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1.逢
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K大学の裏門を出てすぐに、『Addy(アディ)』という喫茶店がある。
外装は曇り一つないガラス張りで、洒落た店内が覗ける。大学の裏ということもあって、客層は殆ど大学生だ。突然の休講であったり、学科の違う友人の待ち合わせだったりと、そのまま大学から直行してくる学生が多い。
今日も徐々に集い始めた学生たちを、何かを確かめるようにひとりひとり見渡す。じっくり見渡しても、目的とする人物がいないことに、この喫茶店のマスター・長内隆はひっそりと肩を落とした。
ある青年との、出逢いの話をしよう。
青年は大学の学生であった。青年が始めこの喫茶店に訪れたとき、ちょうど人は少なく、声で席を案内してやった。メニューを渡してカウンターに戻って少し経ち、控えめにすみません、と呼ぶ声が聞こえる。大学生にしては高めの、大きくはないがするりと耳に入る心地よい音量と声質に、ほんの少しだけどきりとした。
「お決まりですか?」
「はい。…あの、この普通の、珈琲を」
「ミルクと砂糖はおつけしますか?」
「あ…ミルクを少しだけ」
意外であった。外見だけみれば、ミルクティーやレモンティーなど、甘ったるそうな紅茶を頼むものだと思っていた。しかしそれは青年が軟弱そうに見えたのではなく、優しく穏やかな話し方や、メニューを指す白く細い指から連想したものだった。用の済んだメニューを手渡され、顔を始めてしっかり見る。清潔そうで繊細そうで、儚い。少し幼さが残っている。子供っぽいつくりという意味ではなく、中性的とでもいうのだろうか。
いつまでもメニューを受け取らない店員を訝しんだのか、「あの…」と控えめに声をかけてくる。
慌てて謝罪し、今度は顔を見ないようにして引っ込む。珈琲をひきたてている間も、手の白さや、優しい声が忘れられず、何度も頭を降った。
そのときから、あの青年に囚われ始めていたのかもしれない。
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