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第8章―吹雪の中の追跡―2
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「ハルバート、お前の女房は相変わらずだな」
「ちっ、冗談じゃねえぜ……! 口がうるさくて困ってるところだ! なんならテメーにくれてやる!」
ハルバートがそう話すと、ケイバーはリーゼルバーグをみながら小バカにした顔で笑った。
「おい、ヤツはどうする?」
「ああ、ギュータスのことか? クロビスの命令であいつも一緒に連れて行かなきゃならねぇ。悪いがあいつも連れて行ってくれ」
ケイバーはそう答えると、後ろから怪しく囁いた。
「あとで礼はしてやるよ」
「本当か……?」
「ああ、任せろ」
彼はその話を聞き入れると、ギュータスに話しかけた。
「おい、そこの赤毛野郎! 仕方がないから連れて行ってやる! ぐずぐずしてねーで、そこら辺にいる奴の後ろに乗れ!」
「ああん!? なんだとテメー!」
その場でギュータスが言い返すと、彼は卑屈な顔で笑った。
「おっ、ヤル気か? 上等だ! かかって来い! お前をこのハルシオンで返り討ちにしてやる!」
彼はそう言い返すと、自分の愛用の斧を右手に持って挑発した。
「ざけんなジジイ! テメーがヤル気ならこっちだって容赦はしねーぞ!」
ギュータスは怒ると、自分も斧を持って彼を威嚇した。
屋上の上で一触即発の雰囲気が流れると、みぬに見かねたリーゼルバーグが、2人の間に入って仲裁した。
「いい加減にしろお前達! こんなところで時間を潰している暇があったら早く出撃するぞ!」
彼が割って入ると、ハルバートは斧を腰におさめて舌打ちをした。
「チッ、興ざめだ。こっちまで白けてきやがった。今は奴の顔に免じて引き下がってやる! でも、次に生意気な事を俺に言ったらお前が坊ちゃんのお気に入りだろうが、何だろうが容赦はしない! 今の言葉、覚えとけ!」
ギュータスとハルバートは睨み合うと、周りは呆れて黙り込んだ。
「おい、お前は私の後ろに乗るがいい!」
リーゼルバーグが声をかけると、ギュータスは彼の竜に乗った。ハルバートは部下達に出撃と言って大きな声で合図をおくると竜達は彼らを乗せて一斉に空に向かって羽ばたいて行った。そして、吹雪が吹き荒れる中を竜騎兵達は上空から地上を見下ろしながら探索を始めた――。
ハルバートは不意にケイバーに話しかけた。
「お前に聞きたいことがある。オーチスが囚人を逃がしたって話は本当か?」
「ああ、そうだぜ? 尋問したら色々とボロがでやがった。それに動かぬ決定的な証拠も、いくつか出てきたし間違いない」
ケイバーはそう話すと彼に尋ねた。
「なんだよハルバート。お前、あいつが嫌いだったんだろ? ひょっとして心配してるのか?」
「ハン、心配だって? まさか、んなわけねーだろ。まあ……あいつは昔からの知り合いだしな。そんなに仲良くしてたわけじゃねーけどよ、なんか引っ掛かるんだよ」
ハルバートはそう話すと、前で首を傾げて疑問視した。
「引っ掛かるってなんだ? あいつがやってないとでも言うのか?」
「――わからねえ。でも、なんかスッキリしねえのは確かだ」
「俺が思うにお前が疑問視しても今さら何もかわらねーよ。第一あいつが囚人に渡した紙に書かれていた文字は、100%あいつの文字だった。それにオーチスが囚人に脱獄の話を持ちかけていた所をチェスターが目撃してる」
「チェスターだと?」
「ああ、そうだ。何だよ、おまえ知らねーのか?」
「ケイバー、誰だそいつ?」
「半年前ここに入って来た若い看守だよ。ついでに、へっぴり腰で気弱な顔している奴だ。いつもオドオドしていてオマケに冴えないツラしてるから、他の看守の奴らにたまにだけどイジメられてるんだよ。クロビスは、あーいった奴は嫌いだからな。そのうち目つけられるかも」
ケイバーは彼にそう話すと、後ろで可笑しそうにケラケラしながら笑った。
「まあ、ここに入って来たのが間違いだったかもな」
「へぇー、そうかい。つまり今回の出所はチェスターってことか……?」
「ああ、あいつがクロビスに話したんだよ。オーチスが囚人と脱獄の話をしてたことをクロビスに話したら、奴の逆鱗にまんまと触れたけどな。オマケにヤツにビビった挙げ句に目の前で漏らしやがった。そんで死にたくと喚いて無様な姿をさらしてたぜ?」
ケイバーはそう話すと、再び思い出し笑いをした。ハルバートは、その話に黙って沈黙した。
「まあ、チェスター以外にもジュノーも目撃してるんだ。動かぬ証拠がいくつもあるのに、いまさらそれを覆すことは無理だろうけど?」
「なるほど、そうか…――」
「ああ、それに今さら手遅れだろ。今ごろ奴は……」
不意にその事を話すと、彼は反応した。
「今頃なんだよ?」
「いや、べつに……」
ケイバーは急に口を閉ざすと、白々しい態度をとって惚けた。
「チッ、いきなり黙りかよ! いつもはおしゃべりの癖に都合が悪いと黙り込む癖やめろ!」
ハルバートは不機嫌な顔で彼にそう話した。吹雪は弱まることはなく、さらに強く吹き荒れた。彼らは視界が悪い中で懸命に捜索を続けた。
「ハルバート隊長ーっ!」
「なんだニコラス!?」
「ヴァンレーテの森を抜ければ、もうすぐダモクレスの岬につきます!」
「おおっ、そうか! よし、じゃあお前とダニエルは東の方角を頼む! お前とユングは西の方角を頼んだ!」
ハルバートは直ぐ様、部下達に指示を出した。彼らは上空で右翼と左翼に広がると両翼を前方に張り出したV字の陣形をとった。そして、吹雪の中で大きな声を上げた。
「このまま鶴翼の陣形を維持しろ! ダモクレスの岬まであと少しだ! 逃げたのは一人だがお前達、気を抜かずに捜索にあたれ! どんな小さなものでも見落とさずに見つけ出せ、わかったな!」
「了解っ!」
部下達はハルバートの命令に一斉に返事をすると吹雪の中、目を凝らして捜索し続けた。彼は自分の竜に話しかけると、右足で軽く蹴って合図を送った。竜は上空から少し低空飛行すると、地上を見下ろしながら捜索をした。
「さてと……ダモクレスの岬には、一体何があるんだ? 鬼が出るか蛇が出るか楽しみだぜ」
彼は不意に呟くと、ニヤリと口元が笑った。
「楽しそうだなハルバート」
「ああ、そうだとも。でなきゃ、こんな事してらんねーぜ。それにだ。ちょっとばっかし、個人的に興味があるんだ」
「興味?」
「ああ。オーチスがなんで囚人を逃がしたのか、俺にはサッパリわからなねぇ。だから囚人を捕まえて、逃がした理由が知りたいんだ」
彼はそう話すと瞳の奥を怪しく光らせた。その言葉にケイバーは、呆れた表情で言い返した。
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