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第1章―鎖に繋がれた少年―
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極寒の大地――グラス・ガヴナン。巨大な要塞の建物の中にあるタルタロスの牢獄には、幽閉されて何年も鎖に繋がれた少年がいた。彼には名前は無い。あったとしても彼にはもう、遠い記憶の過去の一部でしかない。ここでは彼はこう呼ばれていた。呪われた″異端の子供″と。
薄暗闇の牢屋の中に僅かな光が差し込む。少年は、その光を何年もずっと薄暗闇の牢屋の中でそれを見続けた。薄い布を纏った少年は極寒の大地に吹き荒れる冷たい風に幼い体を小さく震わせながら、じっと牢屋の中で耐え続けなければならなかった。
タルタロスの牢獄は、湿った空気と暗闇と異臭に満ちていた。時おり誰が歩く足の靴音が、鎖に繋がれた少年のいる牢屋の辺りまで聞こえていた。少年は一言も声を出さずにジッと牢屋の外を黙って見ていた。
少年はわかっていた。例え喉が渇れるまで泣き叫んでも、誰も助けにはこない事を。鎖に繋がれた両手で少年は小さな石の破片を拾い、石で出来た壁に何かを削るように壁に書いた。
壁には1の数字がひたすら並んでいた。少年は数字を書くことで、流れる月日数えていたのだった。暗闇の牢屋に閉じ込められた少年は、今が夜なのか昼かさえもわからない。僅かな光が差し込むことで今が昼だと少年はやっと気がつく。気が狂いそうな日常に少年は長い間ひたすら耐え続けた。そして、時おり爪を噛んでは、自分の中で混み上がる怒りの感情をおさえたのだった。
――その時の少年は、ろくに食べ物も与えられずに飢えに苦しんだ。痩せ細って動けなくなると、たまに看守が少年に食事を与えた。少年は食事を与えられると、あわてて無我夢中で貪りながら食べた。
その様子を看守は離れた所で冷たく せせら笑いを浮かべたのだった。そんなある日、2人の看守が少年に食事を与えにきた。少年は痩せ細ってしまって、また動けなくなっていた。すると1人の看守が少年に食事を与えた。
「そら、ありがたい食事をワザワザ持ってきてやったぞ! 俺達に感謝しろよな!?」
黒髪の若い看守は薄ら笑いを浮かべながら、あるものを少年の目の前に突きつけた。
「どうだ、見ろよ。うまそうだろ?」
黒髪の若い看守は少年の目の前に、死んだネズミの死骸を見せつけたのだった。少年はそれを目の前にして絶句した。看守は悪魔の顔をしながら少年を背後で殴りつけると、その場で地面に両手をつかせた。その様子をもう1人の看守が冷酷な表情で、くすりと笑いながら傍観した。
「――何してるんだ貴様? 食事の時間だ、早く食べろ!」
銀髪の若い看守がそう急かすように言うと、少年は頭を横に振った。するとさっきの嫌味な看守が、少年の手を自分の履いてる靴で踏みつけてきた。
「どうしたんだ~? いつも見たいに旨そうに食えよ~? せっかく捕ってきてやったのに食べたくないとか言ってんじゃねーよ」
看守はそう言って、少年の手をさらに足で容赦なく踏みつけたのだった。少年は痛みで泣き叫ぶが、誰も救う者は其処には居なかった。 ただ悲鳴だけが暗闇の牢獄の中で響き渡った。
「食べるのが礼儀だろ!? さあ、食べろ! 食べるんだ!」
嫌味な看守は少年の頭を鷲掴みにすると、ネズミの死骸を口元に無理やり近づけた。泣きわめく少年を看守2人は、哀れみすら感じない程にさらにいたぶったのだった。そして殴られて大人しくなると、少年は泣きながら看守の言う通りにした。
「さっさと食べろよクソ異端児!」
黒髪の若い看守は、ネズミの死骸を少年の口の中に突っ込んだ。少年は死んだネズミの死骸に嗚咽して、吐きそうになった。だが、看守達にこれ以上殴られたくなかった少年は、2人の看守達の前で口に入れられたネズミを食べ始めたのだった。
静寂の中、グチャッと磨り潰す音が牢屋の中で響き渡った。この世のものとは思えないくらい酷い味に、少年は我慢してネズミを泣きながら食べたのだった。噛むたびにグチャッグチャッと、骨を噛み砕く音も聞こえてきた。
自分の耳を塞ぎたくなるような音が頭に響き。服は血でベトベトになり、口からはネズミの血が滴り落ちた。看守はその様子を見ながら、2人して嘲笑いをしたのだった。そして、少年はネズミの死骸を食ベ終えるとその途端に気を失うように床にバタンと倒れた。2人の看守は少年をいたぶることに満足すると、牢屋に鍵をかけてそこから遠ざかったのだった――。
少年は床に倒れたまま、悔しさと怒りに自分の拳を強く握った。怒りで唇を噛み締めると、口元から血が流れ出た。そして、牢屋の中でけたたましく叫んだ。
『ウオオオオオオオオォォォッッ!!』
吹き荒れる強い風の音さえ消し去るように、少年は牢屋の中で強く大声を出して叫んだ。少年はその時に強く感じた。
この世に神はいない…――。
あるのは人の憎悪と憎しみと、強い怒りだけがそこにあった。少年は神から遠ざかると、邪悪なる者に力を求めたのだった。
力が欲しい! 全てをのみこみ、破壊尽くす程の巨大で大きな力が欲しい――!
少年は心の底から強くそのことを願うと、声に出して呟やいた。そして、その日から力だけを求める者へと染まるのであった。
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