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宵月夜
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こんなに美しい詩を書くことができたのか。伯岐は私の一言で想像の翼を広げ明るく羽ばたいて見せた。あとで聞いてみれば、輝いていた文字を追って書き上げたものだという。天才ゆえの才能の発露といっていいだろう。
「君はいい子だね。賢くていい子だ」
そういって頭を撫でてやれば、安堵したような表情をする。……まだ、だめだ。この子はわかっていない。捨てられるのではないかという不安を取り除かれただけ、というように見える。
そうではないのだ。君は想像の翼で大きく高く羽ばたかなければならない。私は詩人であって欲しいのだ。確かに、私が命じれば男娼の真似事もするだろう。でも、それではいけないのだ。
詩人である伯岐をちゃんとそこにあるままに、あわよくば私は伯岐を情人……そう言ってしまえば語弊があるだろう。なんというか、伯岐に私に対して恋心を抱いてほしいのだ。
まあ、性急にしてしまえば伯岐が混乱してしまうだろう。こういうことは焦ってはいけない。少しずつ、少しずつそう思ってもらえるように私自身も努力しなければならないだろう。
伯岐はひとつあくびをした。灯りの油もそろそろ切れそうで音をたてている。もう、そんなに時間が経っていたのだろうか。
「疲れたかい?」
「はい……眠い、です」
目を擦り頭を私の肩に凭れさせる。そっと抱き締めてやると伯岐はうっすらと安心したような笑みを浮かべている。とても可愛らしい。そのまま抱え上げた。貴族だからと馬鹿にする勿れ。一応それなりに身を守る術は身に着けている。
「仲影様!?」
「変に動くと落としてしまうから、じっとしていなさい」
慌てて固まる伯岐に思わず笑みが零れる。寝台の上に降ろすと、私も寝台に腰掛けた。眠そうな目をしていたが、なぜか伯岐は私の袖を離さなかった。
「ん?どうしたのかな?」
「一人は、さみしいです」
そんなうるんだ目で言ってくれるな。どきりとしてしまう。この子はどうも、妖しい色気を持っている。女ならば王の後宮に入れられ、もしかしたら傾国の美姫と呼ばれていたかもしれない。男であってよかった、とも思う。そのほうが、この国で才能を発揮するには都合がいい。
「なら、添い寝してあげようか」
私が着衣を脱ぎ始めると、伯岐はかなり慌てたようだった。夜はいつも何もつけずに寝る。やはり世間一般とはずれているのだろうか。
「え!?その、仲影様?!なんで脱いで……」
「習慣、かな」
耳まで真っ赤にして顔を手で覆っている。同性なのだから、なにもそこまで恥ずかしがることもなかろうに。私が伯岐の着衣に手をかけるとあわてておさえてきた。
「ちょっ、仲影様!?私もですか!?」
「当たり前だろう……?」
耳元で囁いてやると、観念したようだった。力を抜いてされるがままに脱がされてくれている。生まれたままにしてしまうと、きめの細かい白い肌があらわになった。しかし、腕には痛々しい傷が何本も刻まれている。
……今まで、伯岐がどれだけ自分を傷つけてきたかということだろう。そっと傷に唇を這わせる。伯岐はくすぐったそうに手を振りほどこうとしたが私は離さない。
「仲影様、傷だらけで綺麗じゃないですから……」
「いや……君はとても綺麗だよ」
ぎゅっと抱きしめてやると、伯岐は私の胸に縋ってきた。そのまま寝台に倒れ込む。恥ずかしそうに笑むその儚げな姿が愛おしい。
「おやすみなさい、仲影様」
「ああ、おやすみ」
頭を撫でてやりながら、寝息が聞こえてくるまでずっと伯岐の顔を見つめていた。
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