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やる事がなくてふらついていたら公園から声が聞こえた
退屈しのぎに喧嘩でもしようと思ったけど、逃げられた
そして、見知らぬ男を拾った
そいつはずっと泣いていて、男でも泣くんだと思った
正直、泣き顔に惹かれたと言う事は黙っていよう
「ここだ」
「マンション?」
「両親が残した唯一のものだ」
「そうなんだ・・・・ごめん」
「部屋は好きなところを使え、俺はシャワーを浴びてくる」
「ありがとう・・・あっ、あとキッチン借りてもいいかな?」
「好きにしろ」
「わかった」
キッチンは母親がいなくなった日から時間が止まっていた
住む家があったから俺と母親は生きていけた
でも、それだけの事
働かなければ生活は出来ない
母親は俺の為に、父親の保険金には一切手をつけていなかった
それを使っていれば、楽な暮らしが出来たのに・・・と通帳を見るまでそう思っていた
通帳には手紙が挟まっていた
(これは胡月のやりたい事に使いなさい)
やりたい事はないから、保険金はそのままだった
生活が苦しくても辛いと思った事はなかった
どうしてそう思えたのかと考えたこともあった
多分、それは・・・・・・毎日美味しい食事があったからだろう
シャワーを浴び、バスタオルで体を拭いていると・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この匂いは」
懐かしい匂いがした
「すぐ食べる?」
「ああ」
「わかった」
テーブルには湯気の立ったシチュー
綺麗に盛り付けられたサラダ
そして炊き立てのご飯
母親はシチューでもパンではなくご飯を出す人だった
「お前が作ったのか?」
「そうだよ、俺料理作るのが好きだから」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
「座って座って!ビールでいい?」
「冷蔵庫は空だったはずだけど」
「俺が買ったやつがあるから」
「そうか」
「パンがよかった?」
「いや、これでいい」
「そっか、日本人はおコメをしっかり食べないとね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉
母親も毎日言っていた
「さぁ、どうぞ」
「いただきます」
作りたてのシチューは母親が作るものと似ていた
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ああ・・・・俺はホワイトソースとか自分で作るから・・・・・もしかして口に合わなかった?」
「いや・・・・美味しいよ」
「よかった」
そう言って笑う笑顔もいい
きっとこいつはいままで損な生き方をしてきたんだと感じた
「お前はすぐ誰かに利用されそうだな」
「えっ?」
「金を貸してと言われて、返してもらえなくても自分が悪いと思うタイプだ」
「うわ・・・・正解」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「でもさ、何十万とかじゃないし、本当に困っているんだったらさ」
「彼女に二股をかけられても、謝れば許すだろ」
「・・・・・・・・・・・・それも正解」
「不器用すぎだ」
「でもさ、二股掛けられると言う事は俺には魅力が無かったと言う事だろうし」
「でも、誕生日にはプレゼントを要求される」
「ま、まぁ・・・・あはは・・・結局別れたけどね」
「お前は護られるほうが似合っているのかもな」
「女に護られるのはいやかな~」
「じゃ、俺とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「冗談だ」
「なっ、もう!めちゃくちゃ焦ったし」
「どうして?」
「どうしてって・・・・・どうしてだろう」
「普通の切り返しなら、すぐにばーか!じゃないのか?」
「うっ・・・・」
「それとも、俺の事が気になる?」
「なっ!」
「気になるなら教えてやるよ」
「えっ・・・・・いやいや、とにかく食べろ!」
「そうだな」
面白い
そして可愛い
とどめはこの料理だ
俺はこいつを逃がさないと決めた
「食べ終わったらシャワーを使え」
「でも」
「そのままがいいならそれでもいい」
「じゃ、使わせてもらう」
「ああ」
食器を片付ける後ろ姿を見つめ、微笑んだ
もうキッチンで料理を作る奴はいないと思っていたのに
動きも無駄が無いし、丁寧だ
本当に料理が好きなんだな
「お前の夢って何?」
「夢なんてもうないよ」
「夢は夢なんだから話せ」
「ん~」
タオルで手を拭きながら、少し考え笑顔で言った
「俺さ、お金を貯めて小さなレストランとかやるのが夢だったかな」
「レストラン?」
「免許はあるんだ・・・・使わないけどね」
「そうか」
「でも今は、仕事を探さないと」
グラスに入ったビールを飲みながら、無理して笑うアサを見つめた
「じゃ、シャワー借りるね」
「ああ」
レストランか
アサらしいな
そのまま立ち上がり、バスローブとバスタオルを用意してそっと置いた
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