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第9章―ダモクレスの岬―8
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「くっ、雷の矢はもうダメか……! なら、これでどうだ…――!」
そう言って背中に背負っている矢の入れ物から違う矢を取り出した。火の鳥は一瞬足止めされたが、ユングの方に再び向かってきた。火の鳥が自分の方に勢い良く急接近してくると、彼は焦りながらも素早く弓矢を交換した。
「父さんが僕に残してくれた形見の矢の1つだ! これは雷の矢よりも、さらに強力なやつだ! 父さんの雷鳴の矢を受けてみろぉーっ!」
ユングは大きな声を出して叫ぶと雷鳴の矢を勢いよく放った。飛ばされた矢は空を貫き、火の鳥にめがけて鋭く突き刺さった。そして、突き刺さった直後に、再び頭上から雷が打ち落とされた。頭上から雷が落ちてくると、そのまま火の鳥に向かって激しく命中した。ユングは思わず心の中でやったと呟いた。そして、大きなダメージを与えるために、再び弓から雷鳴の矢を射ち放った。
『喰らえ! 連撃だぁあああああああああっ!!』
そこで叫ぶと素早く雷鳴の矢を続けざまに3回、勢い良く矢を射った。連撃で繰り出された雷鳴の矢を喰らった火の鳥は、全身に大ダメージを受けて、そこで瞬く間に感電した。動きが止まった所で咄嗟にユングは彼に声をかけた。
「リーゼルバーグ隊長、今です…――!」
「うむ、よくぞやった! それでこそ私の部下だ! さあ、リューケリオンよ、もう一度あやつに氷結ブリザード・ブレスを喰らわせてやれ!」
竜は力強く雄叫びを上げると、左右の翼を大きく広げて真っ直ぐに突撃した。そして、勢いよく口から氷結ブリザード・ブレスを吐いて吹きかけた。火の鳥は感電して行動不能に陥ると、反撃する隙もないままに、空中で氷づけにされた。リーゼルバーグは再び剣を構えると、剣に秘められている力の封印を解いて発動させた。力を発動させると同時に剣は、蒼炎を纏うように蒼白く光輝いた。
「幾多の戦いで磨かれた我が剣を受けてみよ! 人を斬り、魔族を斬り、竜や魔獣も切り捨てた我が剣は、今では精霊さえも殺せる強力な力を持つのだ!」
リーゼルバーグは己の剣に秘められている力を解放すると、火の鳥に向かって躊躇わずに突進した。剣は忽ち蒼炎の焔に包まれながら、ただならぬ妖気を放ちながら妖しく光輝いた。
テンカムソウオウギ セイレイゴウサツケン
「喰らうがいい!天下無双奥義、精霊剛殺剣!!」
蒼炎に包まれた剣は、氷づけにされた火の鳥を胴体ごと一瞬に宙で真っ二つに切り捨てた。そして、蒼炎の剣を右手で再び振り下ろすと、火の鳥の首を切り落としてトドメを刺した。鮮やかな舞いは蝶のように美しく、そして、優雅な剣の太刀筋はただならぬ圧倒的な強さを見せつけたのだった。火の鳥の幻影は、彼の剣によって倒されるとその場で術は解けて跡形もなく弾け飛んだ。
「塵は塵となって還るがよい――!」
彼は火の鳥を打ち倒すと、腰に剣を納めた。ユングはリーゼルバーグの強さを間近で見ると、凄く興奮した様子で駆けつけた。
幻獣の火の鳥を倒すと、彼らは竜と共に地に降りて羽を休めた。ユングは自分の乗っている竜の背中から飛び降りると、駆け足で彼の側に近寄って、興奮した様子で話しかけてきた。
「凄いですよ、リーゼルバーグ隊長! めちゃくちゃカッコいいです! 一体、何なんですが今の技は!? あの火の鳥をあっという間に倒すなんて、やっぱり隊長は凄いです! 僕にもあの技、教えて下さい!」
そう言って話すと、ユングは瞳の奥を無邪気にキラキラと輝かせた。
「――お前には無理だ。あの技を極めるには過酷な鍛錬と、長い修行が必要だ。そうだな、お前がもう少し己の技を磨いて日々の修行を積み重ねて経験値を上げれば教えてやらんこともないぞ?」
リーゼルバーグはそう話すと優雅に笑って見せた。
「ぼ、僕にも出来ますかね…――?」
「難しいだろう。何せお前は弓矢だからな、この技は剣技に長けてなくてはならない。己の精神力、心と技と体、すなわち心技体が備わってこそ、はじめて会得する大技なのだ。どうしても習得したいのであれば、まずは修行をする前に剣を習うことだ」
「剣ですか……。僕には剣は無理です。父さんは剣は教えてくれませんでした。そのかわりに父さんは僕に、弓矢を教えてくれましたけど」
ユングはそう話すと、恥ずかしそうに自分の頭を掻いた。
「ああ、そういえば弓矢で思い出したが、先の闘いぶりは見事だった! お前がそこまで頑張るとは私は思わなかった。お前はまだ若くて子供だが、勇敢で度胸がある男には間違いない。新人なのに本当に大した奴だ。お前のその勇敢な姿を亡くなったお前の父親に見せれないのが残念だ」
リーゼルバーグは自分の有りのままの気持ちを彼に話した。ユングはその言葉に感動すると、鼻を擦って照れくさそうに下をうつ向いた。
「そう言って貰えると素直に嬉しいです! 僕の父さんはいつも勇敢な人でしたから…――!」
ユングは心の中で亡くなった父の事を不意に思い出すと、弓矢をぎゅっと握りしめた。ギュータスはつまらなそうにあくびをしながら呟いた。
「ふぅん、父親ねぇ……。くだらねぇーな」
「お主にも父親はいるだろ?」
リーゼルバーグが何気無く尋ねると、ギュータスはツンとした態度で答えた。
「ハン、誰がてめえに教えるか! 居たとしてもお前には関係ねぇだろ!?」
彼は不機嫌になりながらそう言って彼に答えると両腕を組んで背中を向けた。雪原に佇む3人をハルバートは上空で見つけると、右手に光ったオーブを持って引き返してきた。彼が戻って来るなり、リーゼルバーグは不意に尋ねた。
「どうしたハルバート! 何故、戻って来た!? 囚人はどうしたのだ!?」
急な質問にハルバートは顔をムスッとさせると、黙ったまま竜の背中から降りて雪原に佇んだ。そして、不機嫌そうな表情で彼の前を素通りした。後ろにいたケイバーも、不貞腐れたような顔で黙り込んでいた。ハルバートは右手でオーブを天に向かって翳すと、発動していた守護の風の魔法を瞬く間に解除した。壁となって立ちはだかっていた守護の風がオーブの力で解除されると、風は穏やかに静まり返った。待機していた部下達は、ハルバートの下に一斉に駆け寄った。
「ハルバート隊長、よくぞ無事でした! さすが俺達の隊長です!」
部下達は安心した表情で彼に声をかけてきた。一同が集まると、ハルバートは下に降りてくるように命じた。彼らは言われた通り竜から降りて雪原に立つと、そこで固まって整列した。ハルバートは彼らの前に立つと、そのまま雪原の上を歩き出した。そして、自分の竜の手綱を引きながら、後ろからついて来いと命令した。部下達は言われた通りに自分達の竜の手綱を引いて黙って歩くと、彼の後をついて行った。そして、ダモクレスの岬の吹き荒れる断崖の絶壁に辿り着くとハルバートはそこでおもむろに話し始めた――。
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