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隣が引越しの日、別れの挨拶をして車を見送った
これで両隣が消えた
隣の家はそのまま放置するらしい
売りに出されてもすぐに買い手はみつからないだろう
そして今の心配は雨だった
ここ数日強い雨が降り続いていた
カーテン越しに花壇を見つめ、死体が見えないか心配で仕方なかった
雨が止んでいる時に、花壇の土を何度も追加した
以前、雨の日突然土が陥没して焦った事があった
考えたくないけど、確実にあの人は土にかえっているのだと思った
冬になり、花が枯れてしまったので新しい花を植えた
冬の花は寂しい
春から夏にかけて咲く花のような華麗さがない
薄ピンクのプリムラを見つめしばらくぼんやりと佇んでいた
傍から見れば、俺は花好きな男だと思われてしまうだろう
でも、毎日不安からは逃げる事が出来なかった
何をしていても笑う事が出来ない
顔の見える昼間は人混みの中には行きたくない
でも、ずっと家の中にいるのも気が滅入るばかりだ
だから俺は深夜遊びに出ていた
誰と遊ぶわけでもなく、一人でただフラフラと街中をさまよっていた
誰かに話せたら少しは楽になれるのか?
いや、なれるわけが無い
適当に遊んで朝方家に戻り、花壇を確認してまた浅い眠りにつく
そんな生活だった
夢を見ても嫌な夢ばかりで逆に疲れる事の方が多かった
親を庭に埋めるなんてお前は人間か?と聞かれれば
素直に違うと答えるだろう
歩いていても何故か後ろを確認してしまう
誰かに見られていないか不安で仕方が無い
そんな不安定な毎日を過す事がまるで罰のようにも思えてきた
そして庭の花壇の花はまた賑やかに咲き出し、暑い夏がやって来た
少しだけ・・・ほんの少しだけ不安は消えた
この時期は花が花壇を隠してくれるから
そんなある日・・・・・・チャイムが鳴った
誰も来ない家に誰が?
しかも夕方なのに
ドキドキしながら庭から玄関を覗くと、パトカーが止まっていた
それを見た瞬間、諦めと焦りが同時に押し寄せてきた
心臓の鼓動が収まらない
目は開いているのにまるで異空間にいるみたいな感じだ
何故ばれた?
ばれる要素がないはずなのにそんな事しか思いつかない
でも、出なければ余計に怪しまれてしまう
額に汗をかきながら、玄関に向かいドアを開けた
「こんばんは」
「はい」
「実は先ほどこの近辺で老人がバックを盗まれまして」
「バックを?」
全く関係ない会話が出た瞬間、おかしな安心感が湧いた
「それでこの辺で聞き込みをしているところでして」
「そうでしたか」
「黒いバイクなんですけど怪しいバイクとか見ませんでしたか?」
何て答えるべきか
バイクの事ではない
俺がずっと家にいたと言って怪しまれないだろうか
「特には」
「失礼ですけどお父様かお母様は?」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬指が反応した
「父は亡くなりました・・・母は今朝、親戚の葬式に出掛けました」
「そうですか」
「はい」
「では今は二人で?」
「そうですね、この歳になっても一人で留守番は正直怖いんですけど」
「そうですね、戸締りはしっかりと」
「はい」
「では、もし何か思い出しましたら警察まで」
「わかりました」
「しかし、よく手入れされた庭ですね」
「母の趣味なんです」
「そうですか、では失礼します」
「はい」
ドキドキしながら玄関を閉めて、庭から様子を伺った
走り出したパトカーを見つめ、またいろいろと考えてしまった
明日また来ないだろうか?
そんな事ばかり考えていた
でも、その後警察が来る事は無く犯人は捕まったと噂で聞いて安心した
そしてその後2年間俺は家で暮らした
毎日が不安で食欲も無いし、使う金は生活費ぐらいだったから贅沢をしなければなんとか暮らしていけた
花壇の花も毎年綺麗に咲いていた
雨が続く日は不安だったけどね
そしてずっと空き家だった家の買い手が決まり、若い夫婦が越して来た
俺にしてみれば迷惑な話だった
庭に出る度に話しかけられて困った
色々と俺の事を聞いてくる若い奥さんが苦手だったけど無視も出来ない
何を考えて話しかけてくるのかがわからなくて不安材料が増えた
「葵君、おはよう」
「おはようございます」
「そうだ!もしよかったら花壇のお花を少しわけてもらえないかな?」
「えっ?」
「家の庭、寂しいでしょ?」
確かに何もない殺風景な庭
「いいですよ」
そう言って、フェイクの方の花壇から花を抜き取り、そのまま渡した
「ありがとう」
「プランターでも庭でも肥料をあげれば根付くと思います」
「わかった!」
「では」
「あっ、そうそう!」
「?」
「私達が越して来てから一度もお母さんに挨拶できていないんだけど」
「母は、親戚の叔母が入退院を繰り返しているのでずっと付き添って身の回りの世話をしています」
「看護師さん?」
「いえ、叔母には世話をする人間がいないらしくて」
「そうなの」
「電話はたまにあるのですが、どうやら居心地がいいらしくて」
「へぇ~」
「息子より姉の方がいいらしいです」
「あははっ、そんな事ないわよ~!でも大変ね」
「もう慣れましたし、隣に引っ越して来た事も話しました」
「そうだったんだ」
「挨拶が出来ないのでよろしく伝えてくれと・・・・・言われていて忘れていました、ごめんなさい」
「やだ~!いいのよ」
「母が戻ったらお知らせしますね」
「ありがとう」
戻らない人の話を平然と話す自分が怖かった
罪悪感が消えたわけではない
慣れたんだ
そんな生活がまたしばらく続いていたある日
「ダメよ!おいで!!」
隣の人の声で目が覚めた
何気なく窓から庭を見て驚いた
慌てて着替え、庭に出ると申し訳なさそうな顔をして言った
「勝手に入ってごめんね、この子がなかなか来なくて」
「・・・・・・・・・・犬を飼われたのですか?」
「ええ、うちは子供がいないから」
「そうですか」
「こら!花壇を掘ってはだめ!」
動物は勘がいいな
迷わずあの花壇を掘ろうとしている
「昨日肥料をまいたので気になるのかも」
「ホントにごめんね」
「いえ」
内心焦りながら花壇にいる犬を見つめた
「どうぞ」
「ありがとう」
隣の人は花を踏まないように花壇に入り、漸く犬を捕まえた
「子犬じゃないんですね」
「そうなのよ、知り合いが飼えなくなって譲ってもらったの」
「そうですか」
厄介だ
子犬ならまだ何とかできたけど、明らかにこの犬はこの花壇を掘ろうとしている
首輪を掴まれたまま戻っていく姿を見つめ、溜息をついた
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