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晨光
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いつになくさわやかな朝だった。目を覚ますと、私を抱き締めて眠る仲影様がいる。その体温がとても暖かくて安心できた。
……あんなに感情をだれかにぶつけたのは初めてだった。自分でも何故だかわからないが、感情があふれてとまらなくて。それでも仲影様はそれを受け止めてくれた。
奥方様が私の部屋に入ってきて一方的に言い放たれて、反論もできないうちに帰って行ってしまったから。
仲影様は気づいていないようだが、奥方様はちゃんと、女の目で仲影様を見ていた。その眼が昔私を虐げつづけていたあのひとと重なって、身震いした。その刺々しい言葉が頭をぐるぐるとまわってずっと不安で怖くて、逃げ出したくても私にここ以外に帰る場所はなくて。
そんな私を仲影様は暖かく包んでくれた。だから、私ももっと、素直になろうと思う。もっと甘えて少しは我儘も言えるように……なれるといい。
するりと仲影様の腕の中から抜け出した。否応なく私の傷つけ続けて引き攣った傷だらけの腕が見えて、苦い気持ちになる。それを誤魔化すように静かに仲影様の寝顔を見つめ続ける。
本当に、仲影様は格好いいと思う。ずっと見ていたい。そう思っていると、不意に仲影様の瞼がゆっくりと開いた。仲影様の目は驚いたように見開かれ、そして……
確か先日同じような事をした気がする。身を引くのが遅れた私と身を起こした仲影様が思い切り額をぶつけ、二人して痛みに悶絶する羽目になった。
「お、おはよう……伯岐」
「おはよう、ござい、ます……」
ぐわんぐわんと反響して視界が揺れている気がする。仲影様は私を抱き締めてそれが治まるまで頭を撫でてくれた。それが心地よくて目を閉じて寄りかかる。
「昨日は悪かった」
「仲影様が謝ることは、何もないと思います」
そう、言い出せなかった私がいけないのだ。だから、仲影様はなにも悪くない。思い切りぶちまけてすっとして、だから今こうして甘えられる自分がいる。
「あのね、伯岐。昨日あんなに君に言わせてしまったのは、とある人からもらった符水を君に飲ませたからなんだ」
「符水……ですか」
「本心を暴くものだ、と言って渡されてね。それを使ったんだ。……すまない」
「仲影様は呪術的なものは信用されないのではないかと思っていました」
「普段は、ね。その人の腕は信用に足るから、使わせてもらった」
だから、私はあんなに素直に感情をぶつけられたのだ。いつも抑圧されていたものが取り払われてあんなに泣きじゃくって。堪えるものなど何もないと仲影様はずっと抱き締めてくれたのがとても嬉しくて。自分から添い寝を強請っ、て……!
途端に自分の耳まで赤くなるのがわかる。自分からだ。あの時、私はごく自然に自分から甘えていったのだ。
「素直に甘える君はとても可愛いよ。君はもっと年相応にふるまっていいんだ」
その言葉にこくり、と頷いた。頷くことができた。
いきなり扉を叩かれて思わず飛び上がる。仲影様はそんな私を笑いをこらえながら見ており、早くしなさい、と言わんばかりに私に目配せした。慌てて掛布に包まる私を見て、仲影様は使用人に入るように告げる。
服と朝餉を持ってきていたようで、それを置くと仲影様は使用人に下がるように指示していた。使用人がいなくなったところでやっと私は掛布から出る。仲影様は既に着替えを済ませ着衣を整えていた。
私も着替えなければ、と思っていたらひょいと目の前にあった着替えを取り上げられた。意味ありげに笑う仲影様にこれは一人で着替えさせてもらえないと悟る。おとなしく仲影様の前に立つと、てきぱきと着付けてくれる。鮮やかな緋色の布地が私の身体を覆っていく。
「ああ……妖艶でとても綺麗だ」
溜息まじりの感嘆の声。愛おしくてたまらないとでも言いたげでまた顔が赤くなる。髪を梳かれ、簪をさされてできたとでもいわんばかりに頭を撫でられた。
嬉しそうな仲影様は見ていて私も嬉しくなる。
この感情にまだどんな名前を付けていいかは、私にはわからないが。
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