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第11章―少年が見たのは―6
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命が途絶えた瞬間、ハルバートは体でなにかを感じとった。心臓マッサージをしている最中、彼はそこで手を止めた。表情は何処と無く青ざめて、凍りついていたようにも見えた。周りは彼の異変に直ぐに気がついた。しかし、誰もがその現実を受け入れられなかった。ハルバートは青ざめた表情で少年の胸に耳を当てると小さく呟いた。
「ダメだ……心臓が完全に止まってる。それに脈もない…――」
彼は震える声でそう呟くと少年の腕を取って脈を確めた。体は氷のように冷たく、体温は感じられなかった。周りに居た隊員達はその場で言葉を失った。最悪な結果に誰もが絶望した。ハルバートは全身から力が抜けると、後ろにストンと地面に両手をついて倒れた。リーゼルバーグは言葉を失ってそこで唖然とした。少年の死に誰もが言葉を失って凍りついていた。沈黙に包まれる中、冷たい雪は無上にも空から降り注いだ。まるで冷たい雨のようにそこにある景色を真っ白く塗りつぶしたのだった――。
「ああ、またこれか……俺はまた救えないのか…――! 畜生ッ!」
ハルバートはそこで頭を抱えると、やるせない思いで呟いた。その表情はどこか絶望していた。言葉にならない思いが頭の中に駆け巡ると、彼はジッと少年の顔を見つめた。周りにいた隊員達は誰もが言葉を失うと、ただ呆然と雪の中を立ち尽くした。マードックは崩れ落ちるように地面に膝をつくと、自分のせいだと泣き叫んで泣いた。
「ちくしょうっ! ちくしょうっつ! 坊主、すまなかった! どうか俺を許してくれ!」
マードックは取り乱しながらすすり泣くと、両手を地面について頭を下げた。その様子に仲間達は無言で彼の肩に手を置いた。
「お前のせいじゃない……! 俺達が悪いんだ! 坊主よりも大人の俺達がビビってお前を助けにいかなかったせいだ…――!」
彼らはそう話すと、申し訳なさそうな顔で下を俯いた。
「お、俺が弱かったから……! 度胸がなかったからお前が溺れてるのを見たら急に恐くなったんだ! 助けに行こうとしたけど、足がすくんじまったんだ! すまなかったマードックッ!!」
仲間の一人は彼の肩に手を置くと、後悔しながら謝った。すると、周りにいた隊員達もマードックに謝りだした。それぞれが自分の不甲斐なさを悔やんでいる様子だった。
「坊主は新米だったけど、俺達よりも度胸があった。そんなヤツを俺達は死なせたんだ……! お前が坊主に謝るなら俺達も一緒だ…――!」
「おっ、お前達……! うっうっうっ……!」
悔し泣きする彼を2人の隊員が両肩を抱えると、そこから立ち上がらせた。
「お前もそんなに体が良くない。早く手当てしないとダメだ。坊主に助けられた命、無駄にはするな――!」
2人の隊員は彼を両脇で支えるとそっと声をかけた。マードックは泣きながらユングに何度も謝った。吹雪きが舞う中、重たい空気だけが漂い。誰もがそこで絶望していた。ケイバーとギュータスは離れた所でその様子を見ていると、何も言わずにただ見ていた。リーゼルバーグはこの状況に言葉を失うと、隊員達の間をかきわけながら前に出た。
「おお、ユング……! なんてことに……!」
「リーゼルバーグ…――」
ハルバートは俯いた顔を上げると、そこで名前を呼んだ。しかし、彼はその呼びかけすら聞こえていない様子だった。リーゼルバーグは悲しみを込みあげると少年の前に黙って座り込んだ。その様子に、彼は声をかけるのを躊躇った。
「何てことだ……! お前はまだ若いと言うのに、人生はまだこれからだと言うのに……! お前にはまだまだ教えてやる事が沢山あるといのに……! おお、ユング! 目を覚ますのだ! 死んではならん、戻って来るのだ…――!」
リーゼルバーグは深い悲しみに心を打ち拉がれると、少年の体を自分の我が子のように震えた両腕で抱き寄せた。ハルバートは余り見ない彼の取り乱した様子に、そこで言葉を詰まらせた。そこにいた誰もが彼の悲しみを目の前に、言葉を失って立ち尽くしたのだった。
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