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第16章―天と地を行き来する者―4
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「ミリアリアよ。私にも手紙はくれぬのか?」
「まあ、お父様ったら。ちゃんとお父様にもお母様にもお手紙を書くわ。月一でいいならね?」
「――ふむ。ずいぶんと少ないようだが、では頼んだぞ?」
「ええ、2人とも楽しみにしててね!」
王様は少し不満げな顔でアレンのことをチラリと見た。アレンはどこか肩身が狭く感じた。申し訳ないとばかりに彼は頭を下げたままだった。
「ユリシーズ。取り合えず貴方にも手紙を書くから楽しみにしててちょうだい」
「ははっ。有りがたき幸せ痛み入ります!」
「あとはガルシアにも手紙を書くわね?」
「おお、姫様……! ババは嬉しゅうございます!」
「まあ、ばあやったら!」
彼女は皆にそう話すと明るく笑った。
「アレン貴方にもお願いがあるの。言っても良いかしら?」
「それは一体、どんなお願い事ですか?」
彼が尋ねると彼女は大きな便箋の束を両手で手渡した。
「はい、私の思いを受け取ってちょうだい!」
「姫様これは…――!?」
アレンが受け取ったのは手紙用紙の束だった。ほかにも、手紙用紙が入った段ボールの箱の山を彼は受け取った。
「はい、3年間分の便箋の束よ。これで私にいつでも手紙を書いてね! あっ、書けない時は別にかまわないけど、できたら便箋の枚数は最低でも3枚はちゃんとかいてね? でも私はアレンが手紙を毎日くれたら凄く嬉しいわ!」
「なっ、なんか凄く重いです…――」
「そんなはずないわよ。渡した便箋の束、そんなに重かったかしら?」
「いえ、なんでもありません……」
「そうだわ。この便箋の束と箱は、帰りに台車にのせて持ってくといいわよ」
「姫様、名案ですね…――」
「一日に手紙を3枚かいても、1095日分くらいはあるから大丈夫よ!」
「そっ、そんなにですか…――!?」
アレンは手紙の束に顔が青ざめて言葉を失った。
ボクは空の上から彼らを観察しながら笑いが止まらなかった。彼女のストイックな発言には、ボクも笑わずにはいられなかった。どれだけ彼女に愛されているのか、それが伺えて余計に笑いが吹き出した。でも、余り空の上でゲラゲラ笑うと彼女に見つかるとヤバいとおもい。ボクは笑いを必死で堪えた。
「アレンどうしたの? それとも私に手紙を書くのが嫌……?」
「いえ、そうではありません。ただ姫様に気を使わせてしまって申し訳なく思いまして…――」
「まあ、アレンったら……!」
彼女は彼のその健気な言葉に、頬が赤くなって照れた。
「ではミリアリアよ、そろそろ出発する頃だ。馬車に乗りなさい」
「まあ、もう出発する時間なの?」
「道中はガヴェイとタウロニアとユリシーズとシュナイゼルが付き人として護衛してくれるから安心致すがよい」
「まあ、ガヴェイとタウロニアが? 屈強な彼らに守られたら私も安心ね!」
「ああそうだ。さあ、馬車に乗りなさい」
「わ、わかったわ…――」
彼女は出発の時間が迫られると馬車に乗り込んだ。アレンはその様子を外から見守った。彼女は一端は馬車に乗り込むが、そこで急におもいたったのか。後ろを振り向くと馬車から降りてアレンに抱きついた。
『アレンっ!!』
「ミ、ミリアリア様…――?」
いきなりアレンに抱きつくと、小さな手で服にしがみついてきた。その小さな手は僅かに震えていた。
「アレン……! わたし、わたし…――!!」
「姫様……」
ミリアリアは彼にしがみつくと、そこで堪えていた気持ちが抑えきれずに涙を流した。
「姫様いけません。もう行かなくてなりません。わたしはそのために、貴女様を見送りに来たのですから…――」
「うっ…うっ…ひっく……アレンっ……ひっく…ひっく……」
「私も姫様と別れるのは辛いです。ですが、今は耐えて下さい…――」
「うっ…ひっく…アレン……」
ミリアリアは人目も気にせずに悲しみに暮れた。瞳からは純粋な涙が溢れた。泣きじゃくると、彼は彼女を抱きしめて頭を撫でた。
「手紙、書きますね……?」
「約束よ…――?」
「ええ、必ず書きます。姫様あの空をご覧下さい。あの空は途切れることもなく遥か遠くに続いているのです。それは、人の気持ちと同じです。想う気持ちさえあれば、どこに居ても変わりません。それがどんなに遠くても、心はその人と繋がっているのです。姫様もそれをどうか信じて下さい。私の心は、いつも貴女と共にあります――」
「っ…アレン……うっ…うっ……」
彼の嘘も偽りもない。まっさらな言葉に彼女は再び心を打たれて涙を流した。アレンは跪いたまま彼女を両腕の中に抱き締め続けた。そこには幼さが混じった愛があった。
「私のこと忘れないでね……?」
「ええ、姫様を決して忘れません。ご安心下さい」
「約束よアレン。絶対に忘れないで。三年後が過ぎたら必ず帰ってくるからそれまで待っててね……?」
「ええ、約束です――!」
2人はそこでジッと見つめあった。彼女は泣き止むと彼の腕から離れて、馬車へと乗り込んだ。ドアがバタンと閉まる音が胸の中に切なく響いた。彼女が乗り込むと馬車はゴトゴトと鈍い歯車の音をたてながら動き出した。
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