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萌芽
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門前で叔成に報酬を払い、伯岐の部屋に戻ろうと歩いていたのだが。ひたひたと歩いてくる女が私に声をかけてくる。
「あの、あなた」
厄介なものにつかまった。そういうと語弊があるかもしれないが、この女、一応私の妻ではある。5歳年下で我儘で幼稚でそのくせ悪知恵だけは働いて、扱いづらいったらない。
「何かな?」
「昨日はいったいどこで何をしていらっしゃったのですか?」
「食客たちと語り明かしていただけだよ」
納得していないというのがありありとわかる不満顔。この女とは向こうの家の大きな思惑で無理やり婚儀を上げさせられただけだ。婚儀のときに初めて会ってその性格に失望したものだ。
「満足に夜も過ごして下さらないじゃない。一体私の何に不満があるというのです?」
お前のすべてだ、というのはさすがに言わない。まあ確かに見た目は悪くはない。私もどちらかといえば派手なものが好きだがこうがちゃがちゃした装飾品をこれ見よがしに自宅内でつけっぱなしというのはいかがなものか。
「君と婚儀は結んだが、君の後ろにいるあの家の益になるようなことは、私はしない」
「なにを、おっしゃっているのか……」
「私の子を授かり、その子にこの家を継がせるために私を始末する……わかっているんだよ、君たちの考えそうなことは」
明らかに色を失っている。図星であったようだ。
「別にほかに男を作っても構わない。なんならその男と駆け落ちしても構わない。だがね」
ここで脅しておかなければ、またあの家はこの女をつかってこの家を乗っ取ろうとするだろう。一応私も魔王と呼ばれるだけの権力と財力を持ち合わせているが、一応それはお爺様譲りの能力があってこそだと、そのあたりは普段私がふらふらしているからか気付いていないようだが……。
「もしその男との子を私の子だなどと言ったり、無理に私の子を授かるようなことをしたら、君たちの一族をすべて滅ぼすから、そのつもりでいるんだね」
それだけ言って歩き出す。確かに好きでもない男に嫁がされその男との子を授かれなどと一族から期待されていた彼女は少々、可哀想かもしれないが。その家に生まれた不幸をせいぜい呪ってもらうしかない。すれ違う時に冷たく告げる。
「私は君を、愛してなんかいないんだよ」
さて、そろそろ伯岐に講談の感想を聞いてみようか。それで詩作をさせるのもまた面白いだろう。
私が伯岐に惹かれたのは、あの純粋無垢なところに憧れを抱いたからかもしれない。私はけっして清廉な男ではない。むしろ汚いことも次々と人を使い、やらせている。だから、その穢れのなさが眩しかった。
伯岐にあてがった部屋に行くため庭を横切ると、餌をくれると勘違いした池の魚が私のほうに寄り口をぱくぱくと開閉させている。ふと、歩くのをやめ暫しその光景を無心に見つめていた。
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