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隠逸
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「それで、何の用かな?左丘季丹殿」
珍しい来客だった。宮廷で独特の、孤高の位置を保つ左丘季丹というこの男。星を読み易を立て術を使うせいか、宮廷内で唯一の中立という立場を崩すことがなかったはずだ。
「星を見たら、死んだはずの貴公がここにいる、ということが見えたのでね。少し気になってきたんだよ」
「驚いたか?」
「貴公が生きていることは知ってはいたから特には。消息がつかめなかっただけで、ね」
やはりこの男はすべてを見通しているらしい。だからこそ、中立という立場をとり続けることができるし、中立という立場に拘るのだろう。どちらかに与すれば、必ずそちらを有利にしてしまう。それがわかった上での行動らしい。
「しかし、その左足は……」
「これで済んだだけましだ。父を盾にしたからな」
父と私だけのところを狙って襲ってきた賊どもは、財宝目当てではなかった。確実に、私と父を殺しにきていた。その日の予定は私と父以外に知る者は、あと一人しかいない。ないはずの左足が、木でできているはずの義足の内側が疼く。
「それで、貴公は何をしようとしているのかね」
「中立という立場を崩さないお前に言うとでも?」
私の返答に、この男は唇の端をゆがめて嗤ってみせた。本当に喰えない、恐ろしい男だ。まるですべてを知っているとでも言いたげなその眼に、ぞくりとする。
「貴公は魔帝になるつもりであろう?魔王を手に入れるために」
「……ああ」
喩えとはいえそれは的確に私の目的をついていた。確かにその通りだ。裏の世界に君臨し、魔王を手中におさめ屈服させる。ただそれだけの為に、私はここに居を構え狂剣と王の牙を私兵にした。
「貴公に魔王の心は向かんだろうさ。心を捉えて離さない者が、魔王には既にいるのだから」
「何……?」
だが、中立の立場にいるということは、どちらにも真実しか言わないということだ。つまりこの男の言っていることは真実である、そう断定していい。そうだとすれば非常に腹の立つことだ。私は魔王に凌辱という呪縛を施したのだ。私を忘れぬようにと。
それを破りのうのうと暮らしているというのか。だとすれば、許せない。
「それは、誰だ?」
「さあ、ね。それは知ってのお楽しみだ」
余裕綽綽で笑うこの男がまた癪に障る。苛立ちが抑えられなくて仕方がない。それを知ってだろうか、この男は席を立った。
「さて、小生はそろそろお暇させていただこうか」
「ああ。私の気が変わらないうちに帰れ。さもなくば私兵にお前を害させるかもしれん」
「くくっ、そんなことをする気は全くないだろうに」
嗤うこの男は、すべて見通しているのがとても厄介だ。できることならこの先関わって欲しくはないが、そういうわけにもいくまい。きっと面白がって頭を突っ込んでくるだろう。
「ではな、鄭伯陽殿。弟君に伝えたいことはあるかね?」
「『殺したいほどにあいしている』と」
きっとこの男が、私の伝言を愛する弟……良に伝えることはあるまい。
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