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第17章―天上の刃―8
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「それは本当か?」
「なんだよ。疑ってるのか? 俺はこの目で確かめたんだ。囚人は顔や手足が食いちぎられていて酷いありさまだったぜ! そんな遺体の回収なんざ、こっちの方こそお断りだ!」
ハルバートは不機嫌な顔で言い返すと、両腕を組んで睨み付けた。
「じゃあ、お前はどうやってその遺体が逃げた囚人だと断定したんだ?」
苛立つ彼とは真逆に、リオファーレは冷静な口調で尋ねた。
「そんなもん、言わなくてもわかるだろ? 服だよ。死んだ遺体は囚人服を着ていた。あんな汚れた服を着ているのは、ここの連中ぐらいだ」
リオファーレは話しに納得すると、報告書に再びペンを走らせた。ハルバートは彼に向かってそう答えるとガンを飛ばして睨んだ。
「――遺体について事情はわかった。上にはそう伝えとく。あと、二三聞きたいことがある」
「チッ、しつけー奴だな。早くしろよ?」
「その遺体は何か所持品とかを持っていたか?」
「所持品? さあな、何も持っていなかったぜ?」
「何も?」
「ああ、そうだ。何も持ってなかった――」
「そうか。わかった」
その事を聞くと無言でペンを走らせて報告書に書いた。ハルバートは、囚人が持っていたオーブの事は話さなかった。リオファーレは報告書を書いてる途中で視線をどこかに向けた。視線の先にはテーブルの上にオーブが置かれていた。
「そのオーブは?」
「あっ? な、何だよ…――?」
「そのオーブは、どうした?」
リオファーレの鋭い質問に、ハルバートは慌てた表情を見せた。
「ああ、これか? これは俺が外で拾ったんだ。アンタだってオーブを見るのは珍しくないだろ。オーブくらい道具屋に行けば簡単に手に入るだろ? それとも何か言い事があるのか?」
「いや、別に――」
リオファーレはそう答えると視線を外した。報告書を書き終えると最後に彼に質問した。
「これは他の看守から聞いた話だが、お前達は帰還の途中に鳥|人族《ファルク》に襲撃されたようだな。それは本当か?」
「ああ、いきなりあいつらに襲われたんだ。とんでもねえ奴らだったぜ」
「――それは不運だったな。鳥人族が、この近辺に姿を現す事は滅多にないから珍しいな」
「そうだな。ここの近辺にいるのは、狼の群れくらいだ。確かに珍しかったぜ。で、他に聞きたい事はないのか?」
「ああ、報告には必要な事だけ書いておいた。もうきみに質問することはない」
リオファーレはハルバートにそう告げると、椅子から立ち上がって一礼した。部屋の出口へと向かうとドアの前で後ろから声をかけられた。後ろを振り向くと、ハルバートは右手をドンと扉の前に置いた。
「……何のつもりだ?」
出口を塞がれると、リオファーレは怪訝な顔で彼に尋ねた。するとハルバートはニヤリと笑った。
「前からアンタだけは他の奴らとは違って小綺麗な顔をしていると思ったら、近くでみると結構ベッピンさんじゃねーか。アンタに質問ばかりされて、こっちも面白くないから質問させろよ。アンタあいつの親父と仲が良いんだろ? いつも報告しに、あいつの所まで出向いているそうだが、何を報告してるんだ? はぐらかしてもバレバレだ。どうせ奴の事たがらアンタのその美貌に惚れ込んでるんじゃないのか? 報告ついでにご奉仕してそうだよなあ、アンタ。出なきゃどうやって奴と親しくなったんだ? 何か秘策があるんじゃねーのか?」
ハルバートはそう話すと、リオファーレに怪しく迫った。
「クロビスの親父はなあ、昔から冷酷非道の男なんだ。だれも信用しねぇような男が、何でアンタみたいな奴を信用してるんだ? アンタのその色香で奴を惑わしてるのか?」
ハルバートはドアの前で怪しく迫った。彼の美しい顔に右手で触れると、そのまま手をゆっくりと下に下げた。そして、指先でなぞるように触れると胸元に手が止まった。
「野郎の癖に女見てえな顔をしやがってよ。その上、色気を振りまいて誘ってやがる。アンタみたいな奴をここでは淫乱な娼婦って言うんだよ。それともあいつとはもうヤってるのか?」
彼の耳元でそう話すと制服のネクタイを片手で掴んで見つめた。リオファーレは問いかけには答えずに沈黙を貫いた。
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