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何だろう
全て話し終わった後のこの気持ち
今までずっと誰かに聞いて欲しかった
でも、話せなかった
適当な奴に話して死ぬのは嫌だと思っていたからかも知れない
だから湊に話した
嘘偽り無く全て
それだけで俺は幸せだ
「ごめん・・・・騙していたわけじゃないけど、結果的には騙していたんだよな」
「・・・・・・・・・・じゃ、お母さんの死体は」
「この家の庭に」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「本当にごめん・・・・・警察に通報するのは構わないけどもう少しだけ時間をくれ」
そう
死ぬための時間
自殺は怖いけど、今の俺は湊の心に傷をつけた事のほうが怖かった
「こんな事をしておいて殺す気は無かったと言っても信じてもらえ無いだろうけど」
「だからいつも暗い目をしていたんだね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いつからだろう、笑っていてもその笑顔は嘘だと気付いたんだ・・・・・でも、葵が俺を騙しているようには思えなくて・・・・・本当に好きだったから、葵の事が知りたかった」
「迷惑だろうけど、本当に好きだったよ・・・・・一緒にいる時はとても楽しかった・・・・でも、心の闇が晴れた事はなかった」
「・・・・・葵」
「でも一緒にいる時間はとても満たされていたんだ・・・・ありがとう」
それは本当
不安を抱えながら俺はこいつの温もりに依存していた
逃げるとかじゃないけど、逃げていたのと同じだ
いつかはこんな日が訪れるんじゃないかと思っていたけどね
「コーヒーをいれてくるよ・・・逃げたりはしないから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もう逃げる事は考えていない
でも・・・・死ぬ事は逃げる事なのかもね
そのままキッチンへ向かい、包丁を取り出した
楽な死に方なんてない
首吊りも飛び降りもきっと苦しいはず
だから包丁で首を切るのも同じ
恐怖はもちろんある、ない訳が無い
でも、もう時間が無い
考えなくてもいい
すぐに終わる
そう
首に当てて、引けばいいだけだ
じっと包丁を見つめ、首筋にあてた
まだ湊の温もりが残っているうちに死にたい
幸せなまま・・・・・・
「だめーーーっ!!」
「湊・・・・・・」
思い切り突き飛ばされて、そのまま思い切り転んだ
包丁は乾いた音を立てて床の上に落ちた
「どうしてっ!!どうしてそうなるんだよ!!」
「都合のいい言い訳をするのなら、楽になりたいから」
「なんでっ・・・・・なんで罪を償おうとしないの?もちろん葵が悪いんじゃない、でもやっぱり・・・・違う・・・・そうじゃなくて・・・・・俺待ってるから・・・・・・そしたら本当の笑顔が見れるんだよね?そうだよね?」
「湊、それは駄目だよ」
「どうして?」
「俺は犯罪者なんだ・・・・・湊を巻き込みたくは無い」
「そんなの関係ない!」
「お前には家族もいるだろ?俺のせいでみんなが不幸になるんだ・・・・・どんなに罪を償っても犯罪者は犯罪者なんだ、わかってくれ」
「だったら俺は家族を捨てるから・・・・・葵が戻って来たら誰も葵の事を知らない町に行こう・・・・そこでまた初めからやり直して幸せになろうよ、葵は十分苦しんだはずだよ」
「・・・・・・・・・・・・湊」
「何年でも何十年でも待ってるから・・・・絶対待ってるから・・・・・俺は葵の事が好きだからっ!!お願い・・・・お願いだから・・・・ホントはこのまま逃げようって言いたいよ・・・でも、それじゃ今の生活と変わらないでしょ?」
泣きながら俺を抱きしめた湊
そんな湊を突き放す事は出来ない
そして俺は湊と一緒に警察へ行き全てを話した
しばらく世間は騒がしく、湊が心配だった
誰も信じてもらえないと思い込んでいたけど、マスターが知り合いの弁護士を紹介してくれた
俺は罪は罪として受け止める覚悟は出来ていた
判決は懲役8年の実刑
殺していないとは言え、母親を庭に埋めた罪は重かった
その8年が長いのか短いのかはわからない
何故、すぐ警察を呼ばなかったかと言われたが、その時の俺には母親に対して憎しみしかなかったから
そして今年も桜が綺麗に咲いていた
不思議な事に、罪を償うようになってから眠れるようになった
俺にとって外の世界も塀の中の世界も差ほど変わらなかった
今までずっと不安定な生き方をして来たからかな
辛くないと言えば嘘になるけど、俺には唯一の心の支えがあったから
湊はかかさず手紙を書いてくれていた
そう・・・8年間欠かす事無く
それだけが心の支えだった
「お世話になりました」
そして俺はその手紙をカバンに入れて、塀の外に出た
8年ぶりの世界は、まだよくわからない
そして塀の外に出た時、思わず苦笑した
そうだよな
手紙はくれても待っているとは限らない
当たり前の事なのにね
桜の花びらの中、「大丈夫」と何度も自分に言い聞かせながら歩いた
きっと一人でも生きていけるはず
死ぬ時も一人
死ぬまで俺は罪人なんだ
見慣れた塀が遠ざかる
外に出たいと思った日もあった
すずめになりたいと思った事もね
湊に会いたくてどうしようもない時にいつもそんな事を考えていた
「葵ーー!」
「・・・・・・・・・・湊?」
「お帰りなさいっ・・・・・」
「お前、どうして」
「言ったでしょ?俺は待ってるって・・・・」
「馬鹿だな・・・・・俺といても幸せにはなれないのに」
「やだな、俺が葵を幸せにするんだよ」
「えっ?」
そう言って笑う湊の髪には桜の花びらがたくさんついていた
ここで何時間待っていたんだろう
「行こう、約束した場所に」
「・・・・・・・・・・・ああ」
ずっと触れたかった湊の手が俺の手をしっかり掴んでいた
「どこに行くんだ?」
「もちろん、幸せの国」
「そっか」
「友達は野生の鹿とかたぬきしかいないかも」
「楽しそうだな」
「今までは一人だったけど今日からはずっと二人で暮らすんだ」
「湊、お前・・・・・」
まさか・・・・・
あの日から湊は家族を捨てて一人で俺の帰りを待っていたのか?
「後悔してる?とか聞かないでね・・・後悔はしていないから」
「ありがとう」
立ち止まり、流れ落ちる涙をそっと拭った
「葵、愛してる」
「俺も愛してる」
そう言って今度は笑いながら湊を抱きしめた
はじめて心の底から幸せを感じた
少し大人びた湊は8年前と変わらない笑顔で俺を見つめていた
誰も信じられないと思っていた
でも、信じられる人間もいるんだ
こいつは全てを捨てて俺を選んでくれたんだ
ホントに・・・・・こいつは
「えっと、ちなみに車で5時間、船で3時間だから」
「えっ・・・」
「明日にはつくかもね~」
「そうだな、急ぐ必要はないな」
「だね、これからはゆっくり生きて行こうね」
「ああ、そうしよう」
湊が毎日笑顔でいられるように
これからも二人の時間を紡いで行こう
過去を忘れる事は出来ないけれど、まだわからない未来を想像する事は出来る
二人ならどんな困難でも乗り越えられるだろう
湊の笑顔を見ていると、そう思えて仕方がないんだ
ー完ー
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