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ー匂いー
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「・・・・・・・・・・・・・・夢か」
いつもの夜
太陽は沈み、月が綺麗に輝いていた
久しぶりに夢を見た
そう、子供の頃の夢
美味しそうな匂いで目を覚ます・・・・・そんな夢だった
早くに父親を亡くし、母親は女手一つで育ててくれた
料理が上手な母親だった
生活は苦しくても、食事だけは毎日かかさず作ってくれた
もちろん豪華ではない
どんなに疲れていても、安い食材を工夫して料理をして、いつもテーブルには美味しそうな料理が湯気を立てていた
だから俺は、高校を卒業して就職をして母親に楽をさせてやりたいと言う子供の頃からの目標があった
でも、その唯一の母親が突然この世を去り、俺は自分自身を見失った
高校卒業目前に俺は自分のやろうとしていた事が消えてしまった
初任給で母親を旅行に連れて行きたかった
そんな話をいつも母親とするのが楽しかった
「どこへ行きたい?」
「どこでもいいよ」
「母さんが行きたい所に行こう」
「そうだねぇ・・・・・・」
「温泉に入りながら桜を見るとかさ」
「それもいいけど・・・・・勿体無いから、自分の服でも買いなさい」
・・・・・・と、結局最後は笑いながら俺の欲しいものを買えと言われていたっけ
いつも二人だった部屋が俺一人になり、堪らなく寂しいと感じた
毎日、美味しそうな匂いで起こされた朝
学校から帰り、玄関のドアを開けると漂う美味しそうな夕飯の匂い
休みの日は、二人でお好み焼きを作ったりお弁当を持って公園へ行ったり
でも・・・・・・
もうその匂いで起こされる事も、夕食が出来あがっている事もない
俺に残されたのは見えない明日だった
寂しさを紛らわせる為に、毎日夜の街で遊び呆けていた
一人の家には帰りたくない
ただの冷たい空間だから
この街で遊ぶようになってから知った事もあった
母親がいる時は、勉強ばかりで鏡すらまともに見ることがなかった俺
就職するまで面倒だからカットもしない髪は肩まで伸びていた
母親の死後、やはり面倒なのでそのまま伸ばし続けた
今更まともな就職なんて見つからないし、俺は葬式の後学校にも行かなかったので卒業式も出ていないし内定していた会社も当然消えた
これって、高校中退ってやつかもね
そんな俺に声をかけたのは、一人で店をやっていたバーのマスターだった
毎日フラフラしているのなら働かないか?ってね
俺はどうでもよかったけど、取りあえず仕事をしてみる事にした
確かに、毎日当てもなくふらついていても仕方が無いしね
そして、俺はバーテンもどきになった
最初は客も少なかった店だったのに、いつの間にか女性客ばかりで埋め尽くされていた
「やはり見込んだとおりだ」
「?」
「胡月、お前自分の顔知らないのか?」
「鏡は見るけど」
「お前は男の俺でも惚れそうな顔なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
喜びたくないけど・・・・・
一応褒め言葉だと受け取っておこう
そう
俺が知った世界の奴らは、俺目当てで来る奴らばかりだった
最初は話もまともに出来なかったけど、慣れとは怖いものだ
「胡月、今夜空いてる?」
客の中では顔も可愛くて金持ち女
どうせ遊ぶなら可愛い方がいい
「いいよ」
「じゃ、私朝ごはんつくってあげる」
「うん」
そんな感じで俺はまともに家にすら帰らなかった
でも、そんな生活は幻滅しか生まれなかった
女を満足させる術は覚えた
さっさとイカかせて俺も眠りたい
「ああっ・・・・もうっ・・・・だめぇ・・・・ああっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の上に倒れ込む女はみんな獣だな
俺は一度も満足した事は無い
別にそれでいいし、取りあえず人肌が隣にあればいい
そのまま眠り、目を覚まして溜息をつく
それが当たり前になってきた
「あっ、おはよー!」
「ああ」
「食事出来てるわよ」
「シャワー浴びてくる」
「わかった」
テーブルの上には豪華な料理が並んでいた
でも、全て買って来た惣菜ばかり
スープも温めるだけのもの
シャワーを浴びて、服を着ながら料理を見つめた
「今日は和食にしたの」
「うん」
「食べて食べて!」
「いただきます」
肉じゃが
きんぴら
刺身
揚げ出し豆腐
味噌汁
ご飯
全て温めるだけのもの
美味しいと感じたことは無い
そして、食べたいと思った事も無い
俺はこんな食事を求めてはいない
豪華なだけで味は薄っぺら
愛情もクソもないそっけない味
まるで俺に声をかけてくる女達は、いかにして豪華な出来合いの惣菜を自分が作ったかのように見せるかを競っているみたいだった
だけど、残念だがこの食事では俺の心はつかめない
逆にもう来ない家になるだけだ
「ねぇ、明日も家で食べない?」
「明日は休みだから無理」
「じゃ、あさっては?」
「そんな先の事はわからない」
「先って・・・・あさってなのに」
「俺にしてみれば、明日も遠い」
「もう・・・・・どうせ違う女の家に行くんでしょ?」
「それを君に話す義理もない」
「胡月~~」
「ごちそうさま、帰るよ」
「えっ?」
「じゃ」
「あっ、待って!」
聞きなれた言葉を無視して玄関のドアを開けて外に出た
金で美味しいものを買っても意味は無い事に気付け
「夕方か・・・・・どうしよう」
睡眠はとったし、やる事もない
仕方なく夜の街へ溶け込むように歩き出した
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