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第6章―竜騎兵―6
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彼がそう答えると、いきなりハルバートの目つきが変わった。
「何……?」
ハルバートは部下が持ってきた酒の瓶を片手で受け取ると、そこで興味津々な表情で聞き返した。
「へーそうかい。で、その山とは何だよ? ここ何年かは何も起きないからよ、俺達は毎日くそみたいに退屈なんだよ。わかるか俺達のやり場のない怒りが? ギレイタスの野郎が倒れてからはここの内情もすっかり変わっちまったぜ。看守達には見回りの仕事があるのによう、俺達の仕事は減る一方だ。一度そのことについて坊っちゃんと話し合いたいところだが、なんかデカイ野郎が坊っちゃんの傍に引っ付いてるからよう、なかなか話せねえんだよな。本当あれには困るぜ。坊っちゃんも趣味が悪くなったな」
ハルバートは愚痴をこぼすと酒を煽ってほろ酔いした。そんな彼の愚痴なんかおかまいなしに、ジャントゥーユは再び伝えた。
「今朝方だ……囚人が一名、牢屋から脱走した……」
彼がその事を伝えると、ハルバートは口に含んだ酒を思わず前に吹き出した。
「なっ、なんだと!? それは本当か……!?」
その話に驚くと、急に椅子から立ち上がった。女はその拍子に床に倒れた。
「邪魔だ退け! お前はもう自分の部屋にでも行ってろ!」
女は肌蹴たシーツを片方の手で押さえると、もう片方の手で自分の髪をパサリと払って立ち上がった。そして、女は言われるままに自分の部屋へと奥に消えて行った。ハルバートは椅子から立ち上がると一言尋ねた。
「その話は本当だろうな? 嘘だったら承知しねーぞ! 俺はな、ぬか喜びするのが大嫌いなんだよ!」
「ああ、本当のことだ……」
ジャントゥーユが正直に答えると、ハルバートの表情が一瞬怪しくにやけた。彼はにやけた顔を隠せない様子だった。久しぶりの大事態にハルバートは手元が奮えると持っていた酒の瓶を小刻みに震わせた。久しぶりの出番にハルバートは思わず、顔がにやけた。上手くいけば彼らにとって名誉挽回のチャンスだった。彼は持っている酒の瓶を床に落とすと、慌てて誰かを突然呼びつけた。
「おい、リーゼルバーグ! リーゼルバーグ! 今すぐ来い!」
ハルバートが大きな声で誰かの名前を呼ぶと、部屋の奥から1人の年老いた男が現れた。彼は口元に髭を生やし、金髪の長髪に後ろをポニーテールにして一本に結んでいた。荒くれ者の竜騎兵の部下達とは打って変わり、彼だけはきちんとした服装をしていた。見た限り、彼は気品が何処か漂っていた感じだった。彼は白銀の竜の鎧を身に纏いながら堂々とした足どりで床の上を歩いた。周りは彼が現れると直ぐに道をあけたのだった。そして、彼の前に立つと一言返事をした。
「私を呼んだかハルバート?」
リーゼルバーグは凛とした口調で彼にそう尋ねた。ハルバートは彼の顔を見ると何気に言った。
「あいかわらずだなリーゼルバーグ。お前だけはいつまでもまとも面こきやがってよ、俺と同じく落ちてる癖にムカつくぜ。そんなに騎士だった頃が懐かしいか?」
ハルバートがそう質問すると、彼は一言言い返した。
「お前と私は違う! お前は騎士の誇りを捨てたが、私は騎士の誇りを捨ててないだけだ! 悔しかったらいい加減、その目を覚ましたらどうだ! クルセードの名に傷がつくぞ、それともお前にとってはすでに過去の話か!?」
リーゼルバーグは真っ直ぐにジッと見つめると、彼自身に語りかけている様子だった。ハルバートは突然カッとなると、彼の胸ぐらを掴みかかった。
「なんだと、余計なお世話なんだよ! 相変わらずテメェは生意気な奴だぜ! クルセードだぁ? ふざけんな、んなもん今さらクソ喰らえだ! テメェの騎士道精神には毎回吐き気がするんだよ! いい加減、騎士ヅラするのはやめろ! 過去に囚われてるのはテメェのほうだろ!?」
2人がいきなり睨み合いを始めると、一触即発の状態だった。隊長と副隊長が睨み合うと、周りは直ぐ様2人の間に割って入った。部下の数人が2人を引き離すと、周りは冷や汗をかいたのだった。ハルバートは気をとり直すと尋ねた。
「おい、今朝方に囚人が1人脱走したってのは本当か――?」
「ああ、本当のことだ」
彼はそう言って答えた。すると、ハルバートはいきなり掴みかかった。
「俺に何故、報告しなかった!」
「覚えていないのか? 今朝お前に報告しただろ?」
「なっ、何……!?」
彼はそう話すと、呆れた表情で一言指摘した。
「今朝その事を報告したが、お前は色情に溺れていただろ? それにアイツから貰った薬もやっていた。そんな状態で一体何を覚えていられるんだ? いくら地に落ちたからと言えでも、私はお前みたいに落ちたりはしない!」
リーゼルバーグはそう話すとそこで問いただした。彼の説教にハルバートは、ウザそうにそこでため息をついた。
「おいおい、なんだよまた説教か? 説教なら後にしろよ。もう言い下がれ!」
ハルバートはウザそうな態度で彼を軽くあしらった。リーゼルバーグは黙ると近くにあった椅子に腰をかけて座った。一通り確認を終えるとジャントゥーユの方を向いてハルバートは返事をした。
「……なるほど、どうやら本当みたいだな。おもしれえ、一応聞いてやる。どうなってるのか話せよ?」
ハルバートがそう言うと、ジャントゥーユは今までの話を簡単に纏めて経緯を彼に話した。
「ふーん。そうか、オーチスの奴がそんなことを仕出かしたのか。でもあいつがそんな馬鹿げた事をするとは思えねーのは気のせいか? 確かにあいつとは古い付き合いで顔馴染みだけどよ、あいつにそんな度胸はねぇ。何せあいつは昔からチキン野郎だからな!」
ハルバートはそう言って話すと、突然思い出し笑いをして笑い飛ばした。
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