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烏有
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出歩いてはいけない、などとは一言も雇い主にも言われてはいない。
とりあえずもらった前金を少しばかり持って街へ下りた。仕事の前に下調べもしたい。それに、そろそろ一度、楽しいことが起きないだろうかと思ってはいるのだが。
あの伯修とかいう男は何かを隠している。それを暴いてやらねばならない。仕事は完璧にこなされて然るべきだ。それに障害があればきちんと取り除かねばならない。
かたり、と腰に帯びた剣の鞘が鳴った。あくまでもあの男は仕事上の付き合いであって、私の真の相棒はこの片刃の曲剣のみだ。どこから伝わったものかは全く知らないが、国を滅ぼしたという魔剣であるらしい。
この相棒が催促するとは珍しいこともあったものだ。街中で鳴るな、とばかりに鞘に手をかけると、不服気に一度かたりと鳴ってそれから沈黙した。
しかし、どこから調べるべきか。あの伯修という男は自分の家を直前まで俺に教える気はないらしい。流石は私兵に堕ちても王の牙、といったところだろうか。抜け目ない。
いずれあの男とも決着をつけさせてもらわねばならない。だがそれは仕事が終わってからでいい。きっとその方がこの相棒も喜ぶ。
ふらふらと街を歩く。途中で瓜を購ってそれをかじった。粗食のほうが性に合う。
常に飢えた獣であれ。俺を剣客にした師匠はずっとそう言っていた。剣の冴えが違うという。刺突を主に置いた剣術ではなく、斬撃を主に置く師匠の剣はずっと評価されずにいた。
結局その技を継承したのは俺だけだ。というのも、師匠のもとを去る時、俺は初めて人を斬ったのだ。何とも言えぬ昂揚感に血が歓喜したのをよく覚えている。師匠は己を躊躇いなく斬り捨てた俺を見て満足げに息絶えた。
なにかにぶつかった。随分隻眼にも慣れたとはいえ、未だに普段は距離感がつかめないときもある。
「痛ってぇなぁ、兄ちゃん?顔貸せよ……」
「断る、と言ったら……?」
「いいからついて来いっつってんだろ!」
全く、哀れな奴らだ。犬でも自分より強いものには服従するというのに。ぐいと引っ張られ、連れてこられたのは人気のない山の中。そこで五人に囲まれた。
五対一で袋叩きにするつもりなのだろうが、相手を見る目がない。
「さあ、出すもん出してもらおうか……?嫌だって言ったら分かってるよなぁ?」
「お前らに出すものなぞ何もない」
不用意に近づいてくる馬鹿者の腹を、一閃。慄く馬鹿者達の中に飛び込んで剣を振るう。笑いが込み上げる。血が歓喜し、剣が悦ぶ。五人程度なら特に時間はかからない。一人くらい、腱だけ斬って動けなくしてからゆっくり仕留めるのもいい。
本当に俺を倒したければ、武装し訓練を重ねた兵を五十人ほど用意すればいい。ただのごろつき五人如きに負けるようなことがあれば俺の名前がすたる。
「お前、一体、何者だ……!?」
「これから死ぬ者に名乗る名などない」
どうも今日は興が乗らない。ゆっくり仕留めるのも面倒だ。剣を頸のところで一閃させ、振り返ることなくその場を後にする。
少し派手にやりすぎてしまったか。しばらく市街の警備が強化されてしまうかもしれない。仕事に支障があるとすれば、それは良いことではない。まあ抜け目のないあの男のことだ、突然の事でもどうにかするだろう。
相棒を収めた鞘がさも満足げに一度だけかたり、と音を立てた。
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