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第12章―残骸のマリア―3
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冷たい部屋の中にクラシックの音楽が流れた。それは、讃美歌のような不気味な曲だった。どこか怪しく洗礼された曲はこの場の雰囲気に相応しかった。テーブルの上には、銀のお皿と高級な赤ワインのボトルが置かれていた。その中央には真っ赤な薔薇が一輪、花瓶に飾られていた。その部屋には彼の姿はなく、死体が1体椅子に座らされたままだった。
コックの服を着た大男が部屋入ってくると、何やら料理が入った鍋をワゴンに乗せて持ってきた。大男は鍋をテーブルの上に置くと、それを銀のお皿の上に注いだ。白くて温かいスープは独特な香りを放っていた。大男はお皿の上にスープを注ぎ終わると、ワゴンからお肉が入ったお皿をテーブルの上に置いた。
見た目はまるでフランス料理のように華やかだった。最後にフォークとナイフとワイングラスをテーブルの上に並べると全ての準備が整った。スープが入った鍋をワゴンの上に乗せると、大男は部屋から出て行った。だれもいなくなると、そこにクロビスが部屋に入ってきた――。
彼は看守の服ではなく、別の服を着ていた。まるで礼装姿のようだった。着ているベルベットのディープブルーの服には所々にレースのフリルがあしらわれていて、見た目は貴族のように華やかに見えた。クロビスは部屋に入ると、堂々とした足取りで椅子に座った。席につくとそこで一人の宴が始まった。テーブルの上に置かれているキャンドルの火が、怪しく揺らめいていた。冷たい部屋に讃美歌の曲が響き渡る。不気味な空気に包まれながら、彼は赤ワインを一口飲んだ。テーブルの目の前には死んだ死体が置かれていた。彼はワイングラスを片手に、その残酷な光景を黙って見ていた。まるで死体を観賞しているかのように、彼は再びワインを一口飲んだ。
スープが入ったお皿をスプーンで掬うと、彼はそれに口をつけて飲み始めた。一口二口と彼は手慣れた手つきで優雅にスープを飲んだ。スープの味に満足すると、彼は次にお肉が入ったお皿に手をつけた。フォークとナイフを両手に持つと彼はそこで閉ざしていた口を開いて死体に話しかけた。
「――私はずっとこう思っていた。いつかお前をあいつらと同様に始末してやるとな。その為のシナリオをいくつか考えておいた。ただ殺すだけでは面白くないからな。お前にはそれなりに苦しんでもらわないと面白くない。私だけではなくきっとあの方もおなじことを考えてるはずだ。どうだオーチス。この話を聞いてゾクゾクしただろ? お前が死ぬシナリオは、もうずっと前からあったんだよ」
彼はそう話すと冷たい眼差しで死体を見ながら蔑んだ。そして、肉にフォークを突き立てると彼は徐々に狂気へと満ちた。
「お前をなんで今まで生かしていたかわかるか? お前に合うシナリオを考えていたら良いアイデアとシナリオが思いつかなくてな。だから今まで長く、生かしてやったんだ。私もそこまでは悪人ではない。一度はお前を心の中で許してやろうと思った。でも、それで本当にあのお方が浮かばれるだろうか? きっとお前みたいな奴を許すはずはない。ああ、きっとな――。お前が苦痛に苛まれる姿をあの方は望んでいるはずだ。だから色々なシナリオを考えていた。どうやったらお前が長く、苦痛に喘ぐかとか」
捻れ曲がった彼の心は怒りと憎しみに支配されていた。それは残酷な心を駆り立てさせるような、深い憎しみに燃えた感情だった。
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