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第7章―闇に蠢く者―3
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カマエルは我が子の話を聞かされると、深い悲しみに暮れた。そして、ローブを纏った者に一言告げた。
「3人の息子達の安否が気になるがお前が無事でなりよりだ。お前も私の大事な息子の一人だ。それを決してを忘れるではないぞ…――!」
父のその言葉に彼は黙って頷いたのだった。
「そうか、私が捕らわれている間にそのような事があったのか。だが、天界にはミカエル様やウリエル様やガブリエル様やラファエル様がいる。それに偉大なるアークエンジェル様や、他の天使達も……! 悪魔ごときに我々、天使が負けるはずがない!」
カマエルはそう話すと力強い眼差しで前を見つめた。彼の気持ちとは裏腹に、ローブを纏った者は父にある事を告げた。
「カミーユ様、ミカエル様のことで一つ申し上げます。天界に魔族の群れが押し寄せ、貴方様が悪魔達に捕らわれたあの日、ミカエル様は封印されし暗黒の地、モルグドアの暗黒の門へと数人の天使達を連れて向かいました。そして、そこでミカエル様は最大の宿敵サタンの不意打ちにあったのです…――!」
「なっ、何だと……!?」
その言葉にカマエルは、全身にとてつもない衝撃を受けた。
「貴様、何を戯けたことを言っている! 偉大なるミカエル様は四大天使の1人であり、天界でもっとも優れた最高位の天使とされるお方だ! そして、あの方は全ての天使を統べる天界最強の大天使であり、その大天使長のミカエル様が、忌まわしきサタンの不意打ちにあうなどとは、何て愚かな発言を述べたのだ! 例え、我が息子であってもミカエル様を愚弄するなどとは決して許されることではないぞ!」
カマエルは怒鳴り声を上げると、天使特有の怒りに満ちたのだった。その怒りは大気のように辺りを包み込み、触れるもの全てを共振させた。父の逆鱗に触れると、彼は咄嗟に許しを乞いた。
「お許し下さいカミーユ様、どうかその怒りをお鎮めください……! 貴方様の怒りはごもっともです! ですが、私はあの日この目で見たのです! ミカエル様がモルグドアの門でサタンの不意打ちによって倒れるお姿を…――!」
彼は父の逆鱗に触れるのを承知の上で、自分がその目で見た真実を告げた。
「なんてことだ! 我らの偉大なるミカエル様が、悪しきサタンの手にかけられようとは…――! そのような事はあってはならん、決してそのような……!」
カマエルは鎖に繋がれた牢屋の中で怒りと悲しみに満ちると、我を忘れたかのように嘆き悲しんだのだった。その様子は、絶望に包まれた者の深い悲しみに打ち拉がれるような様子だった。壁に貼りつけにされて杭で打たれた両方の翼は、怒りと悲しみを表すようにもがいた。その嘆きの様子は、ミカエルが彼にとって絶対なる存在である事を示すと同時に、彼の中で絶対なる存在が崩れ去った瞬間でもあった。今まで見たことがない父の深い悲しみの姿に、彼は黙ってそこで見ているしかなかった。
カマエルは暫く現実を受け入れることが出来なかった。そして、重たい口を開くと彼は尋ねた。
「――もうよい、お前がその目で見たことを全て話せ。包み隠さずに全てだ!」
「カミーユ様。魔族が天界に押し寄せたあの日、ミカエル様と他の天使と私は、モルグドアの門へと向かいました。そして、開くはずもない扉が僅かにですが開いていたのです。私達は扉の前で目を疑いました。ミカエル様が遥か何千年前に封印なされた扉が開いていたのです。天魔大戦でミカエル様は激しい激戦の中、サタンと戦って幾多の死闘を天と地で繰り広げました。そして、ミカエル様は神からさずかりし剣で、宿敵サタンの心臓をその剣で貫き。悪魔の王を遥か闇の中へと永遠に葬り去りました。その時に、冥界のジャハンナに通じる唯一の出入り口であるモルグドアの門をミカエル様は、神の大いなる力により封印なされたのです。その開くはずもない扉があの日、僅かに開いていたことに我々は驚愕せざるを得なかったのです……! ミカエル様は、邪悪な悪魔達が扉の外から出ないようにと再び封印を施そうと扉に近づいたのです。そして、その時にミカエル様はサタンの罠にかけられたのです…――!」
真に迫る話に、カマエルは次第に牢屋の中で恐れを感じた。それは、彼が頭の中で想像した悪い予感だった。余りの恐ろしさに少なからず絶望を感じ始めたのだった。彼はそんな父を気遣いながら話を続けた。
「それは一瞬の出来事でした。ミカエル様が扉の前に手をかけたと同時に扉の向こう側から1つの剣が放たれ、そのまま剣はミカエル様の心臓を矢の如く瞬く間に貫いたのです! それはまさしく、邪悪なサタンを闇に葬り去った剣クラウ・ソラスでした! 私が幼き頃、母と共に見た絵本に描いてあった剣は、まさしくあの剣でございます…――!」
「ばっ、馬鹿な……! 光の剣(クラウ・ソラス)はあの時、サタンの体と共に闇の中に永久に葬り去ったはずだ! 光の剣(クラウ・ソラス)で破れた者は、例え悪魔の王でさえも、抜く事は敵わぬはずだ……! あのような悪しき者が聖なる剣に触れる事は出来ぬはずなのに、何故それが扉から放たれたのだ……!?」
カマエルは驚愕しながら全身を酷く震わせた。そんな父の激しい動揺は彼にも伝わった。
「光の剣(クラウ・ソラス)の役目はサタンを倒すこと、そしてその悪魔の王を永久に封印することが役目のはずだ……! 体を封印されたのにも関わらず、サタンはまだ足掻こうとするとは何て恐ろしい奴だ……! 死してその体を封印されてもなお、天界になんの恨みがあると言うのだサタン――!」
カマエルは激しい怒りを込み上げると、遥か古の天使の言葉でサタンを罵ったのだった。怒りで荒ぶる父の様子を伺いながらも、彼は再び話を始めた。
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