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第9章―ダモクレスの岬―2
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ギュータスは挑発的な笑いを浮かべながら言い返した。
「おっさんこそ、いずれ俺が後悔させてやる! そん時は泣き寝入りしても無駄だ!」
2人はそこで敵意を剥き出すと激しく敵対心を燃やした。リーゼルバーグは、2人の前で剣を抜くと怒鳴った。
「いい加減にしろ! でなければ私が力ずくでもお前達を止めてみせる! 我がバスティウスの剣の誇りにかけて!」
リーゼルバーグは剣を向けると、騎士の顔つきになりながら2人を威嚇した。ハルバートは舌打ちをすると、仕方なく引き下がった。
「ここは奴の顔に免じて引き下がってやる。だが、さっき言った言葉は忘れるな!」
彼はそう言い放つと自分の竜がいる場所へと戻って行った。リーゼルバーグは抜いた剣を腰に納めると、そこでため息をついた。
「ハルバート、ギュータスなんてワザワザ相手にしなくてもいいぜ。アイツは力しか取り柄がないバカなんだからさ。そんな事より早く探そうぜ?」
ケイバーは竜の上から彼に話しかけた。
「うるせーな、そんな事はわかってるんだよ。それよりあの野郎、やっぱりムカつくぜ! 一度しめとかないと俺の気がおさまらねぇ!」
「しめてもいいが、血の雨だけは降らすのはやめとけよ?」
彼はそう話すと笑いがなら上から見下ろした。
「で、次はどうやって見つける? この周辺を一斉に見て回るか?」
「ああ、そうするしかねぇな……。足跡はまだ新しいからきっとこの近くにいるはずだ。それに跡を辿れば必ず見つかるさ。この吹雪が足跡をかきけさなければの話だが…――」
ハルバートは険しい表情で不意にそう答えると辺りを黙って見渡した。吹雪が舞う中、空と陸の両面では部下達が辺りを見渡しながら捜索を続けていた。
「一層の事お前の竜に逃げた囚人の足跡のにおいを嗅がすのはどうだ? お前の竜なら一発で囚人の居場所を見つけられるだろ?」
「ふざけるな! 俺の竜はワンコじゃねーんだよ! 竜を犬と一緒にするな! こうみえても俺の竜はプライドが高いんだ! ふざけて舐めてるとヴァジュラに食い殺されるぞ!?」
彼に向かってそう言い返すと、ハルバートは竜の背中に乗ろうとした。するとユングが突然、大きな声をあげた。
「いっ、いました! あそこですハルバート隊長!」
ユングは慌てながら片手で指をさした。ハルバートは、咄嗟に指された方角に目を向けた。すると逃げた囚人が崖の方に逃げていく姿をとらえた。彼は颯爽と竜の背中に乗ると近くにいた部下達に命令した。
『逃がすな追え!』
彼のとっさの指示に部下達は一斉に囚人を追いかけ始めた。
「飛べ、ヴァジュラ!」
ハルバートは竜に命令をすると、急いで囚人のあとを追いかけに行った。囚人は雪に覆われた地面を懸命に走って逃げまどった。部下達は後方から竜に乗っての追跡だったので直ぐに捕まえられると確信していた。しかし、囚人との距離が縮まったその時、突風が突如吹き荒れて彼らの方へといきなり襲いかかった。
――それは突然のことだった。強い突風が吹くと、先頭で囚人を追いかけていた部下達4人が、前から襲いかかってきた風の勢いに押されて体勢を崩して足止めをくらった。
凍てついた風はまるで氷のように冷たく、彼らの体温を一気に下げた。彼らは前から襲いかかってくる強い風に進行を妨げられると、前に進む事も次第に困難になった。その間、強風と共に吹雪きも一層激しく吹き荒れて彼らの視界を悪くさせた。前に進もうとするならば、風が容赦なく彼らを後ろに下がらせた。
まるで見えない壁に進行を妨げられてるような、錯覚にさえ陥ったのだった。竜騎兵達が強風に襲われている最中、囚人は後ろを一切、振り向かずに真っ直ぐ前に突き進んで逃げていた。ハルバートは部下達の近くに辿り着くと、その場で荒々しく声を張り上げた。
「お前ら気をつけろ! この風はただの風じゃないぞ! 油断したら…――!」
彼がそう言っている間に部下のニコラスとロジャーズが、彼の忠告を聞かないまま無理矢理前に進んだので風の中に一気に巻き込まれてしまった。風は突如、嵐のような竜巻の姿に変えると、2人を巻き上げて上空から地上に容赦なく叩きつけた。一瞬のことだったので周りにいた部下達は唖然となった。地上に激しく叩きつけられた2人は、あっという間に命を落とした。ハルバートはその光景に沈黙すると滑稽な目で見下ろしながら呟いた。
「チッ……! ったく、だから人の話しは最後まで聞けって言ったんだ!」
ハルバートは2人の突然の死に滑稽な思いに急に襲われると、そこで飽きれた表情でため息をついた。竜騎兵達は目の前から襲いかかってくる強風に足止めをくらうと、囚人を捕まえることを諦めるしかなかった。
「ハルバート隊長、この強風ではまともに前に進めません! もはや囚人を捕まえることを諦めるしかないです…――!」
ユングがそう言って意見を話すと、彼はそこで黙った。
「おい、見たかよハルバート。一体なんだあの風は? 前から吹いてるのにあの2人が前に進もうとした瞬間、いきなり竜巻みたいなものに変形してあいつらに襲いかかったよな。見間違えじゃない限り俺にはそう見えたぜ? なんかあの風ヤバくないか?」
ケイバーが不意に疑問を投げかけると、ハルバートは黙っていた口を開いた。
「ああ、ヤバいに決まってるだろ。ただの風じゃないってさっき言っただろ? あれは魔法だ。と言っても魔法のわりには魔法使い特有の魔力の力とは違う」
「……なるほど、てことはつまり。逃げた囚人は魔法使いってわけか?」
「誰も魔法使いとは言ってないだろ? 魔法使いだったらワザワザ逃げることもなく、今頃俺達を魔法で襲って来てるだろ?」
ハルバートは冷静な顔つきでそう話すと、ケイバーは聞き返した。
「なんでそんな事が言えるんだ? 魔法使いじゃなきゃ、あれはなんだよ?」
「あれは守護の風だ。と言ってもはっきりと断定はできないが多分アレは恐らく魔法石の力かもしれない」
「はっ!? 魔法石の力だって……!?」
「ああ、恐らくな…――!」
ハルバートはそう言って答えると、瞳を細めて険しい表情を浮かべた。
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