!」
「うん」
知ってるけど・・・・・
「よろしくねっ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ねっ?」
「はい」
「敬語とかやめてよ~~」
「お客様ですから」
「むぅ・・・・じゃさ、お店が終わったら食事に行かない?」
「深夜ですよ」
「俺ね、深夜でもやってる美味しいうどん屋さん知ってるんだ~」
その時、もしレストランに行こうと言われたらこいつはここにはいなかっただろう
飾らない湊に少し好感を覚えたのは確かだった
「ねぇ、行こうよ~」
「わかりました」
「やたっ!」
そしてその日を境に、湊は一人でよく店に来るようになった
いつも来るのは俺が帰る1時間前
その後、二人でうどんを食べて誰もいない深夜の公園で缶コーヒーを飲みながら何気ない会話をして別れる日々が続いた
俺はいつも話を聞く側になっていた
それ程、よく話をしてよく笑う奴だったから
そんな関係が約一ヶ月続いた
季節はもうすぐ本格的な冬になろうとしていた
「ねね、もうすぐクリスマスだね」
「そうだな」
「葵はどうするの?」
「どうって、仕事かな」
「えっ・・・そうなんだ」
「これと言った予定はないしね」
「・・・・・・・・・・・・じゃ、仕事が終わったら一緒にクリスマスパーティーをしようよ」
「湊は友達とかたくさんいるだろ?大事な日はそういう人と過さないと」
「・・・っ」
俺はぎりぎりの所で湊との距離を置こうとしていた
「風邪ひくからそろそろ帰ろうか」
「・・・・・・・・・・・・俺といてもつまらない?」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃ、どうしてそんな事言うの?」
「どうしてって・・・・・・」
その時はもう、俺の気持ちは湊に傾いていた
でも、その気持ちを必死に隠す必要があったから
だけど・・・・・・
「俺ね・・・・別れた人が始めての恋人だったんだ」
「うん」
「別に、男が好きとかじゃなくてね・・・・・なんていうか、好きになったらもう男でも女でもどうしようもないって言うかさ」
「わかるよ」
「うん」
「大切なのは心だもんな」
「そうだよ、でもね」
「うん」
「変なんだ・・・・・どうしよう」
「どうした?」
「前の彼氏の事、もう嫌いな人になってる・・・・あんなに好きだったはずなのに、今は騙された事しか思い出せないんだ」
「・・・・・・・そっか」
「どうしてだと思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうして?
小さな期待と大きな不安が小波のように押し寄せる
俺は何も言えず、缶を握り締めた
「葵って、余り自分から話をしないし他人に興味も持たないでしょ?」
「そうかな」
「そうだよ、何となくそう感じた」
「そっか」
「恋人がいるわけでもないよね」
「だな」
「俺に誘われるのは迷惑?」
「いや、全然」
「ホント?」
「嫌ならここにもいないだろ」
「そか・・・・・うん」
恋人なんて考えた事もなかったし、作る気もなかった
理由は・・・・・・ある
「葵」
「うん」
「俺・・・・・葵の事が好き」
「えっ・・・」
真っ直ぐな瞳で告白されて心が揺らいだ
小さな波紋から大きな波紋へと変わるように揺らいだ
「あの人と別れてからいろいろ考えたんだ・・・・俺ね、飲めないのにあの店に行きたかった理由をずっと心の中で否定してきた」
「否定?」
「うん・・・・・俺が否定してたのはカウンターの向こう側にいる人を見たかったから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もちろん彼氏の事は本気で好きだったよ、でもいつも無表情の葵の事が気になってたんだ・・・・・だからバチが当たったのかも」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あはっ・・・・これってもしかしてふられるパターンかな?ははっ・・・・どうしよう、馬鹿みたいだね」
そう言ってその真っ直ぐな瞳から涙が零れた瞬間、俺は自ら自分のラインを飛び越えてしまった
「そうじゃない」
「えっ?」
腕の中にいる湊を抱きしめながら耳元で囁くように言った
「俺も好きだ」
「・・・・・・・・葵っ」
その時はまだ俺の事を何も知らなかった湊
ただ、好きだと言う感情だけで動いていた
「今から家に来る?」
「・・・・・・・・・・・うん」
そしてその日から俺達は恋人同士になった
湊は俺が聞かなくても何でも自分の事を話してくれた
仕事はアパレル関係で、早くに両親を亡くし今は兄とネコとの二人と一匹暮らし
可愛い顔には似合わず、ハードロックが好きで虫が大嫌いな泣き虫
俺と違っていたのは、素直で嘘がつけないところ
店にも週に3回は来ていた
そしてそのまま俺の家で朝を迎えるのが当たり前になっていた
会う度に好きになる気持ちに戸惑いながら、自分を誤魔化し生きていた
一番恐れていたのは、湊との別れ
離れたくないと思えば思うほど、自分を呪った
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