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「葵・・・どうしたの?」
「ごめん、出会った時の事を思い出してた」
「あの時って、ホントに迷惑じゃなかった?ホントは迷惑だったんじゃない?」
「いや、ホントに迷惑なんかじゃないよ・・・・・逆に嬉しかった」
「ホント?」
「ホントだ」
「そか、よかった・・・・俺必死だったから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ばーか」
「ホント、よかった」
「・・・・・・・・・・・・」
今でもそう思ってる
いきなりの告白には驚いたけど、嬉しかった
嬉しかったけど悲しかったのも事実
湊と知り合う前、俺は絶対犯していけない罪を犯していた
そのせいで人前に出る事が怖くなった
見られているわけでもないのに、人の視線が気になってしまった
人と視線を合わせるのも苦手になった
もちろん会話をする事も避けていた
幸い、今の仕事は無口な俺でも務まる仕事だった
自分から話しかけなければ会話する事も無い
カウンター内は暗くて、安心出来る場所でもあった
俺がまだ、体を売っていた頃の話だ
仕事にも慣れて、友達とまではいかなくても遊び友達は数人出来た
友達とかには興味がなかったけど、付き合いもある程度は必要だと思っていたし気晴らしにはなった
指名も増えて、俺の生活は180度変わった
でも、その金を使う事もなかった
家賃を滞納しないで生活できるだけで幸せだと思った
そんなある日・・・・・・顔すら見せなかった母親がアパートにやって来た
最初は素直に嬉しいと思った
俺の事を心配してくれていたんだと・・・・思っていたのに
「葵、お金返して欲しいんだけど」
最初の一言がそれってどうよ?
ホント、悲しいのを通り越して笑えたね
「返せってどう言う事だよ?何で金がいるんだよ」
「お金がないからここに来るのも歩いてきたのよ、遠かったよ」
そんな事は聞いてない
なのに俺の問いかけにはスルー
歩いてきたって・・・・・何時間掛かるんだよ
でも、汗をかきながら俺を見つめる姿を見て、思ってしまった
こんな母親でも一応母親だし哀れに思えてしまった
クソ暑い真夏に、疲れた顔をして金欲しさに歩いて来たのかよ
「いくら?」
「・・・・・・・・5・・・・いえ10万ぐらい」
10万
今の俺にしてみれば大した額じゃない
返せと言われた言葉にはムカつくけどね
「ほら」
「ありがとう」
財布には3日分の稼いだ金がそのまま入っていた
財布から11万取り出し無言で渡した
何故11万渡したかと言うと、帰りはタクシーで帰れと言いたかったから
「お前、いい給料もらってるんだね」
「まさか、昨日給料日だっただけ」
「とにかく助かったわ、じゃ」
「ああ」
部屋に入りもしないでそそくさと帰る後ろ姿を見つめ、深い溜息をついた
その時はまだ何も知らなかった俺
でも、母親は簡単に金を渡した俺に毎週金をせびりに来るようになっていた
少ない時は2,3万
多いときは10万
服を買うわけでもなさそうだった
服やカバンは昔と同じ物だったから、その金を何に使っているのかが気になった
「助かるよ」
「あのさ・・・・毎週毎週来るけど、俺だってそんなに金があるわけじゃないんだけど・・・・そもそもその金何に使ってるんだよ」
「これは生活費だよ」
「生活費って・・・・今月はもう30万近く渡してるけど保険金はどうしたんだよ」
「そんなものもうあるわけないだろ?」
「えっ?」
「葬式代に消えたしね」
「葬式代?でもそれって」
「じゃ、またね・・・あっ、すまないけど喉が渇いたから小銭あるかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
無言で500円を渡し、溜息をついた
葬式代って何だよ?
返した話は聞いていないし、母親の性格から言って返すはずもない
最初は哀れだと思ったから金を渡した
でも、こう毎週来られると俺は何の為に仕事をしているのかがわからなくなる
まともな仕事ではない
普通の仕事に就けるための繋ぎだからその時の為に出来るだけ使いたくない金だった
自分の息子が男に体を売って作った金だと知ったら、どんな顔をするだろう
言うつもりはないけど、悲しくなってくる
もしかしたら家に買い物をした物があるかも知れないと思い、休みをとって家に帰る事にした
その時点で、もう100万近く渡していた
ずっとこのまま俺の金が消えていくのが気に入らなかった
哀れだと思ったのは最初だけで、その後はまるで取り立て屋のようにも見えた
久しぶりに帰って来た家
庭は相変わらず荒れ放題だし、リフォームした様子も無い
鍵を持っていなかったのでチャイムを押した
「いないのか?」
何回押しても返事が無い
仕方なく庭に回り、中の様子を伺った
「母さん!」
「・・・・・・・・・・葵」
母親は部屋の中にいた
他に誰かいる様子もない
「チャイム鳴らしたのに何で出ないんだよ」
「聞こえなかったんだよ」
嘘だとすぐ感じたけど、あえてそれ以上は何も言わずに部屋の中に入った
「急にどうしたの?」
「別に」
相変わらず掃除はしていない部屋
キッチンにはハエが飛んでいた
新しいものは何もない
ソファーもテレビも昔のまま
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
息子が帰ってきてもお茶を入れることも無い
期待はしていないから別にいいんだけどね
「丁度よかった、お金を」
「・・・・・・・・・・・・・・ない」
「困るんだよ、お願いだから・・・・今日行くつもりだったんだ」
「だから無いって」
「本当に困るんだよ・・・・頼むから」
なんなんだ
いきなり金の話かよ
そんな会話をしていたら電話が鳴った
「出ないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺が出る」
「いいからっ!」
慌てて、子機を取り廊下に出て行った母親
俺は興味なさそうなフリをして後をつけて会話を聞いていた
(ですから今日中には必ず・・・・いえ、必ず振り込みますから・・・はい、ですから今から銀行に・・・はい、はい)
何だこの会話?
電話を切る前に部屋に戻り、ソファーに腰掛け何と言って母親を問いただそうかと考えていた
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