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第7章―闇に蠢く者―4
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「たとえ光の剣であっても長い間あの闇の中に囚われていれば、たちまちその聖なる光は失われます。ましてや、悪魔の王を剣で封じ込めるとなればどれだけの負荷が剣にかかるかは、我々には想像できません。恐らく、剣は悪魔の王の力に負けたのです。悪魔の王の力は巨大です。たとえ体を封印されても、その力が衰えることはありません。サタンは長い間時間をかけて自分の体を封じた剣に語りかけ、呪いの言葉をかけ続けたのです。そして、剣は悪魔の力に破れて聖なる光を失い、サタンの体から剣が抜け落ちたとしか考えようがありません…――!」
「何を戯けたことを……! 悪魔の王はあの時、ミカエル様の手によって死んだんだ!」
カマエルが激昂しながら言い返すと、彼は反論した。
「貴方もご存知なはずです。悪魔の王の力の恐ろしさを……! すべてにおいて完璧なサタンだったらそれくらいやってのけてもおかしくありません! ましてや神の愛を誰よりも受けた彼なら、我々よりも遥かに勝っている事は確かなはずです! ミカエル様に倒された時に、その肉体と精神を時切り離したのであれば十分に考えられます……! そして、光の剣から時放たれた彼の肉体は、今では主の帰還を待つばかりの"器"になったのです……! おそらくですがサタンは肉体を取り戻しました。ですが、精神は肉体に帰れずに今はさ迷う魂だけの存在かも知れません。だからあの時サタンは、扉の前でミカエル様が来るのを待ってたのです…――!」
「黙れぇっ!」
カマエルは息子の真に迫る言葉に驚きを隠せないでいると、思わず怒鳴り声をあげたのだった。
「ミカエル様に対しての屈辱的な言葉の数々に、私はお前を我が一族の恥だと思うぞ!」
「いいえ父上、私はそうだと疑っています……! だからあの時ミカエル様は扉の前でお倒れになったのです! そして、剣は彼の体を貫抜いた時に、あの様なおぞましい呪われた剣へと姿を変えていたのです! クラウ・ソラスはサタンの強力な力で呪いをかけられ、サタンの手により神殺しの剣になって生まれ変わったのです――!」
その瞬間、息子のある言葉に彼は突然、雷に打たれたかのような大きな衝撃を受けた。
「神殺しの剣だと……!? バカな、その剣の名前を口にするではない! 口にすればたちまち呪われるぞ!」
カマエルはそう言いと、酷く血相をかいて慌てた様子だった。
「――まさかクラウ・ソラスがサタンの忌々しい力によって神殺しの剣に生まれ変わるとは……! もはや、光の剣は闇に落ちたと言うわけか。なんて恐ろしい事実だ……! 剣が主を裏切る等とは、決してあってはならないことだ!」
余りの衝撃に彼は取り乱したようにブツブツと一人言を呟いた。そして、我に返ると不意に尋ねた。
「ミカエル様はサタンの手にかけられたが、無事なのか……?」
父の質問に彼は、黙ったまま沈黙した。その様子にカマエルは表情を青ざめさせた。
「何故答えぬ! ミカエル様は無事なのかと聞いておるのだぞ!」
「――カミーユ様。何故あの剣が、神殺しの剣と呼ばれるのかお分かりですか? 貴方もお分かりのはずです」
「言うではない! お前は間違っている! 間違っているぞ…――!」
カマエルは直ぐに言い返すと、真実から目を反らして心を閉ざした。
「私はあの日、あの場所に他の天使とミカエル様と一緒に居ました。真実を話せと言ったのは貴方です。お辛いでしょうが、どうか最後までお聞き下さい……!」
彼はそう言うと、鉄格子の前に佇んで父を見つめた。カマエルは息子の言葉に耳を傾けると、身を引き裂かれるような気持ちに襲われながらも話を聞くことにした。それは彼にとっては、余りにも辛い現実だった。
「神殺しの剣はまさしく、我ら天使には天敵とも言える剣です……! クラウ・ソラスがサタンの力によってあのような恐ろしい剣に姿を変えたことにミカエル様は、お倒れになられた時にとてもショックな顔色でした。側で見ていた我々にも、それは直ぐに伝わりました。扉の向こうから放たれた剣はミカエル様の心臓を一瞬で貫き、彼の生命に関わるような致命的な深傷を負わせたのです……! それはまさしく彼の死を告げるような、そんな悪夢のような信じがたい恐ろしい出来事でした。ミカエル様はあの剣で命をおとされたのです…――!」
「なっ、何っ……!?」
カマエルはその話に驚愕すると、今まで以上の激震に身を震わせた。
「倒れた時には既に息がありませんでした。彼の黄金の瞳には精気はなく、生きてるのか死んでいるのかも分からないような深刻な状況でした……! 一瞬の悲劇に私達が困惑していると、扉の向こう側からはあの忌まわしき者の声が突如、聞こえてきたのです……! それは邪悪で地の底を震わすほどのおぞましい程の悪に満ちた声でした……! サタンは扉の向こう側でミカエル様が剣でお倒れになった様子に、彼は嘲笑うように声を上げて笑っていました。そして、サタンはミカエル様を激しく罵り、怒りと憎しみに燃えた言葉を浴びせたのです……! それはとても恐ろしく、我らは扉の前でサタンの恐ろしさを改めて感じざるを得なかったのです……!」
ただならぬ信じ固い話にカマエルは深い絶望に打ちのめされて言葉すら出ない様子だった。そして、彼は握った拳を両手で震わせながら父の目の前で話を続けた。それは怒りと恐怖が混ざったような体の奥から沸き上がる震えだった。カマエルと同じように、彼も深い悲しみに打ちのめされていた。
「サタンはミカエル様が罠にかかった事に、とても喜んでいました。まさしく彼は悪魔そのものです……! 彼が遥か昔、我らと同じ同族だったとは信じられないくらいような悪意に満ちていました……! サタンはミカエル様の命を卑怯な手口で奪ったのです! それもあのクラウ・ソラスを使ってです! 誰が自身の剣で命を落とすことを望む者がいますでしょうか、こんなのは屈辱的以外のなにものでもありません! こんなことが決して許されるはずがないのです――!」
彼は父にそう告げると、自分の中で沸き上がる激しい怒りをグッと堪えた。
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