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安穏
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鄭良、字は仲影、宗国王都の人。桓王の子、荘公の後なり。
幼き頃より詩文を好み書画を嗜み、食客を養うこと百名余。特に寵愛せし血雲という詩人あり。血雲、異相の者なり。
―――宗書「奇人伝」巻の二
隣ですやすやと眠る伯岐を眺めながら、昨晩の出来事を反芻する。ついに一線を越えてしまった。
私の手で悶える伯岐の姿は筆舌に尽くし難く妖艶で歯止めが効かず思い切り貪ってしまった。
伯岐の額にそっと唇を落とす。と、ふと伯岐の瞼が開いた。私は咄嗟に身を引く。案の定、伯岐は慌てて起き上がった。二度やったことは流石に三度目までは繰り返さない。
私の行動に合点がいったのか、伯岐はくすくすと笑い出す。軽く唇を重ねた。
「おはようございます、仲影様」
「ああ、おはよう。……その、呼んでくれないのかい?」
昨晩のように呼んでくれないことを少し残念に思う。確かに、褥の中でだけでもいいと言ったがこんなにすっぱり呼ばれなくなるのも淋しいものがある。
「威厳のあって格好いい普段の仲影様も好きですから。それに、このほうが特別に感じませんか?」
前言撤回。どうして伯岐はこうも私を夢中にさせる言い方がうまいのだろう。確かに私の理想は昼は淑女夜は娼婦というものだが、どうしてこうもそれを突いてくるのか。
なんだか離れ難く、寝台の上で伯岐を抱きしめていた。使用人が扉を叩き、朝餉と着替えを持ってきたことを告げる。普段の伯岐ならここで大慌てして飛び上がり、掛布に包まっているのだが、今日はおとなしく私の腕の中でされるがままに抱きしめられている。
使用人が朝餉と着替えを置いて出て行くと、伯岐を離し着替えを始める。肌に擦れる絹の感触が心地いい。伯岐も着替えている。伯岐の肌を覆う黄色の布地がなんとも眩しい。着替え終えたらしい伯岐がくるりとこちらを振り返ってにこりと笑った。
「似合いますか?」
「ああ。とても綺麗だよ」
頬を染めて満更でもなさそうに微笑む伯岐に自然と私の頬も緩む。
朝餉を囲みなんでもないようなことを話しながら食べる。これがどんなに幸せなことかをよくよく思い知らされた。伯岐は今まででいちばん、輝いて見える。
使用人が器を片付けるのと同時に書簡を持ってきた。管瑯の名があり、羽が挟んである。火急の連絡らしい。
「仲影様、それは……?」
「管瑯からだ。火急らしい」
興味深そうに見る伯岐の目の前で書簡を開いた。ひらひらと羽が落ちる。
―――この間は突然で申し訳なかった。今回は書簡で失礼する。
商家が賊に襲われ、皆殺しにされた。当主は首を落とされまだ見つかっていない。最近こういったことが多すぎ、このままでは沽券に関わる。こちらでも調べさせているが、できれば協力を頼みたい。
内容はそんなところだ。しかしこんなものを見たらかなりの衝撃を受けるのではないかと不安になり伯岐を見れば、なにか諦めたかのようなふうに小さく溜息をついている。
「大丈夫かい……?」
「……はい。なぜだかわかりませんが、いつかこんなことになる気がしていました」
私にはさして衝撃ではない。おそらくこれは商伯修本人の仕業だ。これで死んだというそれだって、本当に伯修殿のものなわけがない。
管瑯は協力を依頼してきているが、まあ適当に食客たちにでも情報集めは頼めばいいだろう。私はせっかく晴れて恋人になれた伯岐と戯れるので忙しいのだ。
「……良いのですか?」
「今はとにかく君を可愛がり尽くしたいんだよ、伯岐」
書簡を置いた私に尋ねる伯岐にそんなことを囁いてやれば頬を染めて顔を伏せる。久々に訪れた安寧の時間を、かるくじゃれあいながら二人で堪能していた。
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