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第18章―虚ろな心―12
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「フフフッ。がっつくな、卑しい奴だな」
そう言って話す様子はどこか楽しんでいるようにも見えた。クロビスは彼の方に目を向けると、くすりと挑発的に笑った。ギュータスはジャントゥーユに嫉妬すると気分を害したと言って、部屋を出ようとした。するとクロビスが後ろから声をかけた。
「おい、待て。どこに行く気だ? 私に用があったんじゃ、なかったのか?」
後ろから呼び止められるとギュータスは振り返った。
「ああ、あったさ。でも、お取り込み中悪いから出直す」
そう言った彼の表情はどこか苛立っていた。クロビスはそこでククッと笑うと、舐められていた手を振り払った。
「お取り込み中か。お前も面白い冗談を言うな。私が待てと言ったら待つんだ。ああ、それとも下僕が主に逆らう気か?」
クロビスはそう話すとソファーの前で足を組んだ。ギュータスは舌打ちをすると再び彼に近寄った。
「――奴から頼まれた報告書だ。お前に渡せって言われたんだ」
ギュータスはそう話すと報告書をクロビスに手渡した。
「奴から?」
「ああ、リオファーレからだ。あいつは他にする事があるから、お前に渡せって頼まれたんだ」
「ふん。あの生け簀かない男か……。さっさとそれを私によこすんだな」
クロビスはそう話すと、手に持っている報告書を嫌々受け取った。
「で、報告書の内容は?」
「さあな。たぶん逃げた囚人についての報告書だろ?」
「逃げた囚人――。そんな事もあったな。だが、今となってはそんなのどうでもいい。私が報告書に目を通すまでもない」
クロビスはそう話すと興味なさげな態度をとった。ギュータスは彼に報告書を手渡すと不意に尋ねた。
「なあ、他の奴から聞いた話なんだけど。お前があのジジイを殺ったって本当か?」
「あのジジイ?」
「ああ、あいつだよ。あの看守の男だ」
ギュータスがその事を話すとクロビスは鼻で笑った。
「くくくっ。何を聞いてきたと思えば、そんな事か? ああ、そうだ。私が奴を殺してやった。お前にも聞かせなかったな。奴の哀れな断末魔を――」
クロビスはそう話すと残酷な顔で笑った。
「私が奴をどうやって殺したか聞きたいか? いや、それが知りたくて私の所に来たんだろ。違うか?」
ギュータスはその事を聞かれると、視線をそらした。
「俺は別に、ただ……。アンタが何で奴をあんな風に殺したかわからねんだよ」
「なんだお前。私が怖いのか?」
「さあな。でも、何であんな風に殺したか気になる。昔、あいつと何かあったのか?」
ギュータスは言葉を濁してその事を尋ねると彼の表情は一瞬変わった。そこには彼の闇が見えた。クロビスは突然キレると、テーブルの上にあるワイングラスを持って投げつけた。
「うるさい! 貴様には関係ないだろ! 貴様もあいつみたいに私に殺されたいか!?」
クロビスギュータスに向かって怒りながら叫ぶと、敵意を剥き出した。ジャントゥーユは彼の怒鳴り声に驚くと首輪をつけたまま部屋を飛び出した。クロビスは怒りながら鞭を振り上げた。
『この私を不愉快にさせるとはそれが下僕のする事か! おのれぇっ!!』
彼は怒りながら鞭でギュータスを容赦なく叩いた。そして時おり激しい罵声を浴びせた。クロビスは怒りがおさまると鞭を床に投げ捨ててソファーに座った。ギュータスは床に跪くと両手をついて頭を下げた。
「わっ、悪かった…! もう聞かねえから鞭で叩くのはやめてくれ…――!」
彼はそう言って頭を下げて謝った。クロビスは頭を下げる彼を上から見下して唾を吐き捨てた。
「どうだ。私は怖いか?」
クロビスはそう言って彼の顎先を足の先でクイッと上に向けた。椅子から見下ろす姿は、冷酷な美しい女王のように見えた。足の先で顎をクイッと上に向けられると、ギュータスはその支配感に酔しれた。
「ああ、アンタを見るだけで心底ちびっちまいそうだ。アンタはここの女王様だ。冷血で残忍で冷酷な仮面をつけた恐怖の女王それがアンタだ――。ここではアンタの支配に、誰もが跪ずくぜ」
ギュータスはそう話すと、彼の白い素足に堪らずキスをした。クロビスはその言葉に不敵な笑みで笑うと優越感に浸った。
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