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第6章―竜騎兵―7
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「あいつはチキン野郎だからそんな度胸はねえ。あったとしても墓穴を掘るだけだ。まあ、本当にあいつがやったならそれはそれで面白い話だけどよ。退屈しのぎにはなるけどな。でも、そんな事してなんの得があるんだよ? 情に流されるような奴には見えねえーし、なんか引っ掛かるんだよなぁ……」
彼がフと呟くと、リーゼルバーグは黙って頷いた。
「確かにあいつは長年看守をしていたが、囚人に対して情がある奴とは思えん。ましてや囚人を牢屋から逃がすなどとは気が触れてるとしか…――」
2人はそこで考え込むと、小さな疑問を感じていた。ジャントゥーユはそんな彼らに再び命令した。
「クロビスがお前達に出動命令を下された……! 役立たずのお前達には、良い機会だろ……! 早くダモクレスの岬に向かえ……!」
彼がそう告げると、ハルバートは椅子から立ち上がって一言怒鳴った。
「うるせぇ、んな事はテメェに言われなくても一々わかってるんだよ! 俺達は犬じゃねぇんだぞ! はいそうですかって、簡単に行けるか! おい、リーゼルバーグ! 確かダモクレスの岬はここから少し離れてる所だったよな!?」
ハルバートが突然質問すると、彼は側で答えた。
「ああ、そうだ。でも、人の足であそこに行くのには無理があるぞ。あそこには野生の狼の群れがある。そして、吹雪きがもっとも荒れている場所だ。我々が、やすやすと近づけば命取りになるだろう。それに今日みたいな天気ならば視界が悪いのは当然だ。逃げた囚人もあそこまで無事に辿り着けるとは考えにくい」
リーゼルバーグは物事を冷静に見極めるとそう言って助言した。その話にハルバートも冷静に頷いた。
「アンタの言う通りだぜ。チッ、よりによってあそこに逃げるとはな。とんでもなく達が悪い囚人だ。足であそこまで行くにはかなりの時間がかかる。やっぱり探すとなると空からになるな。この時間じゃ、外の視界もかなり悪い。そうだ。目がいい奴を5人ほど連れて行くか?」
ハルバートがそう言って彼に話すと、近くの棚の上にあった古い地図を持ち出した。そして、そのままテーブルの上に地図を広げたのだった。
「そうだなハルバートよ、ワイバーンは目は良いほうだ。肝心なのは連れて行く人間だ。エドガーとカイルとユングとロジャーズとスティングを連れて行こう。彼らは竜騎兵の中では一際目が良い方だ。場合によれば彼らは使えるぞ」
そう言ってリーゼルバーグがスティングの名を口にすると彼は一瞬、ピクっと反応した。そして、一言いい返した。
「スティングならもういない…――! 生憎だが、奴は死んじまったから連れて行くのは4人だけにするぞ!」
何も知らない彼にハルバートはそう言うと、テーブルに広げた地図にナイフを突き立てた。
「おい、スティングはどうした?」
彼が再び尋ねるとハルバートは黙ってナイフを手に持つとそれで何処かを指した。彼はテーブルの前で後ろ向きで何処かを指し示していた。リーゼルバーグは不意に指された方向を見た。すると部屋の隅に白い布が被されていた遺体を発見した。彼はおもむろにその方を歩き出すと、布が被された遺体を黙って捲った。
彼は布を捲るとそれがスティングの遺体だと確認した。気がつけば床には、血の池ができていたのだった。彼は一瞬、ハルバートの方を見た。彼はテーブルに両手をついたまま、黙ってそこに立っていた。リーゼルバーグはスティングの遺体を見るなり呟いた。
「これはひどい、なんて有様だ……! 一体彼に何が起きたと言うんだ。まさかお前が殺ったのか…――?」
「ふざけんなよ! いくら薬で頭がラリっていも俺は自分の部下は殺さねぇ! 殺ったのは俺じゃねえ、あいつがスティングを殺ったんだ!」
そう言って彼が怒鳴り散らすと、リーゼルバーグは不意にジャントゥーユの方を見た。彼はニタリと怪しく不気味に笑っていた。
「くそっ、よくもスティングを……! あいつはバカだったけど、俺にとっちゃ可愛い部下だったのによ……!」
ハルバートはそう呟くと、少し落胆した表情をみせた。リーゼルバーグは彼の遺体に騎士の祈りを捧げると「やすからに眠れ」と言って布を被せた。そして、沈痛な趣でハルバートの傍に寄った。
「おい、大丈夫か…――?」
「っ、うるせぇ……!」
ハルバートは怒りに内震えると、彼が肩に置いてきた手を振り払った。突然の部下の死に動揺している様子だった。そして、2人は再び会話をすると、そこでダモクレスの岬に行くことを決めた。
「一応言っとくが俺も行くからな、最近は相棒と空を飛んでねえからよ。あいつも窮屈な小屋の中で毎日いたらストレスが溜まってるかも知れねえし、たまにはあいつを外でおもいっきり暴れさせてやらないとな。んで、散歩ついでに脱走した囚人を生け捕って来てやるぜ!」
ハルバートは彼にそう言うと、そこでおかしそうに笑った。
「――お主、そんな状態でまともに空を飛べるのか? 薬にも手を出した今のお前にまともに竜と心を交すことは出来るのか?」
彼が不意にそのことを尋ねとハルバートは黙った。
「いいか、昔とは違うんだぞ! 今のお前は…――!」
リーゼルバーグが急に声を張り上げると、黙っていた部下達は一斉に彼の方を見た。ハルバートは何かを思い詰めると僅かに拳を震わせた。
「やれやれ、これだから騎士って奴は…――」
ハルバートは一言そう言うと、リーゼルバーグに真っ向から話した。
「あんたは自分がそうだと思う道を歩めばいい。俺は自分がそうだと思う道を歩む。俺とあんたは違う、俺を見てみろよ? どこにクルセードの誇りがあるんだよ? あったとしても埃まみれで、んなもんはもうねーんだよ! クルセードの誇りならとっくの昔に捨てたんだよあの時にな…――!」
彼はそう言うとどこか寂しそうに表情を曇らせた。
「あんたは騎士としての誇りを捨ててないならそれでいいだろ、何を期待しているんだ? 過去の俺を探すのはもうやめろ!」
ハルバートは自分の思いを彼にぶつけると、テーブルの上に拳をドンと叩きつけたのだった。
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