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第7章―闇に蠢く者―6
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「父上、私は貴方様が下界で人間達に囚われている間ずっと、そのことを考えていました――」
「息子よ……」
カマエルは息子の心痛な思いに心をいためた。
「思い出すのは、いつもあの時のことです……。ミカエル様がモルグドアの門の扉の前で、忌まわしきサタンの手によってお倒れになったお姿が、どうしても目に焼きついて頭から忘れられないのです。偉大なるミカエル様は、私にとっても永遠のシンボルの存在。気高き強さを身に纏い。消して誰にも負けることのない彼の真の強さは、まさに英雄そのものお姿です。それがあのような者の、卑劣な罠によって倒れるとは信じられないのです。私は何故、あの時ミカエル様を…――!」
「息子よ、自分をせめるではない! いくら嘆いても、時に変わらないこともある。私かそうだった……! お前達を守れなかったのは私のせいだ! あの時、私が忌まわしき悪魔などに破れていなければ…――!」
カマエルは囚われの牢獄の中で悔いて嘆いたのだった。彼は父の悲しみに共感すると黙って父を見つめた。
「カミーユ様。何故、私がそのような答えに到ったのは言うまでもありません。私はあの時のことをずっと、考えていました。そして、バラバラだったピースの欠片を全部あつめた時その答えにようやく辿り着いたのです…――!」
「息子よ、そうであったか……」
「はい。全ては、ハラリエル様の予言通りになられました。天界への暗雲の影。黒き門より参りし鋼の剣。純白の羽。そして、悪魔に囚われた赤の獅子王。そう全てはまさにコレを予言なされていたのです…――!」
彼のその話にカマエルは動揺した。
「本当にハラリエル様はそのようなことをお前に告げたのか……!?」
「ハラリエル様は夢の中で見た予知をあの者に話したのです。神の秘密と呼ばれる天使に――」
そう話すと、彼は瞳を怪しく光らせた。
「――神の秘密か。たしかにソヤツは天界ではそう呼ばれる事もあった。秘密の領域と至高の神秘の天使、ラジエルだな?」
「そうです父上、ラジエル様はハラリエル様の側近の部下です。ハラリエル様の予言なされた秘密は全て、あの者が守っております。そして、それは他言無用で決してだれにも話す事はない頑なな意思を持つ男です。ですがラジエル様は、私にその予言を話してくれました。彼はラグエルの監視を欺くのは要因ではないとおっしゃいましたが、ラジエル様はどうしてもそのことを私に伝えたかったそうです。そして、私はラジエル様だけではなく。ハラリエル様からも直接その予言の話を聞かされたのです。私はその予言を聞いたあと居ても立ってもいられなくなり、不本意ですがあのお方……。ドミニオン様に予言のことを話したのです。ですが、予言を変えることは出来ませんでした。私はそれが悔しくてたまらないのです…――!」
「そして、ハラリエル様の予言は現実となりました。ドミニオン様にそのことを告げても、予言は避けられなく、あの悲劇は起きました。ミカエル様はサタンの不意打ちによって門の前で倒れ、サタンは封印から蘇り。悪魔のしもべを我らの天界にさし向いて、天界を大きな混乱に陥れました。そして、貴方様は悪魔との戦いに敗れ。捕らわれた貴方様は天界から連れ去らわれました。もし、あの時にドミニオン様が何かしらの手立てをしていたらこのような結果にはならなかったのです! ドミニオン様は天界を治める長でありながらもなにもしなかった! それどころか……! 私はあの方のお考えがわかりません! ドミニオン様は…――!」
彼は怒りで震えると、抑えていた感情を吐き出した。
「やめるのだ息子よ!」
「ち、父上……!?」
「起きてしまった事を嘆いても何も変わることはない! 失われた時間は元には戻らないのじゃ!」
「し、しかし……!」
「未来を見透かしても時に変えてはいけないこともある。ましてや、例えそれが悲劇に繋がろうとも、変えることはならんのだ! 時の狭間を司るクロノスの神なら、それが許されるであろう。だが、我々は天使だ! 神の意思に背くことは決してならんのだ! ノルンの三姉妹の手により紡がれた未来と現在と過去は、一つに繋がっている。それを一つでも狂わすのならば、全ての時空と空間と人に影響を及ぼすであろう。もし変えることが出きるのであれば、誰もがクロノスの神に願うだろう。あの時、起こった出来事を変えて欲しいと…――!」
「父上…――」
「ドミニオン様は何も考えてはおらんのだ。きっと、彼なりに考えているのだ。どうか信じてやって欲しい。お前は母に似て、優しい子だ。私がそれを誰よりも知っている。今は堪えるのだ息子よ」
「――カミーユ様。私は負傷したミカエル様を天界にお連れした時、私は貴方様が悪魔に連れ拐われたこれをあとで知りました。私はドミニオン様に捕らわれた貴方様を悪魔からお救い出来ないかと話を持ちかけました。ですが、ドミニオン様は貴方様が悪魔に捕まったことについてこう仰いました。自業自得だと――。父上、本当にそうなのでしょうか……!? 私はそうとは思いません! 悪魔が天界に襲来したあの時、貴方様は誰よりも勇敢に戦ったと聞きました。戦うだけではなく、貴方様は力を持たない弱き天使達を悪魔からお救いになられたとも聞きました……! その勇猛果敢に戦う姿は、まるで赤の豹のように雄々しかったと…――。それなのにドミニオン様は、貴方様が戦いに敗れたことは自業自得と仰ったのです……! そして、捕らわれた貴方様をお救いすることは危険であると助言されたのです! 私はそれが納得できません! 貴方様は誰よりも勇敢に悪魔と戦ったのに、ドミニオン様は切り捨てるおつもりです…――! いいえ、ドミニオン様だけではなく、ガブリエル様も、ラファエル様も、ウリエル様も、アークエンジェル様も、私が貴方様をお救いすることに反対なさったのです! 貴方様をお救いすれば、再び天界に災いが起きると彼らはそう告げたのです! ですが、カミーユ様は私にとってたった一人の大切な父上でございます……! あの方々は貴方様をお救いすることに酷く反対なさいましたが、私は決して諦めません! 誰一人、貴方様をここからお救いに来なくても、私が必ずや貴方様をここから救ってみせます! それが神が私にお与え下さった試練なら私はそれを乗り越えてみせます……!」
彼はそう話と、力強く前を見た。
「それに……そんなお姿の貴方様を見ていてはほっとけません。ハニエル様も、貴方様の帰還を心から待ち望んでおります」
「おお、ハニエル。私の美しい妻…――」
「そうです、父上。ハニエル様をこれ以上、悲しませてはなりません。母上は、貴方様が悪魔に連れ拐われたあの日からずっと酷く嘆いておられます」
カマエルは息子の言葉を深刻な表情で受け止めた。
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