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第16章―天と地を行き来する者―10
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「ふふふっ。ホントに参ったねぇ。この際キミをボクの鳥籠の中に入れたいよ。こんな退屈な鳥籠の中よりも、ボクの鳥籠の方がずっと素敵だと思うよ?」
「鳥籠? ラグエル、小鳥が欲しいの?」
「ふふふっ。さあ、どうだと思う? でも、前から気になってる小鳥はいるよ。でもその小鳥がちょっと鈍くってね。ねえ、どうしたらボクの気持ちに気づいてくれると思う――?」
ラグエルは怪しい眼差しで迫ると右の肩に手を置いた。ハラリエルはキョトンと不思議そうな顔で彼を見つめた。すると突如後ろからラジエルが声を上げた。
『貴様、ハラリエル様から離れろっ!!』
ラジエルは2人の間に割って入るとそのまま自分の方へと少年を引き寄せた。ハラリエルは驚いた表情で彼を見た。
「ラ、ラジエル…――!?」
「いけませんハラリエル様! あの者から離れるのです!!」
彼はそう言うとハラリエルの細い腕を無理矢理掴んで椅子から立たせた。
「いっ、痛いよラジエル……!」
「いいからこっちに来るのです!」
ラジエルは嫌がる彼を無理矢理、椅子から立たせた。そんな光景をラグエルは呆れたような目で薄笑いを浮かべた。ハラリエルを自分の背中に隠すと目の前でギロリと睨み付けた。
「悪魔の下部がここに何しに来た! 貴様のような輩がハラリエル様を目にすることは本来は許されることではないのだ! 早急にこの宮殿から立ち去るがいいっ!!」
ラジエルの怒りを前にして、彼は鼻で笑いながら拍手をした。
「相変わらず変わってないねぇキミは。その性格と良い。その嫉妬深さと良い。なんてキミは醜いんだろ? でも、キミのそう言う所。嫌いじゃないよ?」
そこでラジエルはカッとなると怒りのオーラを漂わせた。そして周りの空気はピリピリとはりつめた。ラグエルはそんな彼の前で、余裕の笑みで紅茶を飲んでクスッと笑った。
「キミにとやかく言われる筋合いはないよ。だってここはキミの宮殿じゃない。ここは彼の宮殿だ。だからボクが彼の家に自由に遊びに来ようが、キミには関係ないだろ? キミに出て行けって言われても、それは彼が決めることだよ。ね、ハラリエル?」
「ラ、ラグエル…――!」
ハラリエルは彼にその事を尋ねられると困った顔で下を俯いた。
「ねぇ、ボクはここにいてもいいだろ? せっかくキミに会いに来たのに、ボクを追い出すの?」
「そ、そんなことは……。ボクは…――」
「ハラリエル様っ!!」
ラジエルは口ごもる彼を強く叱った。
「いけません! 彼を今すぐこの宮殿から追い出すのです!」
「でっ、でも……! ボ、ボクはラグエルと一緒に遊びたい…――!」
「ハラリエル様、何故わからないのですか!? 彼は貴方を甘い言葉で誘惑して唆そうとしているのですよ!?」
「ち、違っ……! 違うよラジエル! ラグエルはそんなんじゃ…――!」
「貴方がこれほどまでに愚かな方だとは思いもしませんでした。では、私がこう言ったらわかってくれますか? 遥かその昔、世界が神の手により造られた創世の時代。エデンの園には神に似せて造られたアダムとイヴがいた。だが、そこに悪戯好きの蛇が現れて、蛇はイヴにつきまとった。そして禁断の果実を食べるように蛇はイヴを誘惑して唆して堕落させた。まさに彼はそうではありませんか。彼は貴方を甘い言葉で誘惑して唆して身も心も堕落させようとしているのです――!」
ラジエルはその事を話すと彼を睨み付けて指を指した。ラグエルは、彼のその言葉に表情を変えると不愉快だと言い返した。
「ボクが蛇だって…――!? 冗談じゃないよ、さっきから黙って聞いていれば言いたい放題言って! キミこそいい加減やめて欲しいね、彼は子供だけど子供じゃない! 彼にはちゃんと意思がある。キミこそ、彼の意思を尊重するくらいしたらどうなんだ!? 彼は人形じゃないんだぞ!」
ラグエルはついカッとなって言い返した。2人がいがみ合うと、ハラリエルは突如泣き出した。
「っ…ひっく…うっうっ…ひっく…や、やめて…! 2人共ケンカしないで! お、お願いだから…――!」
いがみ合う2人の前でハラリエルは涙を流しながら仲裁しに入った。彼が泣き出すと2人はそこで言い争うのをやめた。
「……まったくやってらんないよ。ボクはもう帰るからねハラリエル。また今度遊びにくるよ」
「ラ、ラグエル…――!」
ハラリエルはそこで彼を引き留めようとした。するとラジエルが腕を掴んだ。
「さあ、ハラリエル様! 大人しく自分の部屋にお戻りください!」
「痛いよラジエル! 離して…――!」
嫌がるハラリエルを彼は無理矢理、部屋に戻そうとした。
「ラ、ラグエル待って……!」
ハラリエルは後ろを振り向くと彼の名前を呼んだ。でも彼は後ろを振り向かずに翼を広げると何処かに飛んで消えて行った。彼が空に飛び去ると、空の上からヒラヒラと黒い羽だ落ちてきた。
『ラ、ラグエルぅっ!!』
急に彼が居なくなると悲しい顔で名前を叫んだ。でも、いくら空を見上げても彼の姿はもうなかった。ラグエルはハラリエルの前から完全に姿を消した。空から落ちてきた羽を拾うと、ハラリエルは悲しみに曇った表情でため息をついた。ラジエルは彼がいなくなると心ない言葉を口に出した。
「――これでようやく安心出来ます。彼は貴方を闇の底に引き込もうとしてるのです。私が引き留めるのも当然だと思います。さあ、部屋に戻りましょう」
ラジエルはそう話すと、肩に手を置いた。するとハラリエルは彼の方を振り向いて言い返した。
「酷いよ……。どうして意地悪するの? ボクはただラグエルと一緒に遊びたいだけなのに、どうしてラジエルは意地悪ばかり言うの? ねぇ、どうして!? ラグエルはボクの大切な友達なんだよ!? たった一人の友達なのに…――! ラジエルなんて嫌い、意地悪ばかり言うラジエルなんて大嫌いっ!!」
「ハ、ハラリエル様…――!?」
ハラリエルは悲しい気持ちが抑えられなくなると、泣きながらラジエルの前から走り去った。彼はそこで呆然となった。まさか彼にそんなことを言われるとは思ってもなかった。彼はあきらかに動揺した。
「愚かな――。この私があの子に感情的になるなんて。私はただあの子をずっと見守ってきただけなのに……。この私にこんな愚かで醜い感情があったとは知らなかった――」
ラジエルはハラリエルを知らぬ間に傷つけていた事を知ると、彼はそこで自分の愚かさを責めた。
私はいつから、こんな激しい感情を抱くようになったんだ。私は純粋で無垢なあの子を守りたいだけなのに――。一体、私の何が間違っているんだ……。
「ああ、ハラリエル様…――」
ラジエルは胸の奥がかき乱される思いに襲われた。ハラリエルは自分の部屋に戻ると扉を固く閉ざした。
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