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第10章―決着の行く末―3
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「どうだ。電撃と秘孔撃を一気に喰らった気分は? さすがのお前でもそう簡単には立ってらんないだろ。まあ、手加減してやったから安心しろ。ただ一時的にだが、体は動けなくさせてもらった。テメェがまた何をすかわかわからないからな。先手を打たせてもらったぜ。悪く思うなよ」
ハルバートはそう言って背中を向けると、そこで格の違いをまざまざと相手に見せつけた。ケイバーは雪原の上に倒れたまま、皮肉混じりに吐き捨てた。
「ハァハァ……や、やってくれるぜ……今に覚えてろよ、テメェなんざ、倍返ししてやる…――!」
そう言い放つと、苦しそうな表情で顔を歪ませた。ハルバートは黙って後ろを振り向くとそこで言い返した。
「ちったぁ、度胸があるじゃねーか? さすが坊ちゃんの取り巻きだ。その根性だけは認めてやる。いいぜ、やれるもんならやってみろ。だが、次は俺も手加減しねーからな! お前が倍返しならこっちも倍返ししてやるまでだ!」
黒いマントを翻すと、ハルバートは囚人の方に近づなり質問をぶつけた。
「おい! お前は一体誰だ!? 何故あそこから逃げた!? それに何故あんなオーブを持っている!? 顔くらい見せたらどうだ!?」
囚人は彼の質問に対して、頑なに口を閉ざしていた。男はローブを身に纏い。頭までフードを被っていて素顔を見ることはできなかった。
「オーチスとはどういう関係だ!? それにお前はどうやってあの牢獄から外に抜け出した!? それに何故こんな場所まで逃げた!? ここに逃げたんなら、それなりの理由があってもおかしくないはずだ! それに第一お前の足の早さは明らかに普通とは違うぞ! さあ、黙ってないで今すぐ質問に答えろ!」
ハルバートはそこで尋問すると、男の方へとジリジリと近づいた。囚人は後ろに一歩下がると断崖の崖下の手前で逃げ場を失った。これ以上後ろに下がれば、崖から真っ逆さまに転落して海に落ちるのは囚人にでさえわかっていた。
「早まるなよ。お前には聞きたいことがまだ山ほどあるんだ。それに掴まえてもお前に危害は与えない。俺が身の安全を保障してやるから、おかしな真似だけはするな!」
そう言って相手を説得すると、大人しく投降するようにと話しかけた。すると今まで頑なに口を閉ざしていた囚人が口を開いて話した。
「来るな! 身の安全を保障するなんてデタラメだ! 俺にはわかるんだぞ! 俺は命をかけて必死にここまで走って逃げてきたんだ……! 今さらあんな所に戻ってたまるかよ! 戻るくらいなら一層…――!」
彼はそう話すと、真上から崖下を恐る恐る見下ろした。海面は激しく波を打ち寄ていた。ここから飛び込めば、一溜まりもない事は囚人でさえわかっていた。ハルバートは突然、怒鳴り声を上げた。
「おい、てめぇ! オーチスはどうなってもいいのか!? 仮にもお前を逃がしてくれたんだろ!? そいつを見捨てる気か!?」
そう言って言い放つと囚人は一言、意味深な言葉を呟いた。
「ああ、あのイカれた看守の奴か――。オーチスだが、チェスターだが知らねえけどな。悪いがそんな奴の名前なんかいちいち覚えてられるか! 知っていたとしても違うかも知れねぇだろ!?」
「何っ!?」
「俺を牢屋から逃がしてくれた事には一言礼は言っとく! じゃあ、あばよ!」
囚人はそこで後ろを向くと、海に向かって突然飛び込もうとした。
『まっ、待て…――!』
ハルバートは咄嗟に反応するとその場で制止して引き留めようとした。すると突然、ボウガンの矢が囚人の背中に命中した。
矢はハルバートの頬をかすめると、そのまま囚人の背中を矢で射ぬいた。
『グハッツ!』
矢は囚人の背中に突き刺さると、体勢を崩してそのまま崖から海へと落ちた。ハルバートにはその光景が一瞬、スローモーションのように見えた。囚人が断崖の崖から落ちると、彼の背後でケイバーが笑いだした。ハルバートは背後を振り向くと怒りを露にした。ケイバーは、彼の攻撃を喰らって尚且つ動けない状態であったのにも関わらず、雪の地面を這って移動すると側に落ちていたボウガンを手に取り矢を放ったのだった。彼の執着心はハルバートでさえ、もはや理解不能だった。ケイバーは獲物を狩ったような達成感に満ちるとおかしそうに笑った。
「ハハハハハッ、ザマーミロ! 俺は狙った獲物は必ず仕留める男なんだよ! それにさっき言ったはずだぜ! 囚人を逃がすつもりは最初からねぇってな! アンタも生温いぜ。俺をぶちのめすなら本気でK・Oするべきだったんだ。でもまぁ、これで結果オーライだろ? アンタが引き止める前に、囚人は既に崖から飛び降りて海の中に落ちてとっくに逃げてた所だぜ。俺はそれを阻止してやったんだ。それに致命傷になるように正確に狙って撃ってやった。恐らく、あの傷で海に落ちても助からないけどな。くくくっ、これでようやく任務完了だぜ」
ケイバーは雪の地面に大の字で仰向けになって寝そべると、そこで目を閉じて勝ち誇った。ハルバートは崖から下を見下ろすと、そこでため息をついた。海面には囚人の姿はどこにも見当たらなく、死体さえも浮かんでいなかった。ただ打ち寄せる波の嵐が大きく揺れては、波を激しく打ち寄せていた。どうみても波にのまれて海の中に沈んだとしか考えられなかった。ハルバートは打ち寄せる波を目の前に、崖の上から悔しさを込み上げるとそこで地面に向かって拳を叩きつけた。
「クソッツ! あと少しで何かわかったのに! あの野郎――!」
怒り奮いたつと、無造作に落ちている矢を拾ってケイバーのもとに近づいた。
「ハハハッ! 探しても無駄だ! 今ごろはとっくに海の藻屑になってるさ! それにこんな高い所から真っ逆さまに落ちたんだ! 助からねぇよ! あったとしても途中でバラバラになって、肉片くらいは岩山の隅に落ちてるかも知れねえけどな!」
ケイバーはそう話すと、再び可笑しそうに笑った。すると、ハルバートが彼の頭の近くで矢を地面に向けて突き刺した。
「テメェって奴は本気でやってくれるぜ! あと少しで何か解ったってぇのによ!」
ハルバートは怒りを込み上げると、矢を地面に突き刺したまま怒りに奮えた。ケイバーは下で彼を見上げると、フと皮肉混じりの顔でニヤリと笑った。
「それは残念だったな。でも、俺は間違ってないぜ。俺はアンタと違って甘くはないからな。やるときはやるって決めてんだよ。それにたかが逃げた囚人相手に何マジになってんだ? アンタこそ頭冷やせよ!」
ケイバーはそう言って言い返すと、雪を掴んで彼の顔に投げつけた。
「イカれた奴に言われる筋合いはねぇよ。こっちこそ、お前のその執念深さには正直あきれてるところだ」
ハルバートはそう言って言い返すと鋭い瞳で彼を睨み付けた。ケイバーは鼻で笑うと、人差し指を向けて言い返した。
「執念深いだって? 違うな。仕事熱心だって言ってくれよ。アンタがあそこでアイツを引きとめる前に、囚人はとっくに崖から飛び降りて海の中に逃げ込んでいた。俺はそれを阻止しただけだ。もちろん自分の仕事としてな」
「仕事だと?」
「ああ、そうだとも――。俺は看守でアンタは竜騎兵の隊長だ。そして、囚人は囚人だ。つまりそう言うことだ。看守は囚人を見張っているのが当然だし、囚人が牢屋から脱走すれば看守が捕まえに行くのが当然だ。そして、アンタは竜騎兵として空からの見回りを大人しくしていればいいって話だ。つまり俺が言いたいのは、アンタは部外者だから口出しするなってことだ。これは看守と囚人の問題だけであって、アンタは部外者だから最初から関係ねぇんだよ!」
ケイバーはそう言って言い返すと、強気な態度で彼を睨み返した。
「とんだ野郎だ。それがお前の本性か? お前こそ看守の癖に逃げた囚人を捕まえずに殺すなんて、とんでもねえ悪党だ。坊っちゃんがそれで納得すると思ってるのか?」
ハルバートがその事を尋ねるとケイバーは再び鼻で笑った。
「ああ、それで納得するさ。だってアイツは壊れてるんだからよ。囚人を捕まえて牢屋の中にブチ込もうが、囚人を追跡中にやむを得ず殺そうが、奴は何も思わないさ。アンタだって本当はわかってるんだろ? アイツがマトモじゃないってことぐらい――」
「テメェッ……!」
ハルバートは頭がカッとなると、彼の胸ぐらを鷲掴みして怒鳴った。
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