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第9章―ダモクレスの岬―7
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大空では竜と幻影の火の鳥との力と力のぶつかり合いがより一層、激しさを増した。深々と降る雪の中で、静寂を切り裂く様に互いの力をぶつけ合った。火の鳥は竜が口から吐いた氷結ブレスを全身に浴びると、一瞬だけ動きを封じ込められた。しかし、火の鳥は体の奥から炎を燃やすと、瞬く間に全身の氷を溶かして呪縛をふりほどいた。
「くっ……! 幻影とは言え、さすが火の精霊の力だ! 氷結ブレスを浴びても微動だにせぬとは……! だがしかし、我が竜を侮るではない! これより強い氷結ブレスを浴びてみるがよい! リューケリオン、氷結ブリザード・ブレスを仕掛けるのだ!」
リーゼルバーグが大きな声で命令をすると、竜は大気を揺らす程の力強い雄叫びをあげて息を吸い込んだ。
「我が氷竜は氷の使い手! 火の力など恐れぬ! 水の精霊の加護を得た我らに火の技など通用するはずなかろう! ましてや、それが幻影の力なら尚更だ! 幻影の火の鳥よ、我が氷竜の力を喰らがいい!」
竜は翼を大きく広げると氷結ブリザード・ブレスを火の鳥に向かって勢い良く吐いた。その冷たい氷の息は、周りを氷点下までに一気に気温を下げると、空気はやがて凍てつく程の寒さに変わった。火の鳥の周りを取り囲むように暴風雪が襲いかかるとたちまち触れたところからみるみる氷った。そして、火の鳥を氷の柱の中に一気に封じ込めたのだった。リーゼルバーグは剣を構えると、剣に秘められている力を解放した。火の鳥は覆われている氷の柱を炎の力で溶かすと、氷の柱の中から脱出した。
「敵ながらに見事なやつだ。だがしかし、この闘いは私が勝たせてもらう!」
戦況を極めた戦いは、互いに一歩も引かずに、より激しく力をぶつけあった。火の鳥は氷の柱から脱出すると、天へと高く舞い上がってそこで大きく雄叫びをあげた。そして、頭上の空から火の雨を降らしてきた。それは火の鳥が使う技、フレア・ボールと呼ばれる大技だった。
「いかん! リューケリオン、今すぐ氷結界をはるのだ!」
リーゼルバーグが咄嗟に命令をすると竜は全身を覆うように氷の結界を即座に張り巡らせた。氷で出来た結界をはると同時に、頭上から火の雨が容赦なく降り注いだ。その高温の炎は、周りを焼き尽くす程の強烈な威力だった。
「くっ、幻影ながらに見事な技だ……! 氷結界をはらなくては、ひとたまりもない! 早くあやつを討たなくては…――!」
彼は火の鳥の攻撃を素早く回避しつつも、相手の隙を伺いながらそこで一瞬のチャンスを待った。火の鳥は攻撃の手を緩めずにその場で一気に畳み掛けに来た。フレア・ボールの威力が強まると、氷の表面が徐々に溶けてきた。
「くっ、このままでは結界がもたんぞ……!」
彼が鬼気迫るように前で呟くと、後ろにいたギュータスが野次を飛ばした。
「なんとかしやがれクソじじい! 俺は丸焼きだけはごめんだ!」
「うるさい黙れ! 集中が乱れる!」
「なんだとぉ~っ!?」
火の鳥の攻撃を受けつつも、彼らはそこで言い合いした。絶対絶命のピンチを目の前にして突如、一筋の矢が火の鳥の方にめがけて放たれた。矢の先が金色に光輝くと、たちまち雷が火の鳥の頭上にドンと落ちた。雷を喰らった火の鳥は、攻撃の手を一瞬だけ怯ませた。そして、彼らの近くで大きな声が聞こえてきた。
『リーゼルバーグ隊長!』
ユングはそこで彼らに声をかけると、弓矢を片手に大きく手を振った。
「その声はユングか!?」
「ああ、なんとか間に合って良かったです!」
「ばっ、ばか者……! 何故ここに来た!?」
「あそこから無断で離れて来てすいません隊長……! でも、何もしないでただ見てるのだけは出来ませんでした! 僕だって竜騎兵の仲間です! 隊長を守るのは部下として当然の役目です!」
「新人の割には度胸があるやつだ! よし、私に力を貸せ!」
「はい、隊長…――!」
ユングはその一言に顔をパァッと明るくさせて返事をした。
「言いか、ユングよ! 今の攻撃をもう一度やつに喰らわせるのだ! お前ならできる! 自分の力を信じるのだ!」
「わっ、わかりました……!」
慌てて返事をすると、再び持っている弓矢を前で構えた。
「一瞬の隙でいい! お前があの火の鳥を引き付けるのだ!」
「了解です!」
彼は返事をすると弓矢を構えて火の鳥に向かって真っ直ぐ射ぬくように狙いを定めた。そして、奮い立つように覚悟を決めた。
「僕だって男です! やるときはやりますよ!」
ユングは自分を奮い立たせると勇敢にも火の鳥に立ち向かった。
「さあ、こっちだ! 僕が相手になってやる!」
そう言って大声で火の鳥を挑発すると、勇気を振り絞って太刀打ちした。劣りになって引き付ける役目をやると、彼は自分の危険を顧みないまま、そこで火の鳥にめがけて弓矢を向けた。火の鳥はリーゼルバーグの方から離れると、真っ先にユングの方へと攻撃しに来た。恐怖に震え立つとその場から逃げ出したい気持ちに襲われた。でも、彼は心の中で恐怖心を抑えて度胸をみせると、自分の方に向かってくる火の鳥に真正面から矢を射った。
『雷の矢を喰らえーっ!』
ユングは力強く弓を引くと矢を勢いよく放った。その瞬間、雷の矢は火の鳥の体に鋭く突き刺さった。
「や、やった……!?」
放った矢が火の鳥の体に突き刺さると、僅かに一瞬、喜びの声を上げた。だがしかし、突き刺さった矢は火の鳥の体の熱で瞬く間に溶けてしまった。
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