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更夜
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辺りは漆黒の闇に包まれ、わずかな燭台の灯りがじりじりと音を立てて揺らめいていた。
「……」
黒髪を揺らめかせ部屋に入ってきたのはとある男の推挙で雇った傭兵だ。剣の腕は凄まじいらしいが、その隻眼は危ないものを感じさせる。人を斬ることに味をしめた眼だ。
「お前、名は?」
「……狂剣」
「名乗らないか。まあいい。まずはその腕が見たい」
ぎろりと睨むその眼には明確な殺意があらわれていた。思わず笑みが零れる。傭兵としての矜持はあるようだ。そうでなくてはならない。金だけのために何でも我慢できるような輩では駄目だ。気概がなければ。
「……信用していないのか」
「私は少々、用心深いのでね」
用心深くなければ、こうして殺されかけ左足を失ったものの未だ生きているものか。木でできた義足が空虚な音をたてる。
「その足は」
「お前が知らなくていいことだ。さて、仕事の話をしようか」
一陣の風が室内を駆け抜け、燭台の火が大きく燃え上がる。呼び鈴を鳴らすと、狂剣を推挙した男がはいってきた。ずっと室外で待っていたらしい。王の牙という王に刃向かう者を始末する暗殺者だが、現在は見る影もない。所詮彼も私の私兵の一人だ。私の趣味で青銅の鎖のついた首輪を嵌めさせている。
「なんでしょうか」
「ああ、伯修、狂剣というこの男、気に入ったよ」
「それは重畳」
どうも伯修も不気味なところがある。私に忠誠は誓っているようだが、何かのため、という節がみえる。この男に見つからぬところでいずれ調べねばなるまい。
「それで、仕事の話だが……伯修、お前の家を狂剣とともにすべて始末して来い。一人も残してはならん」
「私だけでは不足なのですか」
「……お前に言われたくはない」
伯修が不満そうに言うとそれに重ねて不機嫌そうな狂剣の声。暗殺者としての、かたや傭兵としての矜持が二人での仕事を拒否するのだろう。
しかし、己の家の者の始末に関しても特に何も思わないとはさすがに商家の男だ。冷血漢だというのは噂通りだ。王を見定め、仕えるに値しない主と見切ったら王に牙を突き立てる。そして仕えるべき主を据える。外戚たちが己が権力の為に据えた無能な王を商家は、王の牙は悉く始末してきた。
「伯修、お前の仕事ぶりはよく知っている。だが、狂剣の実力を私はよく知らない。お前も聞いただけで実際に見たことはないのだろう。ならば私の代わりにその実力を見届けろ」
「あなたがおっしゃるのなら」
私は用心深い。そうあらねばならない。もう二度と同じ轍を踏まぬためにも、復讐を遂げるためにも。そのために伯修と狂剣をそろえた。この二人の実力が見えれば、きっととても愉快なことができる。とても楽しみだ。
「伯修、狂剣……二人とも、期待している」
思わず笑みが零れ、笑いが止まらない。哄笑する私を二人は醒めた目で見つめていた。
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